閑話「めちゃ美で行こう!!」
時期的に、最終話のちょっと後(1月くらい)のお話です。
「新作ネタが思い浮かばないでござる」
放課後の第2文芸部の部室で、一人頭を抱えるチョバム。
同人サークル「第2文芸部」の出した「オタク君に優しいギャル」シリーズはどれも好評。
SNSでは早くもファンから「新作はまだですか?」などと催促が飛んでくるほどに。
そんな期待に応えようとすればするほど、焦りからネタが思い浮かばなくなってしまう。
スランプに陥った彼が、それでもどうにかせねばと悩みに悩んだ末の結論。
(小田倉殿、すまないでござる)
それは、オタク君を覗き見である。
普段からオタク君がハーレムを形成しているのを傍目から見てはいるが、それは自分たちの目が届く範囲の出来事。
もしかしたら、自分たちに遠慮して、普段の優愛たちは抑え気味なのかもしれない。そう思い、掃除用具入れへとその身を隠した。
(いや、やっぱりやめておくでござる)
掃除用具入れに入って数分、考えれば考えるほど罪悪感が増していくチョバム。
流石にこれは友情のラインを超えていると、良心の呵責に苛まれ、掃除用具入れから出ようとした時だった。
「あれ、誰もいないのに部室のドア開けっ放しだ」
部室に入ってきたオタク君が首を傾げる。
オタク君が入ってきた事で、チョバムは思わず掃除用具入れから出ようとした手を引っ込めてしまう。
一瞬出るタイミングを逃してしまったチョバムだが、もう一度掃除用具入れのドアに手を当てる。こうなったらオタク君がパソコンの前に座ったタイミングで飛び出して「ドッキリ作戦」と言い張り誤魔化すために。
だが、タイミングが悪い時というのは、とにかく悪くなってしまうものである。
「相方、どうしたんすか?」
「いや、部室の鍵が開きっぱなしでさ」
「確か昨日はチョバム先輩とエンジン先輩が『2人で案出ししたいから、2人きりにして欲しいですぞ』とか言ってたから、犯人はどっちかっすね」
「そうだろうな。2人とも、それだけ新作のネタに難航してるんだろうな」
全く仕方がないなと言って、パソコンの前に座るオタク君。
そんなオタク君に、後ろから抱き着くような形でめちゃ美がもたれ掛かり「相方、それよりこれ見てくださいっすよ」とスマホの画面を見せる。
「めちゃ美、近いって」
「これくらい相方と自分の仲じゃないっすか」
笑いながら、悪びれる事なくスマホの画面を指さし「これ良くないっすか」と喋り続けるめちゃ美。
軽くため息を吐くと、オタク君もめちゃ美の距離感にそれ以上言及する事なく、オタク会話が始まっていく。
そして、チョバムはというと。
(完全に出るタイミングなくなったでござる……)
普段のめちゃ美は、誰かが居る時はオタク君にこんな引っ付き方をしたりはしない。
それは恥ずかしいからとかではなく、単純に優愛たちに遠慮しているから。
だが、こうやって長年相方をしていたオタク君と、アニメや漫画のようなオタク会話をしたい。そういう願望を持ち続けていた。
なので、誰もいないときはこんな風にオタク君に構ってアピールをしていたりする。
初めの頃はオタク君も、めちゃ美の態度に驚いていた。
だが、優愛たちのスキンシップと比べれば、めちゃ美はそこまで激しくない。明らかに比べる相手がおかしいのは別問題として。
「相方、このキャラこの角度から見ると、パンツと下乳が見えて2倍お得に感じないっすか!?」
それに、会話内容が完全にダメなオタクなので、オタク君としてはめちゃ美の事を、もはや異性としての意識すらなくなっている。
オタク君から見ためちゃ美は、弟みたいなものだろう。
「相方。自分このキャラをイメージしたファッションしたいっすけど、どうしても似たようなパンツないんすよ。どっかにないっすかね?」
「聞く相手間違ってるだろ。流石に女性物の下着を僕が詳しかったらヤバイって」
「確かに!」
そう言って同時に「ガハハ」と笑い合うオタク君とめちゃ美。
傍から見れば、イチャイチャしているバカップルにしか見えない。
(こ、これでござる!!)
優愛たちが似たような事をすれば、どこか照れて恥ずかしそうにしていたオタク君だが、めちゃ美に対しては全くそう言った素振りを見せない。
今までとは違うアプローチに、チョバムが興奮しながら脳内でネタを形成していく。
恋愛感情0、距離感バグりちらかしのオタクとギャル。
物音を立てないよう、慎重に、それでいて迅速にスマホを取り出し、忘れないように今の感情をメモっていくチョバム。
だが、そんなオタク君とめちゃ美の状況は長く続かなかった。
「やほー」
優愛の登場によって、めちゃ美がいつもの距離感に戻る。
めちゃ美の反応に、特に言及するつもりはないオタク君。
「おっす。あれ小田倉とめちゃ美の2人だけ? チョバムとエンジンは?」
「エンジンはチョバムが同人のネーム書いてくれないからやる事がないって言って今日は来てないよ。その割には浮かれてたから、多分詩音さんとデートじゃない?」
「相方、それ詳しくっす! オタクとギャルのデートについて詳しくっす!」
その後もリコ、委員長が部室に来ていつも通りの時間が過ぎていく。
下校の時間になり、オタク君たちが部室を後にする。
「ふっふっふ、拙者、インスピレーションが湧きまくりでござる!」
部室に誰もいなくなったのを何度も確認し、ゆっくりと掃除用具入れから出てくるチョバム。
その顔は、憑き物が落ちたように爽やかであった。
後に新作の同人誌「オタク君に優しい恋愛感情も距離感も0なギャル」を出し、一世を風靡する事になる。
「流石にこんなギャルは居ないっすよ。ファンタジーっすよ」
明らかに自分の事をネタにされているが、それを口にしたら普段からオタク君にこういう事絡み方をしているのかと詰められそうなので、あえて内容に否定的な意見をするめちゃ美。
(このギャル、めちゃ美に似てる……)
残念だが、めちゃ美の努力の甲斐も虚しく、後日「この子めちゃ美ちゃんに似てない?」と遠回しに詰められたのは言うまでもない。




