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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第二章

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37.貧者たちの住処

 王都バファレタリアでは、すべての民に税が課せられている。

 しかし、なかには税を払えぬ貧者たちが存在した。

 王都は、税を払えぬ貧者たちに優しくはない。

 貧者たちには、あらゆる権利がない。例えば、家を買う権利、裁判を起こす権利、商売をする権利。


 最下層に位置するその貧者たちは、無産者と呼ばれている。


 下級市民区画の片隅に無産者たちのコミュニティがある。

 いわゆる、スラム街というやつである。


 そのスラム街の一角に、ゴロツキ共の住処があった。

 そこは廃墟と化していた。

 かつては何らかの施設であっただろう石造りの建物は、完全に機能を停止し朽ち果てていた。


 扉のない入り口から中に入り、狭い通路を進んだ。

 しばらく進むと、奥の部屋から声が聞こえてきた。


「おい、ルグを回収できなかったってのはどういうことだ?」


「す、すんません! 奴らばっくれやがったんです!」


「ああ!? てめえはそれを許したってのか!」


「す、すんません!」


 ドスの効いた声と、怯えながら謝罪する声が聞こえた。


 アルゴとリューディアを先導した若者は、部屋に入るなり声を発した。


「アニキ、取り込み中のところすみません。ちょっとお話が」


 アニキと呼ばれた男は、若者に顔を向けた。


「ああん?」


 威嚇するように返事をした、アニキと呼ばれた男。

 その男は、大きな体つきをしていた。上背は百八十センチ程度。

 鍛え抜かれた筋肉。太い眉に三白眼。

 一目見て分かる。堅気ではない。放たれる威圧感がそれを証明している。


「いま俺は大事な話をしてんだ―――」


 アニキと呼ばれた男は、途中で言葉を止めた。

 視線がある一点で止まっている。

 その視線の先には、リューディアが居た。

 黄金の長い髪に、碧い瞳。美しいエルフに釘付けとなっている。


「その姉ちゃんは何だ?」


「は、はい。なんでもこいつら、俺たちの仲間になりたいみたいで。どうしますか?」


「なんだと?」


 アニキと呼ばれた男は、リューディアを舐め回すように見つめた。

 すると、凶相に笑顔を浮かべ、口を開いた。


「そうか! アンタみたいな可愛い姉ちゃんなら大歓迎だ! 俺はブルーノだ。よろしく頼むぜ」


 ブルーノは、詳細を聞くことなくリューディアを受け入れた。


 リューディアは笑顔で言葉を返した。


「あら、嬉しいわ。私はリューディアという者よ。ありがとうブルーノ兄貴」


「へ、へへ……兄貴だなんてそんな」


 リューディアにデレデレとなるブルーノ。

 リューディアを前にしては、大抵の男は似たような態度になってしまうだろうが、ブルーノは取り分け女に弱かった。


 リューディアは笑み浮かべたまま言った。


「できれば、彼とも仲良くしてくれると嬉しいわ」


「んん?」


「彼の名はアルゴ。こう見えて結構強いわよ」


 ブルーノはアルゴに視線を向け「貧相なガキだな」と吐き捨てた。

 リューディアに対する態度とは真逆であった。


 アルゴは右手を差し出した。


「アルゴです。よろしくお願いします」


 ブルーノは怪訝な表情で言う。


「なんだ、この手は」


「握手です」


「おい、てめえ。新入りのくせに俺と対等のつもりか?」 


「いえ、そんなことはないですけど。だめですか?」


「てめえ―――」


 ブルーノが怒りを爆発させる一歩手前で、リューディアが割って入った。


「待って待って。ごめんなさいね、ブルーノ兄貴。彼、ちょっと変わってるけど悪気はないの。ね、どうか仲良くしてあげて?」


「わ、わかったよ」


 ブルーノは怒りを収め、渋々ながらもアルゴの手を握った。


「これでいいか?」


「はい、ありがとうございます」


 アルゴは笑みを浮かべる。

 ブルーノは溜息を吐き、手を引っ込めようとした。

 しかし、引っ込めれなかった。


「てめえ、何のつもりだ?」


「何がでしょう?」


「何故手を放さねえ? マジで舐めてんのか?」


「あー、はい。どうしようかなって思いまして」


「はあ? 何言ってんだてめえ」


「小間物屋ダマンヤートって知っていますよね? あそこの店主からルグを脅し取るのを止めてもらえますか? もし素直に従ってもらえるなら、あなたの手を握り潰すのを止めておきます」


「て、てめえ……」


 ブルーノはアルゴを睨みつけた。

 それからアルゴとリューディアを連れて来た若者を睨みつけ、またアルゴに視線を戻した。


「はぁ……わーったよ」


 意外にも、ブルーノは怒りを収めた。


「俺にだって分かるぜ。てめえら強いな。てめえらとやりあっても勝ち目はねえ。だから降参だ」


「……分かってくれてよかったです」


 アルゴはそう言って、ブルーノの右手から手を放した。


 ブルーノはニヤリと笑った。


「馬鹿が」


 ブルーノの大きな右拳がアルゴの顔面目掛けて放たれた。


 ブルーノの先制攻撃は絶妙なタイミングであったが、アルゴは慌てなかった。

 顔をずらすことでブルーノの右拳を避け、お返しにブルーノの鳩尾に左拳を突き入れた。


「うっ……」


 ブルーノは小さく呻き、崩れ落ちた。

 アルゴは、勢いよく右脚を蹴り上げた。

 アルゴのつま先がブルーノの顎に直撃。


 ブルーノは大きく仰け反り、そのまま倒れ込んだ。

 ブルーノは意識を失った。


「て、てめえ! よくもアニキを!」


 ブルーノの手下が叫び声を上げた。

 その後、通路に向かって更に声を張り上げた。


「敵だ! 敵の襲撃を受けている! アニキがやられた!」


 通路に叫び声が響き渡った直後、ドタバタと足音が聞こえてきた。

 足音と共に、ゴロツキ共が部屋になだれ込む。


 ゴロツキ共は全部で十人。怒りの形相で短剣や棍棒を構えている。


「リューディアさん、すみません。穏便にいきたかったのですが……」


 リューディアはアルゴの右肩を軽く叩いた。


「問題ないわ。私は、初めから戦うつもりよ」


「そうですか。ならよかったです」


 ゴロツキの一人が、怒鳴り声を上げた。


「ガキと女! お前ら生きて帰れると思うなよ!」


 そして、戦いが始まった。

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