閑話「花より談合」
時空系列はオタク君が高校2年生になったばかりのお話です。
4月某日。
オタク君はチョバム、エンジンと共に県内で最大級の公演へ花見に来ていた。のだが。
「盛り上がらないね」
「盛り上がらないでござるな」
「全くですな」
1月から始まったアニメ、そのラストが登場キャラたちが花見をして大団円で終了だった。
それを見たチョバムが言い出したのだ。花見に行こうと。
アニメを見た直後のオタク君とエンジンは、もちろん即OKを出し、休日に花見をする事になった。
そして花見をし始めて1時間。既に飽き始めていた。
普段からこういったイベントとは疎遠の3人が集まったところで、楽しめるわけがない。
せめて何をするのか計画を立てていれば良かったのだが、ノリと勢いで決行したオタク君たちにそんなものは当然ない。
始めの内はオタク君達も桜に興奮し、スマホ片手に写真を撮ったりしていた。
道行く人の多さや、公園で遊ぶ子供たちを見てほっこりしながら。
「そろそろお昼だし、何か食べる?」
「それは悪くないでござるが……」
見た目の通り、大食いであるチョバムが歯切れ悪く答える。
その反応の理由を、オタク君もエンジンも理解していた。
「高い、ですな」
決して量が多いわけではない屋台。
だが、量に反して価格はイベントなので割高。
もしチョバムが満足するレベルで食べようとすれば、結構な金額になる。
それは学生にとっては大きい出費。
チョバムに限らず、オタク君やエンジンでも同じ事。
遠いところまで足を運び、激安弁当を買ってこれば安く済ませれなくはない。
残念ながら、無計画なので、そんなものは用意していない。
「どこかゲーセンか、アニメショップ寄ってから帰る?」
「そうですな」
このまま帰ろうか。そう思った時だった。
「あれ、オタク君たちじゃん。おーい!」
聞き覚えのある声に、オタク君、エンジン、チョバム。
それと彼らと同じく、アニメに影響されて花見に来てたオタク達が振り返る。
(えっ、オタク君って呼ばれるオタク本当に居たんだ)
「優愛さん!?」
「オタク君たちも来てたんだ」
オタク君が驚いたのは優愛が居たからだけではない。その程度なら「優愛さんもお花見に来てたのか」程度であった。
驚いたのは、優愛と一緒に居る人物たちを見たからである。
「あら、オタク君とそのお友達もお花見かしら?」
「コミフェ以来だね。良かったらこっちでお話でもしませんか?」
そこには、シートを敷いて、色とりどりのお弁当箱を並べている鳴海家が居た。
一緒にどうかと誘われても、せっかくの家族団らんに入り込むのはオタク君もエンジンもチョバムも気が引ける。
普通の一家だったら、適当に理由をつけて逃げ出したい盤面。
だが、相手は有名S社のお偉いさん。
オタクとしては聞きたい話が多すぎる。
将来的にはオタク的な職業に就きたいと思うのは、オタクなら誰もが考える道。
現役で働いている業界人から色々と聞けるのはまたとないチャンス。
「良いんですか? 他に親戚の方が来るとかはないんですか?」
遠慮がちに、自分たちが一緒に入っても良いのか確認するオタク君。
そんなオタク君たちの気持ちを察してか、優愛の母が微笑む。
「ええ、私達だけよ。それとお弁当を作り過ぎちゃったから、食べて貰えると助かるわ」
「それなら、チョバムもエンジンも良いかな?」
「勿論構わないでござるよ」
「某も問題ないですぞ」
割りばしと取り皿を受け取ると、唐突にお腹の虫が鳴り始める。
「ところで、優愛は迷惑かけたりしてないかしら?」
「そんなことないでござるよ」
「某みたいな陰の者たちにも、仲良くしてくれるですぞ」
「ははっ、まるでオタクに優しいギャルみたいだね」
優愛の父が笑って言うと、オタク君達が苦笑いで答える。
今まで頭の片隅で思っていたが、口にしなかったその言葉に。
更に言うと、自分の両親と同じくらいの男性の口からオタク会話が出た事に内心驚きを隠せなかった。
自分たちの親はというと、あまり口うるさくは言わないが、良く分からないアニメを良い歳して見てるという空気を醸し出している。
こんな父親が居たらな、そんな風に考えるオタク君たち。
優愛の父親のその言葉が皮きりだったのだろう。オタク君たちから遠慮が消えオタク会話が始まる。
あまり娘とはそういう話をする事はなく、なんなら息子が出来たらこんな風に話してみたかった優愛の父。
盛り上がらないわけがない。
完全に花見を忘れ、オタク会話を楽しむチョバムエンジン、そして優愛父。
そんな優愛父はそっちのけで、オタク君につきっきりの優愛母。
普段の優愛は学校では忘れ物がないか、勉強をちゃんとしているか。
そもそもちゃんと学校に通っているか。
優愛が少しだけ恥ずかしそうにながらも、オタク君を通じた自分の評価が気になるためにあまり口出ししない優愛。
始めの内は優愛の事を色々聞いて来た両親も、オタク君が面倒を見てくれている事を再確認し、娘の話はほどほどに、チョバムやエンジンに業界や昔のオタク事情の話で花咲かせている。
「ねぇねぇオタク君、あっちで桜めっちゃ咲いてるから見に行かない?」
「そうですね」
自分たちばかりが話していたせいで、あまり話に参加出来ていなかった優愛。
もちろん、気の利く性格のオタク君はそれに気づいていた。
「良いですよ、行きましょうか」
なので、優愛の提案を快諾。
「それじゃあちょっと行ってくるけど、チョバムとエンジンはどうする?」
「拙者たちはここで鳴海殿のご両親からお話を聞くでござる」
「行ってらっしゃいですぞ」
「うん。分かった」
返事をして、仲良く歩き始める2人。
そんなオタク君と優愛を、チョバムとエンジン、優愛の両親。
そして、オタク君と呼ばれる存在が実在した事に興味を持ち聞き耳を立てていた野次馬たちが全員同じように笑顔で見送る。
オタク君、頑張れと。
もちろん、オタク君も優愛も、そんな風に思われている事などつゆほども知らない。
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