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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第四十八話 レオーネ姉妹


フロウに盛大に窓から追い出され、お世話になった人達に挨拶に行くため城内を歩き回ることまた暫く。

今回はフロウがノフティスがいるかもしれないエミュリスの部屋の場所を書いたメモをくれたので、スムーズに辿り着くことができそうだ。



「しかしフロウが思ってたより繊細だったとはね~」


「別に良いわよね、二十二歳。私達なんて歳だけ数えたら千越えてるのに」


「こんなところにも種族ギャップだよ。まあ天使や悪魔(わたしたち)みたいなスピリチュアルな種族は、生きた年数が多い程力が増すけど、長命な種族はともかく人間は長生きすると力がなくなってくからね~」


「…多分そういう話ではないわよ?」


「え?じゃあどういう話?」


「…強いて言えば乙女のプライドじゃない?」


「…成る程、二十歳越えた女の子に歳の話はNGって言うしね」



一人の乙女の意地に触れた私達は何故か空しい気持ちになり、会話が途切れてしまう。

流石氷系統魔法を扱う彼女は話題に出るだけで私達の楽しい雰囲気も冷ましていくのか。

今の段階であれなら三十路に突入したらどうなんだろうと思ってみたりもしたが、本人に言ったら氷漬けにされることを用意に想像できるので、本人の前では絶対に口に出そうとしないと決意したのだった。


