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87 アリエル王国の状況

 部屋で本を読んでいた。

 窓の外では、カマエルとサリーが刃をぶつけ合っている音が聞こえる。


 シエルの活躍が、上位魔族の刺激になったようだな。


「やぁ」

「また来たのかよ・・・エヴァン」

 突然、エヴァンが白いマントをなびかせて現れた。


「急に入ってくるなって」

「そんなに驚くか? 言われた通り、王国騎士団長の役目を終えて戻ってきたんだよ。通常通り過ごすように言ったのはヴィルじゃないか」

「部屋に入ってきたことを言ってるんだけど・・・」


「エヴァン?」

 アイリスが髪をとかしながら顔を出す。


「あぁ、アイリス様、お元気そうで何よりです」

 エヴァンが軽く頭を下げた。


「どうしてここに・・・・?」

「連れ戻しに来たわけじゃないですよ。ヴィルに話があって来ました。俺が来ていることは聞いてますよね?」

「え・・・うん」

「聞いていると思いますが、俺は魔王ヴィルの味方なので、安心してください」


「・・・・・・・・」

 アイリスがこちらを見て、戸惑っていた。


「アイリス、悪いが、少し席を外してくれ」

「うん。えっと、マキアのところに行ってるね」

「あぁ」

 バタバタしながら、部屋から出ていく。




 ドアが閉まると、エヴァンがため息をつく。


「アイリス様いつもここにいるね。ヴィルとアイリス様って、どうゆう関係なの?」

「さぁな」

「ふうん・・・ま、詮索しないけど」

 さらっと流す。

 エヴァンが机に座って、地図を眺めていた。


「アリエル王国の国王から、魔族のこと話題に上がってたよ。サンフォルン王国から魔王城に向かった精鋭部隊が壊滅させられたって」

「精鋭部隊? アリエル王国は十戒軍のこと知ってるのか?」


「俺はあくまで”精鋭部隊”と聞かされている。十戒軍って言葉は出てこなかったよ」

「そうか・・・」


「アリエル王国の王族はアイリス様に死んでほしいと思ってない。うまく利用したいんだろうけど、アイリス様に対する恐怖もあって大胆には動けない感じだね」

 本棚から一冊の本を取り出す。


 これも既に読んだ本だな。


「ちなみに、俺のところの部隊もダンジョンの傍をうろうろするよう言われたけど、断っておいたよ。民を守ることが先決だとか、それなりのこと言っておいてさ。部隊にはアリエル王国に待機させてる」

「適当だな・・・そんな命令従うのか?」


「もちろん。自分たちの地位を高めたい連中だから、すぐに俺の指示に乗ってくれるよ。扱いやすくて助かる。俺はアリエル王国の中でも、かなり優位な地位を築いているからね。裏ではどう言ってるかわからないけど、みんな媚を売ってくるんだ」

 生意気な口調で言う。


 こいつの場合、実力が伴っているからな。


「・・・ただ、気になる話もある。アイリス様の兄ロバート様が中心となって、仲間を募っているらしい。あまり表沙汰にできないような動きをしてるみたいだね」


「十戒軍と繋がってるっていいたいのか?」


「・・・NOとは言えない」

 エヴァンが口に手を当てる。


「ロバート様自身が強いわけじゃないし、警戒するほど賢くもない。だから、利用されてる場合もある。用心するに越したことはない」

「そうだな」

 こいつと同盟を結んだのは正解だったな。

 アリエル王国の状況が的確に判断できた。



「そういや気になってたんだけど、お前のいた異世界って東京、品川とか蒲田とかいう駅があったか?」

「よく知ってるね。そんな文献この世界にあんの?」


「魔族がダンジョン取り返すときに行く異世界クエストの場所がそこなんだよ」


「えっ!? マジで?」

 エヴァンがぎょっとした顔をする。


「ダンジョンに異世界ルートがあんの? うそでしょ?」

「今度の異世界クエストのとき、エヴァンも一緒に来いよ」


「嫌だよ。二度とあんな世界、関わりたくない。この世界に穴があるのは知ってたけどさ、ダンジョンなんてそこらじゅうにあるじゃん。やばい、今、鳥肌がすごいよ。うわっ・・・すっげー嫌。吐きそう・・・・」

