閑話「オタクキャスト」
閑話「DOKIDOKI第2文芸部+」のちょっと後のお話です。
オタク君のクラスメイトである金髪ギャルの優愛。
彼女がいつものように教室でオタク君と話しているとある事に気付く。
「ねぇ、あれってチョバム君とエンジン君じゃない?」
「ははっ、きっと気のせいですよ」
教室の外からこっそりとチョバムとエンジンが覗いていたのだ。
優愛が彼らに視線を向けると、急いで隠れ見つからないようにしているが、当然バレバレである。
「声かけなくても良いの?」
「大丈夫ですよ。それより優愛さん、このネイルとか綺麗じゃありませんか? 今度作ってみましょうか?」
「なにこれ、めっちゃ綺麗じゃん! マジで良いの!?」
「はい、新しいのにも挑戦してみたかったので」
声をかけようと提案する優愛だが、話題逸らしに必死のオタク君。
必死の話題逸らしの甲斐あってか、優愛はすぐに興味をネイルに移した。
初めの頃は気にしていた優愛も、段々と気にならなくなり、気づけば二人の事などそっちのけでオタク君に話しかけていた。
「ねぇねぇ、あの二人今日も来てるよ」
「毎日なんなんだろうね」
(全く。あんな変な目立ち方してたら、話しかけるの恥ずかしいよ)
オタク趣味を隠し、一般人に擬態しているオタク君にとって、今のチョバムとエンジンは流石に話しかけづらい。
彼らが何を考えているのか分からないが、無視を決め込んでいた。
(放課後になったら部室で文句言ってやろう)
だが、この日オタク君が彼らに文句を言う事はなかった。
放課後の教室。オタク君が部活に向かうため帰り支度をしていると教室のドアが開かれた。
「小田倉、わりぃ。この後ちょっと付き合ってくれないか?」
「良いですけど、どうしました?」
声をかけてきた主は、別クラスの(身長的意味で)小ギャルであるリコ。
リコは少し照れくさそうに髪をいじりながら、口を尖らせた。
「この前やってくれたストレートなんだけどさ、自分でやると上手くいかねぇから、やり方教えてくれるか?」
リコの髪は真っ直ぐな奇麗なストレートだが、毛先が一部カールしている。
それはそれで可愛らしいのだが、本人はそれが気に入らないらしく、指でいじったりしている。
「えっと、良いですけど……」
少し歯切れの悪い返事をするオタク君。
やるのはやぶさかではないが、ヘアアイロンを持っていない。
家まで取りに帰れば時間がかかる。
「じゃあウチに来なよ! 私もリコの髪で遊んでみたい!」
良い事思いついたといわんばかりに手を叩き、二人の会話に優愛が割り込む。
どうよと尋ねる優愛に、特に反対意見のないオタク君とリコ。
行った事がある場所で、優愛の家ならヘアアイロンもあるので断る理由は特にない。
「ったく、オモチャじゃねぇぞ」
めんどくさそうにため息を吐くリコをオタク君が宥め、優愛がからかいながら三人は教室を出て行った。
オタク君がギャル達と楽しく下校をしている頃。
「小田倉殿。申し訳ないでござる」
「チョバム氏。いうなですぞ」
第2文芸部にある掃除用具入れの中で、チョバムとエンジンが部室の様子を隙間から覗いていた。
「これも『オタク君に優しいギャル(同人誌)』のためでござる。ってかエンジン殿近いでござる」
「そうですな。小田倉氏がギャル達とどんな風にしているか観察させてもらうために……狭いのはチョバム氏が太り過ぎだからですぞ」
そう、彼らがオタク君のクラスを覗いていた理由は、同人誌のためである。
リアルなオタク君に優しいギャルを知るために、オタク君と優愛、リコの様子を見ていたのだ。
教室の会話のデータは取れたので、次は部室でどんな会話をするかデータを取るために掃除用具入れの中に隠れて見ているのだ。
だが、待てど暮らせどオタク君たちがやって来る様子はない。
オタク君たちは帰ったのだから当然である。
それを知らないチョバムとエンジンは、ただ待ち続けていたのだ。
がらりと、控えめな音を立て第2文芸部のドアが開かれた。
オタク君と優愛とリコはいないというのに。
「誰もいない?」
ドアを開けた主は、委員長である。
元は地味で清楚な女生徒だったのだが、今はド派手なピンク頭に地雷系メイク。
制服もそれに合わせ改造し、以前の彼女を知る物が見れば驚くほどの様変わりをしていた。
(委員長だ!)
だが、それだけ変わったというのに、チョバムとエンジンは彼女が委員長だと一目で見抜いた。
以前委員長が彼らの前でオタク君の趣味の画像や地雷系のメイクを調べていたからというのもあるが、それだけではない、何かを感じ取り委員長だと気づいたのだ。
ふらふらと幽霊のような足取りで部室を歩き回り、キョロキョロと見回す委員長。
(やばいでござる。気配を消すでござるよ)
(分かってますぞ)
掃除用具入れの隙間から委員長を見て、ビビリながら息を潜める2人。
(あれ、掃除用具入れに誰かいる?)
だが、大の男二人が入っていれば、ちょっとした動きでロッカーの壁からこすり合わせたような音が出るのは当然である。
すぐに異変に気付き、真っすぐに掃除用具入れに向かう委員長。
「誰かいますか?」
不安になり、思わず声をかける委員長。
その声にもっと不安になるチョバムとエンジン。
(頼む、開けないでくれ)
そんな二人の思いも虚しく、掃除用具入れの扉が開かれた。
「……」
完全に無言である。
委員長にビビリ言葉の出ないチョバムとエンジン。
対して委員長は。
(えっと、イタズラで隠れてたんだよね。何か面白い返しをしなきゃ)
完全に勘違いである。
何か面白い返しがないか考える委員長。
そこで、とあるアニメの有名なセリフを思い出した。今の状況はピッタリなセリフ。
「中には誰もいませんでしたよぉ」
そう言って、ゆっくりと掃除用具入れの扉を閉めた。
チョバムとエンジン。もはや失神寸前である。
戸を閉めると同時に下校を告げるチャイムが鳴り響く。
「……帰ろう」
少し軽い足取りで委員長は部室を後にした。
(うふふ。掃除用具入れか、今度私も入ってイタズラしてみよう)
誰もいなくなった第2文芸部。
ゆっくりと音を立て掃除用具入れの扉が開く。掃除用具入れの中でガタガタ震える涙目のチョバムとエンジン。
彼らにとって、掃除用具入れはしばらくの間トラウマになったのは言うまでもない。
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