そして目的のエミュリスの部屋に到着した。

木製の扉をコン、コンとノックする。



「ノフティスかエミュリスいる~?」


「んな友達の家に遊びに行くみたいに…」


「似たようなもんでしょ」



若干フィリアに呆れられながらもノックを続ける。

なんなら扉の奥でこちらに出ようとした気配を感じながらもしつこいくらい扉を連打した。



「うるさい!!なにしに来たのさ!」


「おー、本当にいた。元気ー?」


「久しぶりね。二週間くらいぶり」


「…君達か。何の用?」



相変わらず気だるげで眠たそうな表情で出迎えたのは、目的の人物であるノフティス。

今はサイドテールを下ろしていて、髪も所々跳ねているのでとてもだらしなく見える。

だが所々に巻かれている包帯が痛々しい。

でもこうして改めて見てみるとエミュリスと髪の色以外は雰囲気とか結構似てるんだなと思う。

やっぱり血縁とはそういうものなのか。



「荒んでるって聞いたから、挨拶兼お見舞いに来たよ」


「…いらない。あいさつならもう良いでしょ?ほら帰って…」


「およ?ミシェルさんとフィリアさん、来てくれたんですか?」


「あ、お姉ちゃん…」



そこに後ろから歩いてきたのは、先程フロウと壮絶なおいかけっこをしていたエミュリス。

背中に身長より大きい見るからに重そうな弓を背負っているのにも関わらずあんなにすばしっこかったのは圧巻だった。

と、エミュリスは私達の手を引いた。



「ほら、立ち話もなんだし、入って入って!」


「ちょっ、お姉ちゃん!?」


「あ、お邪魔しまーす」


「悪いわね、失礼するわ」


「君達も躊躇いとかないの!?何で普通に入ってくるの!?」


「ほーら、今のノフティスには色んな人と話す必要があるとお姉ちゃんは思ってるよー?」



立ち塞がって止めようとするノフティスを腕力で強引に、しかし転ばしたりしない程度に繊細に押し退け、無理やり私達を部屋に引き入れるエミュリス。

こういう何気ない一場面でも黄道十二将星(セレスティアルライン)である彼女達の技量の高さが伺えた。


それはともかく、部屋に招かれた私達は座布団に座らされ、ノフティスとエミュリス…レオーネ姉妹に向き合う。

エミュリスの部屋はフロウの部屋とはまた違ったタイプでお洒落だ。

熊の人形やフワフワとした小物で普通に女の子らしい可愛い部屋。

ベッドが二つあったり色々と生活用品が二人分あるのはノフティスのためだろう。

が、先程下ろし壁にかけられた巨大な弓が仰々しい…のは無視することにした。



「…いや何これ?保護者面談か何かでもするわけ?」


「良い質問だね我が妹よ!そう、今から君に試練の時間だ!」


「ノリの良いお姉ちゃんで良かったわね」


「良くない!」



ここにきてツッコミが冴えてきたノフティスは謎のテンションで場を回そうとする自らの姉に冷たい視線を向ける。



「…さて、ふざけるのはこれくらいにしてと」


「ふざけてるってはっきり言ったよね?」


「そんなこと言ったかな?」


「言ってないんじゃない?」


「言ってないわよね?」


「君達も乗らなくていい!」


「ほらー、元気な声出せるじゃん。ここ暫くダウナーな感じだったのが嘘みたいだね」


「それは…」



そう聞かれると突如しおらしくなるノフティス。

先日の件で自信を失くしていると聞いたが、思っていたよりも複雑そうで、私達が踏みいるべき問題かと一瞬悩む。

しかし、だ。

私の行動原理は手の届く範囲なら迷いなく人を助ける。

届かないなら無理してまで手を伸ばそうとは思わないが、それでもたった一人の女の子のメンタルカウンセラーくらい上等というものだ。



「というわけで始まりました、ミシェルと…」


「…あ、私もやらなきゃ駄目なの?ごほん…フィリアのー」


「「少年少女お悩み相談コーナー」」


「いえーい!」


「…え?何?突然何が始まったの?私これに付き合わないといけないの?」



何の脈絡もなく唐突に始めた謎のコーナー。

一時期アルカディアで子供達のお悩みを書いたお便りに国王である私達が答えるというイベントを思いだし持ち出してみたが、フィリアも覚えていたようだ。

あのイベント最後の方はほとんどいい歳した大人達の愚痴大会みたいになってたから一度やったっきり二度とやらなかったのだ。

さらっとフリージアも私達への愚痴を書いていたのが何よりも傷付いたのだが…



「じゃあ、ノフティスは今回の件で自分の役目を全う出来なかったから自信をなくしたそうだけど、自分ではどう思ってる?」


「いや、本当になんなのこれ」


「ほら、面白そうだし答えてみなよ」


「お姉ちゃんは黙ってて。大体、なんでそんな馴れ馴れしく…」


「一度思ってることを人に話した方が気楽になれることもあるわよ。一週間程度とはいえ、一緒の馬車に揺られて一緒の宿に泊まった仲じゃない」


「…そんなの、ただの仕事の付き合いでしょ…」


「それでも、せっかく生まれた"縁"よ。私達の事利用しようと考えてるあなた達が、私達との"縁"を蔑ろにしていいの?」


「…あぁ、君、本当に"悪魔"なんだね」



比喩か揶揄か、どちらにせよノフティスが言ったその表現に少しムッとし、私はフィリアに抱きついた。



「フィリアはどこからどうみても天使じゃん!」


「あんたが喋ると話が進まないのよ!」


「いいじゃんー」


「はーなーしーなーさーいー!」



フィリアは顔を赤くして引き離そうとしてくるが、押し退けようとする腕にはあまり力が籠っていない。

悪魔であるフィリアの腕力は、ぶっちゃけ単純な力比べだとフィリアの方が強いのに、私は押し負けていないのだ。

こういう時しっかり拒絶してこないから私も増長するというのに、本当にこの可愛い悪魔は困った子だ。



「…ねぇ、なんで私目の前でいちゃつかれてるの?新手の拷問?」


「ほっこりするねー」



ノフティスが小さく発した言葉は奇跡的に私達の耳には届かず、私達の距離感に困惑する被害者が新たに生まれたのだった。

最初の被害者は言うまでもなくフリージアである。
























「で、結局何しに来たのさ君達は」



先程のやり取りだけで力尽きた私達は二人して部屋のカーペットに寝そべって羽を広げていた(物理的に)



「今更だけどお茶淹れてきたよーって、ミシェルさん達翼畳んでくれないかな?ちょっと歩きにくいなー」


「んな布団みたいに」



実際冬場に一緒のベッドで寝た時にフィリアに私の翼を布団扱いされた事があったが。

ちなみにフィリアの悪魔の翼は骨格に翼膜が張ってある蝙蝠みたいな翼のため、布団代わりには出来なかった。

そして自分のフワフワした翼をフィリアに布団代わりにされてるのを見て羨ましがってしまう始末だ。



「でも、最初に来た頃と比べると少しは雰囲気が軽くなったんじゃない?今なら溜めてるものを少し位は言えるでしょ?」


「…そんな訳の分からないカウンセリング初めて見たよ…」



ため息をを吐いたノフティスは、エミュリスからお茶を受け取り両手で持って一口飲むと、少しずつ思いを打ち明けた。



「私達、孤児だったんだよね。小さいときに親が仕事で死んじゃって。それで最初は引き取ってくれる親を探しながら、その親の仕事先の人達の仕事手伝ったりもしてお世話になってたんだけど、私が七つか八つくらいの時に引き取り手が見つかって…」


「それが、当時の黄道十二将星(セレスティアルライン)序列八位、エーン様なんだよね」



ノフティスの言葉を紡ぐようにエミュリスが話を続けた。

曰く、エーンというその女性はまるで自分達を実の子供のように大切に接してくれて、エミュリス達もその事にとても感謝していたらしい。

明るく振る舞うエミュリスだが、その瞳には哀愁が漂っているように見える。



「でも、エーン様は二十年前のロズヴェルドとの戦いの生き残りなんだけど、その時に重い障害を患っていてね。既に引退してたんだ。だから『自分はいつ死んでもおかしくないから、今のうちにやりたいことを決めておきなさい』って言われたんだ」


