第四十九話 帰宅
「えっ?もう帰るんですか?もう少しゆっくりしていってもいいんですよ?」
「十分回復したからね。それに御世話になった人達に挨拶も済ませたし」
ハルトマンやノフティス達に挨拶したり謎のカウンセリングをしてから次の日。
私達は荷物を整えて最後にセレナに挨拶するために彼女の執務室に来ていた。
執務室にはセレナ以外にフロウと療養中手伝いとかをしてくれたセレナの世話係っぽいメイドさんがいて、セレナとフロウは机に皇国の地図を広げてなにか話し合っていた。
「あ、!そういえばノフティスの件、ありがとうございます!何一つ進歩はしてませんでしたが、『とりあえず仕事はする』って部屋から出てきましたし」
「あっれぇ~?逆になんで響かなかったのかなぁ~?」
「いや別に励ましとかしてないわよね?なげやりの自主性を尊重する民主主義とか言ってた私が言うのもあれだけど」
「それは多分民主主義ではないだろ?あと私は昨日の事許してないからな」
「ごめんって」
ノフティス達の所から泊まらせられていた客間に戻った後フロウが部屋に押し掛けてきて壊れた部屋の扉を直させられて大変だった。
あれ壊したのフロウなのに。
「扉の件じゃない。分かるよな?」
「ごめんね二十二歳」
「分かってないな、よし訓練場に来い。決闘だ」
「フロウ、落ち着いて下さい」
「ミシェルもからかうのやめてあげなさいよ」
互いに宥められ立ち上がりかけてた所を座らせられる。
この世界に来たばかりの頃はフロウに色々巻き込まれたので弄る良いネタができたと思っていたのだが…
「…はぁ、帰るのなら別にいいが、お前達せめて正式に戸籍を作れ」
「「ん?」」
「前にお前達の身分証明書を作ってやったが、オルターヴに家を買ったんだろ?一応あれは所属と名前だけの簡易のものなんたが…」
「所属が軍部になってた事について弁明はあるかしら」
「家を買ったなら住民の区別と管理のために住民票を作らなきゃいけないから出身地とか誕生日を教えろと役所から連絡が来ててな」
「聞きなさいよ」
「うるさいな…あれのお陰で家の購入の手順の一部を省略出来てるんだからいいだろう?」
「そういう問題なの?」
今度はフィリアがフロウと揉め始めた。
つくづく彼女と私達は合わないなぁとその様子を眺めていたらセレナが『すみません』と口を動かして軽く頭を下げた。
国家君主に頭を下げさせるとか何してるんだろう私達。
「まあそれはいいけど、この国戸籍とかどうやって登録するの?」
「本当は皇国内で生まれればその時点で記録されるんだが、他所の国とかから引っ越してきた奴は、お前達の場合はオルターヴの役所で登録するんだが、せっかくだから今ここで手続きを済ませていけ」
「そんな適当で良いの?」
「まあどっちにしろ登録した情報は国に来て正式に受理されるからな。あー…その辺の管理の担当をしてる"ロマンテ"が今いないからな…今回は私が代理で記録するか。えっと、お前達の出身地は"異界"でいいか?」
「そのまんまなのね…まあ別にそれでいいなら構わないわよ?」
「そうか」
頷くとフロウは懐から出したメモ帳に話の内容をメモしていく。
本当は専用の書類とかあるんだろうが、そこまで簡略化して良いのだろうかと少しこっちも不安になるのでそういうのは正規の手続きでやりたかった思いもあったりする。
「歳…はお前達の場合は要らんか…」
「どうせ細かいのは覚えてないしねー」
「歳の話くらいで騒いでるあなたがおかしいんでしょう」
「だから私の歳の話は関係ないだろう!あと生物として違うのだから天使と悪魔と一緒にするな!」
「まあまあ、まだまだ二十二歳だって若いじゃないですか」
「あのですね、陛下。陛下も二十歳を過ぎれば分かると思いますが、二十歳を過ぎた女性に歳の話は禁句なんです」
「そ、そうですか…?」
自らの主…っていうか王様に圧をかける程デリケートな問題だったらしい。
私が言うのもあれだが、乙女心とは複雑なものだ。
その後戸籍の登録に必要な情報を打合せし、半ば捏造気味なものも混じる中なんとか話の擦り合わせが終わった。
これでも結構時間がかかったが、本来の手順を踏んでいたらもっと時間がかかっていたかもしれないということで、これはこれでよかったのかもしれない。
そうしてここでやるべき事が終わり、帰宅の準備を整えた。
神教国の一件では戦闘時にいつもの戦う時の服装ではなく変装用の普通の服を来ていたため、一張羅は無事だった。
それに着替えてマントを羽織り、荷物を整理して、城門から出ようとすると、セレナとフロウ、メイドが見送りに来ていた。
