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20.私の望んだもの


 陽の光の射す明るいサンルームに困惑顔のエイデン様。

 凛々しくて賢くて優しくて頼りになる方だけど、ぽんこつなんだわ。


 私は近づいて青紫の小箱を差し出す。エイデン様は何も言わずに受け取った。この小箱は何度私達の間を行ったり来たりしたのかしら……。


 暫く間手の中の小箱を眺めていたエイデン様の眉間にぎゅっと力が籠もる。視線を上げて真っ直ぐに私を見て言葉を発した。


「お前は俺がどう結婚してくれって言えば満足なんだ?」


 思わぬ衝撃で目も口も盛大に開いてしまう。


「それです!!!」


「は?」


 私の淑女らしからぬ表情と大声にはたいして驚くこともなくエイデン様は眉間にシワを寄せた。


「私、一度もエイデン様から結婚したいって言われたことがありません!」


「……そうだったか?」


 エイデン様が指先を口元にあてて考える仕草をする。素敵……って、違う!


「そうですよ!エイデン様は私と結婚したいんですか?」


「そうだな」


「却下です!」


「は?」


「きちんと言ってくれないと却下します」


 少しだけ沈黙の時が流れる。


 じっと見上げていたエイデン様か静かに立ち上がり、私の手をすくい上げて軽く引いた。ソファから離れて窓際まで行ったところで振り返り、片膝をついて跪いた。もしかして……。


 陽光を受けてキラキラと輝く黒い瞳が真っ直ぐに私を見つめる。



「待たせて悪かった。俺と結婚してくれるか?」



「…………っ」


 体中が震える。こたえを言う前に涙が溢れてしまった。早く返事をしなくちゃいけないのにポロポロと涙がどうしても止まらない。私は声を出せずに何度も何度も頷いた。


 エイデン様も何も言わず、立ち上がって真っ白いハンカチを目元にあててくれた。落ち着かせるように優しく頭を撫でてくれる。やっぱり凄く好き。




「……落ち着いたか?」


 涙が止まりかけた時、すぐ傍でエイデン様の声が聞こえてきた。……どうしたらいいの。凄いドキドキする。それに私きっとヒドイ顔してるわ。

 俯いたまま頷くと静かに動く気配がして、すくい上げられた指に優しく触れられた。その感触で確信する。


 ――指輪だわ!


 そっと目を開けて自分の手を見る。


「…………え?」




 そこには、私には到底不釣り合いな物凄い存在感の指輪があった。これ、ブラックダイヤモンドよね……?それにしても大きいわ。ひと目でとんでもなく高価なものだとわかる輝き。

 凝視しているとエイデン様が説明してくれた。


「母が曽祖母から譲り受けたものだ。黒色を受け継いだ俺の伴侶に相応しいからお前に譲ると」


 エイデン様のお母様の上品な笑顔を思い浮かべる。幼い頃からとても優しくしてくださったわ。こんな大切なものを譲ってくださるなんて……、


 ……………………ん?


 ということは、エイデン様はこの指輪を風船で飛ばしたり、ケーキと一緒に並べたり、ココの首にぶら下げたりしてたってこと?


 私は勢いよく顔を上げる。目があったエイデン様は不思議そうに首を傾げた。これは言わずにいられないわ。




「エイデン様って、意外とぽんこつですよね」


 その言葉にエイデン様の眉間にぎゅっと力が入った。


「…………すまない」


 自覚はあったのね……。珍しくたじろいで落ち着かない様子のエイデン様を見つめる。

 ……そんな姿も可愛く感じてしまうのだから仕方がないわよね。思わず笑ってしまう。


「いいんです!私はエイデン様のぜぇぇんぶが大好きなんですから!!」


 私はエイデン様にぎゅっと抱きついた。エイデン様素敵!可愛い!好き!幸せ!


「……そうか」


 エイデン様の優しい声。その手が私の背中に触れるのを感じた途端、衝撃が走った。


「ふぁっ……、…………っ!!!」


 思わず崩れ落ちる。エイデン様が咄嗟に抱きとめてくれたけど次の衝撃に襲われた。


「どうした?!」


「ダイジョブです……」


 何とか体勢を整えて腕から離れる。マズイわ!私の中のすべてが落ち着かない。


 ……そういえば今まで私から抱きついたりしがみついたりすることはあっても、エイデン様から触れられることは無かったわ。せいぜい頭を撫でられるくらい。耐性が無さすぎるんだわ。


「おい、本当に平気か?顔色も変だぞ」


 少し節ばった細い指がそっと頬に触れた。もう、ダメかも。思わず体が避けてしまう。


「あ、すまない……」


 触れられるのを嫌がったと解釈したエイデン様が手を引こうとする。咄嗟にその手を掴んだ。私からならやっぱり平気。


「違います!イヤとかじゃないです!」


 むしろ本当はどんどん来てほしいです。大歓迎です!


「けど緊張してしまうので、その、少しずつでお願いしたいと言うか……」


 でないと天国に近づいてしまいそうなんです。どう伝えるべきかと落ち着きなくワタワタしている頭の上に、ふんわりと手のひらが置かれた。私は視線を上げて、止まる。


 エイデン様がとても嬉しそうに笑っていたから。


「大丈夫だ。わかった」


 体中を何かが音を立てて駆け巡る。


 ふぉぉぉぉ…………。


 目をそらすことなく自分を落ち着かせるために息を吐く。ますますエイデン様は楽しそうに笑った。


 ココを連れてきてくれた日の幼いエイデン様と重なるわ。ううん。あの時よりずっとずっと素敵。


 黒い瞳が優しく私を見つめている。




「俺はお前の望みを叶えることはできたか?」




 目の前がキラキラと輝きだす。


「もちろんです!大満足です!大成功です!」


 私はまた性懲りも無なくエイデン様に抱きついた。今度は少し遠慮がちにそっと頭を撫でてくれた。優しい。好き。




 エイデン様を諦めないでよかった。






 こうして私達は無事、婚約者になったのだった。



 





ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


メリッサとエイデンのお話は一旦完結とさせていただきます。続きも考えてはいるので、よろしければその時はまたお付き合いください。

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