「…それで軍に入ったの?」


「…うん」



答えたのはノフティス。

お茶をちびちびと飲みながらも過去の事に思いを馳せる様はまるでもうすぐ十六になる程度の少女とは思えない雰囲気があった。

それはエミュリスも然り、なんだかんだ真逆に見えて似た姉妹だ。



「まあ幸い皇国は実力主義で、私達は才覚に恵まれてたからトントン拍子に出世できてね。ご覧の通り今の地位に落ち着いたよ。五~六年くらい前だったかな?当時は『こんな子供を一国の将軍の一人にするのか?』ってかなり問題になったけど」


「まあそうでしょうね」


「当時ノフティス十歳くらいでしょ?エミュリスは…」


「私は今は十八になるね。だから当時は十二か三くらいかな」


「「…」」


「今見えないっておもったでしょ!?しょうがないじゃん!たくさんごはん食べても何故か幼女体型から抜け出せないんだよ!最近ノフティスにまで背が抜かれそうになってるし!」


「お姉ちゃんこんな所で醜態晒さないで」



さっきまでののほほんとした明るい雰囲気はどこに行ったのか、急に感情が昂られるといくら私達でも驚いてしまうので困る。

馬を扱うように姉を宥めたノフティスは済ました顔で話を続けた。



「一応、正式に序列を貰ったのは今の陛下…セレナ様の戴冠式の時だけど。それで黄道十二将星(セレスティアルライン)に入ったからエーン様に報告しに行こうと思ったんだけど、丁度訓練生として専用の寮で生活していた間に息を引き取ってたらしくて…」


「恩人に伝えられなかったと」


「皮肉な事に私はエーン様と同じ序列を頂いてね。だから、死んだエーン様に私の…私達の活躍が届くくらい、裏方っていう地味な仕事でも頑張ろうって、そう思ってたんだけど…ヘマしちゃったからなぁ…」



…まだ十五、十八…うん、十八という若さながらも中々複雑な人生を歩んでいるらしいこの姉妹、特に恩人と縁のある数字を貰ったノフティスはその重圧を抱えながら仕事をしてきたのか。



『憧れたから。それだけ』



神教国に行った際、フルーノの宿でノフティスに「どうしてお国の重役という面倒臭そうな仕事に就いたのか」とフィリアが言った質問に対してのノフティスの返答を思い出す。

あの言葉には、そのエーンという人物に向けた思いもあったのだろうか。



「エーン様は、十三の時に若くして黄道十二将星(セレスティアルライン)になっていて、就任した歳だけなら私達より若くてね。そんなエーン様に追い付きたかったんだけど…」


「…まあ、頑張りなさい」


「…え?」


「え?」


「…いや、それだけ?」


「そうよ?だって私にはそのエーンって人じゃないんだからその気持ちとか分からないし、別に最適な言葉をかけてあげられるとも言ってないじゃない?」


「…えー!?」



ノフティスが今までで聞いたことないくらい大声を上げた。

あんなダウナーな正確なのにこんな声出せるんだと思っていると、どうやらエミュリスも同じことを考えていたようで、目があった途端互いに頷き合った。

特に意味があるわけでもないが。



「まあ私達は基本なげやりの自主性を尊重する民主主義、を基本方針にしてるからね」


「そんな適当な民主主義嫌だ」


「まあ結局自分の力で頑張るしかないのよ。たかが十五の小娘がこの先の苦労も知らないでウジウジしてんじゃないわよ!」


「えー!?私が悪いのこれ!?」


「あっはっは!言われたねぇ、ノフティス!そうだね、いつも澄ました顔で人と関わりたくないオーラ出してるんだから、自分の力で乗り越えなきゃ」


「お姉ちゃんまで!?っていうかお姉ちゃんはこの話どう思ってるのさ!?」


「えー?私は勿論エーン様への恩とか、それについて今も国に貢献するっていう形で報いたいとは思ってるよ?でもー…」



エミュリスはノフティスの背後に行くと牛らから抱き締めた。



「私は、ノフティスが幸せになってくれたらそれでいいから」


「…はぁ!?」



顔を赤くしたノフティスは怒涛の展開に混乱したのか硬直し、その状態が暫く続いた。

私達もよく同じようなやり取りをするのでそれを他の人がやってるのを見て二人して爆笑し、最初に部屋に来た時の雰囲気は、すっかり晴れてなくなっていたのだった。

適当、なげやり、不真面目に、それが彼女達の生き方───

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