「お気をつけて、またいつでも遊びに来てくださいね」
「王城は遊ぶ場所では…まあいいか。いいか、私はこれからお前達に何度でも面倒事を持ち込む。だがお前達は面倒事を起こすなよ?」
「理不尽過ぎないかな?」
「…あ、それはいいけど、何か仕事紹介してくれないかしら?」
「仕事?」
そういえば神教国に行く前に旅の路銀稼ぎに仕事を探そうという話があったか。
結局有耶無耶になったが、国から紹介して貰った方が丁度良い仕事が見つけやすいだろう。
「仕事…公務員とかは?お勧めは軍部だ」
「定期的に旅をするつもりだから、場所が固定されるのはね…」
「ふむ…なら日帰りできる仕事か?だったら何でも屋でもやっていろ」
「あれってどうやってやるの?」
「ん…各都市に事務所があって依頼者がそこに張り紙をだしているから依頼の中から適当に選んで事務所の受付に報告しろ。その後依頼を遂行したらまた受付に報告して達成を確認したらあらかじめ依頼者から受け取っている報酬が支払われる仕組みだ。まあ細かいことは受付に聞けば分かる」
「成る程…ありがとう」
「あ、そうだ。丁度国家から依頼が出ていてな。ある事業のために人手がいるんだが、それの報酬が高めに設定してあるから受けていくと良い」
「…面倒事じゃないよね?」
「安心しろ。ただ────
────『霊峰竜ナルユユリ』の排泄物…つまり"ユーリ石"の採掘と道中の護衛をするだけだ」
「あ~…久しぶりに帰ってきた我が家…」
「そろそろこの世界に来て三ヶ月くらいかしら?完全に馴染んじゃったわねぇ…」
オルターヴの自宅に帰ってきて早速寝室のベッドに倒れ込む私達。
ここ二週間と少しの間帝都の王城で療養していただけとはいえ、自宅に戻ってくると何故かどっと疲れて寝転がりたくなるのは私達だけだろうか?
「…いやここ私の部屋なのだけれど…なんでさらっといるのよ」
「帰宅時の余韻くらい二人で浸ろうよ~」
「はぁ…別に良いけど…」
フィリアの部屋のベッドに横になった私達は、見つめ合うような体勢になった。
するとフィリアが頬を赤く染めて視線を逸らし、黙りこくった。
その様子が少し面白くなり、体をよじって近づき密着すると、フィリアは反対側を向いてしまった。
「どうしたの?」
「あんたねぇ…ごほん!フロウが言ってた件だけど、どうする?」
咳払いをして露骨に話題を変えられたが、確かに考えるべき話なのでからからうのを止めて真面目に考えることにした。
確か皇国の北東にある山脈地帯、そこに住む霊峰竜ナルユユリは皇国の特産である鉱石、フィリアに送ったネックレスの装飾にも使われているユーリ石を排泄物として生成するとは以前サリエラから聞いた通りだ。
本来竜という種族は縄張り意識が強く、リリエンタの港町と天樹の間を隔てる海に縄張りをもつらしい『水明竜ミクリ』が付近を通る船などを襲っているなど、縄張りへの侵入者に対しては容赦がない。
しかし、どうやらナルユユリはその縄張り意識が低いらしく、こちらから危害を加えない限りは敵対されないそうだ。
さらにナルユユリは地脈の魔力を含む地面や山の岩壁を食べ、そこから魔力を吸いとっているうちに食べたそれらに含まれるユーリ石の原石が錬成されユーリ石になるのだが、排泄されたユーリ石などの排泄物が地表を覆ってしまうとその辺りに地脈が流れなくなってしまうらしく、ナルユユリが困るという。
そこで皇国でユーリ石を資材として回収する代わりに排泄物も片付けることで共生を図っているのだとか。
「危険がないなら行ってみたいよね。それに、なんでもナルユユリはこの世界で一番大きい竜らしいし」
「私は山脈の地形にも興味があるわね。この世界に来てから町とかの観光はしたけど自然とかを見て回ったりはまだしてないじゃない」
「成る程」
山脈の頂上からそれよりも大きいというナルユユリを見るのは圧巻だろうなと思いを巡らせる。
それにユーリ石はフィリアが結構欲しがっていて、前にサリエラの所で買った分を魔道具に利用しようと自室で研究してたりしているが、そのためにもっと数が欲しいというので、交渉で分けて貰おうという話もあったし、そこそこ報酬もあるので行かない理由はないだろう。
「決まりね」
「うん、楽しみだよ」
こうして、次の旅の目的地として『ユーリ石の採掘、ナルユユリの排泄物の除去、そして道中の護衛』を依頼として受けつつ、目的地の山脈地帯である『ヨグナ・ミーオ山脈』へ行くことにしたのだった。
次なる旅先は竜の住む山脈───




