閑話「からかわないで、リコさん」
時期的に107話の後の話です。
その日、リコの中で衝撃が走った。
弟から何気なく借りたラブコメ漫画「からかわないでメスガキちゃん」。
内容はメスガキヒロインが、さえないオタク主人公をからかうという内容。
主人公が終始ドキドキしながら、メスガキヒロインが時折大胆なからかい方をする。
小さい女の子のからかいに、主人公がなすすべもなくドキドキさせられる。そんなシーンを見てリコもまた、ドキドキしていた。
(これを小田倉にやったら、どんな反応をするかな)
彼女は普段からその身長故に、いじられたりからかわれたりする事が多い。
だからこそ、勉学などで優秀な成績を納めマウントを取ろうとしたがる癖がある。
優愛やオタク君が相手なら、彼女は成績で負ける事はそうそうない。
だが最近は委員長が一緒にいるせいで、成績マウントが全く取れなくなっていた。
こっそりマウントを取ろうとしても、どこからか委員長が現れるので。
とはいえ、そんな癖もオタク君や友達と仲良くなるにつれ鳴りを潜めていたリコ。
そんなリコが漫画とはいえ、マウントの取り方を知ってしまったのだ、何も起きないはずがない。
いそいそとスマホを取り出すと、早速メッセージを打ち込み始める。
『明日休みだけど、小田倉の家に行って良いか?』
『良いですけど、どうしました?』
送信先は、当然オタク君である。
『またゲームの特訓を頼みたくてさ』
『分かりました』
何時に集合か決めると、リコは漫画を読むのを再開する。
どんな風にメスガキが主人公をからかうのか勉強するために。
(明日小田倉がどんな反応するか楽しみだ)
そう、マウントを取るためにやるのである。
決して、なんだかんだでドキドキしながらヒロインの事が気になっていく主人公を、オタク君と自分に重ねて見ているわけではない。
(小田倉のヤツ、アタシでもドキドキするのかな。してくれる、かな)
布団に入り、ゆっくりと目を閉じ明日に備えすぐに眠りにつく……わけがなかった。
「……眠れん」
どんな事をしようか楽しみ過ぎて眠れず、クローゼットやタンスを開けて明日何を着ていくかの準備をしたりし始める。
結局彼女が眠りにつくのは時計の針が12時を過ぎてからだった。
「リコさん、こんにちわ」
「おっす」
時刻は昼過ぎ。
オタク君の部屋まで上がったリコが、少しだけ落ち着かない様子で座布団の上に腰を下ろす。
「そういえば、家族は誰もいないのか?」
「うん。全員夕方まで出かけてるから」
「そうか」
オタク君としては、母親が家に居たら絶対に冷やかしにあうだろうと事を考えると、居ない方が好都合。
だが、それはリコにとっても好都合であった。
(ふぅん、誰もいないのか)
オタク君に対し、どんなからかい方をしようか考えていたリコだが、一つだけ懸念があった。
それは急に家族が乱入してくる可能性である。
母親というのは子供が異性を家に連れてきたらからかいたがる生き物。
だからこそ、急に乱入されても良いようなからかい方を脳内でシミュレートしていた。
しかし、家族が誰もいないという事は、それよりも大胆なからかいが可能という事になる。
そして、彼女は誰もいない空間においては、大胆な行動に迷いがない。
「それじゃあ、今日もここに座らせて貰おうかな」
「えっ、リコさん!?」
隣に座り、ゲームの準備をしていたオタク君の足の間にすっぽりと挟まるリコ。
「こっちの方が教えてもらいやすからな」
「そ、そうですか」
「あれぇ? もしかして小田倉、恥ずかしがってるのかぁ?」
昨日、鏡の前で頑張って練習したメスガキ顔。
普段なら、気にしてませんというのを必死に出すリコだが、今日はそこにニヤニヤといった笑みまで含めている。
内心はドキドキし、今にも顔が真っ赤になりそうなのを我慢しながら!
(完璧に決まったな、次はどうからかってやろうか)
そんな風にからかわれれば、当然オタク君も。
(リコさん……そうか、普通だったらこんなに密着するなんてリコさんだって恥ずかしいはず。それなのに僕を気遣ってくれるなんて……)
突如、背中からバシンという音とが聞こえ、思わずビクつくリコ。
振り返ると、両頬を赤くしたオタク君が、真剣な表情でリコを見ていた。
「分かりました。リコさん、それではまずこのゲームから行きましょう」
(リコさんは弟に勝つために真剣なんだ。だから、僕も真剣に向き合わないと!)
腫れ物を触るようにビクビクしていたオタク君が、吹っ切れたように後ろからリコを包み込むように抱き込むと、コントローラーの上に手を重ねる。
「お、小田倉?」
「大丈夫です。リコさん苦しかったりしたら言ってくださいね」
「べ、別にこの程度平気だし」
思わずリコが上ずった声で返事をしてしまう。
この時点でパワーバランスは既に反転していた。
テレビに映し出されるレースゲームの画面。
レースゲームでショートカットのコツを、一つ一つ丁寧にリコの耳元で説明するオタク君。
オタク君に対し、いつもより何割か小さな声で返事をするリコ。
「良く出来ました」
「ふぇ……お、おう」
上手く出来たリコに対し、オタク君が頭を撫でながら褒める。
普段と違い、自発的に動くオタク君に対し、むずかゆい気持ちがリコの中で溢れていく。
それからオタク君の家族が返ってくるまでの数時間、リコはオタク君に分からされ続けるのであった。
「くっそ、今日は調子が悪かっただけだし。次こそは!」
帰宅し、やっと冷静になったリコ。
今度こそオタク君をからかうために、「からかわないでメスガキちゃん」を読みリベンジに燃える。
が、しかし。
「……っ!?」
数ページ見ては、顔を赤らめすぐに目線を逸らしてしまう。
何故なら今のリコは、メスガキではなく、からかわれる主人公に対し共感性羞恥心を感じてしまっているので。
それでもリベンジのためにと読み進めるが、メスガキが後ろから主人公に抱き着き「大丈夫?」とからかうシーンを見て、オタク君に後ろから抱きしめられながら「大丈夫?」と言われるシーンにリコの脳内で変換されてしまう。
昼間の事を思い出し、居ても立っても居られない状況で布団に潜り込み、声にならない叫びをあげる。
(次こそは、次こそは!!)
悲しい事に、彼女の頭に浮かんだ台詞は、からかわれた主人公がメスガキに負けた時のお決まり文句である。
オタク君さぁ……
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