 心底嫌そうな顔をしていた。


「冗談だって。ダンジョンは俺たちで何とかする」

「冗談でも言うなよ。そんなおぞましいこと」


「向こうの世界のことは知らないけど、アイリスは気に入ってるみたいだぞ」

「へぇ・・・・あ、そ」

 エヴァンがソファーに座って足を組んだ。


「じゃあ、俺からも質問があるんだけどいい?」

「答えられるものだったらな」


「あの、上位魔族のシエルって子、一体何者?」

「・・・・・・・」

 さすが、鋭いところを突く。


「一人で壊滅させたなんて異常だろ。見る限りステータスが常に上下しているし。何かあるんだろ?」

 真剣な表情で聞いてくる。


「特殊効果だ。シエル特有のな」

「なんだよ、それ。公にできない秘密でもあんの? 上位魔族はそこまで見れないかもしれないけどさ、俺は深く見ればどうせわかるよ。魔王ヴィルの目と同じようなものを持ってるんだから」

「・・・・・」

 遅かれ早かれこいつには気づかれるもんな。


 渋々、シエルの特殊効果発動条件に付いて説明する。


「はぁ!?」


「そうゆうことだ。だから、シエルは特殊能力が常に発動してる状態だ。しばらく、上位魔族最強だろう」

「ななななななななな・・・・」

 エヴァンが転げ落ちそうなほど、後ずさりした。

 テーブルに載せてあった紙が落ちていく。


「しょっちゅうやってんの? アイリス様もいるのに?」

「アイリスは関係ないだろ」


「っ・・・・・これが魔王か。異世界魔王の地位か。なんか、全てにおいて完敗って感じだ・・・」

「・・・・・・・・」

 落とした紙を拾いながらぶつぶつ言う。


 これだから言いたくなかったんだよな。


「いや、羨ましくはないぞ。俺だって魔界の天使、リョクちゃんといられる。そうだ、リョクちゃんに俺は人間に化けられるドラゴンだって説明してよ」

「魔界の天使ってなんだよ」


「あんな可愛い子、天界にしか存在しちゃいけないでしょ。きっとこの世界でも、俺を救いに来た天使なんだ」

「はいはい」


「はぁ・・・リョクちゃんの話をしたらリョクちゃんに会いたくなったな」

 すっげー、頭の切り替え早い。


 リョクの話になったら、もうこいつは使えないな。


「今日、リョクちゃんはどこにいるの? 魔王城にいるんでしょ?」

「いるって。そもそも、エヴァンの姿は一部上位魔族にも見られてるんだからな。もう少し慎重に行動してくれよ。エヴァンがここにいるのは、アイリスと俺しか知らないんだから」


「俺が正体バレるようなヘマするわけないじゃん」

 紙をそろえてテーブルの上に載せた。

 

「ヴィルばかりずるいって。俺だってこの世界で一生懸命やってきて、やっと掴んだ運命の出会いを・・・」

「わかったって。騎士団長の服は隠して、その辺の俺の服を着ててくれ。リョクを呼んでくるから」


「リョク? あぁ、うん・・・よろしく」

 エヴァンが急に緊張して、硬直していた。




「・・・・というわけだ。訓練した結果、少しの間なら人間のようにも化けられるドラゴンになった。会話もできる」

「そうなんですね!」

 かなり、強引な理屈だ。

 言っている自分ですら、意味がわからない。


 リョクが前髪を触りながら、にこにこしていた。

 エヴァンがドラゴンのふりをしたまま、人間に戻っていた。


 疑っている感じは・・・ないな・・・。


「よろしくな」

「はい、びっくりしましたが、エヴァンってすごいドラゴンだったんですね。わぁ、エヴァン。こんなにうまく人間に化けられるなんて」

「・・・・・・・・・・」

 リョクが興奮して、エヴァンの手を握っていた。

 くるんとした睫毛を、バサバサさせる。


「手も本当に人間みたいだぞ。尻尾も出ないし、完璧だな」

「っ・・・・・」

 満面の笑みで、嬉しそうに見上げていた。

 エヴァンの顔が赤くなっていく。


 しゅぅぅぅぅぅぅ


 すっと、ドラゴンに戻った。

 何がしたかったんだよ。こいつは・・・。


「あわ、戻っちゃった」

「・・・・まだ、ちょっとの時間しかできないから・・・」

「そうなんですね」

 リョクがエヴァンの頭を撫でる。


「エヴァンが人間になる特訓、僕も付き合うよ。今日も薬の調合テスト見ててくれるか?」

 こくんと頷いて、尻尾を振った。要領のいい奴だ。


「わーい、ありがとな。大好きだぞ、エヴァン」

「!!」

 首のあたりを抱きしめて、頭を撫でていた。


 エヴァン(ドラゴン)が赤い舌を見せて、デレデレしていた。


 ものすごく幸せそうにしている。

 この感じだと、しばらくドラゴンのままだろうな。





「魔王ヴィル様、どうしたのですか?」

 下位魔族、マキアの部屋にノックした。

 部屋のつくりは上位魔族とさほど変わりはなく、階数が違うから窓の景色が変わったくらいだ。


「アイリス見なかったか?」

「セラとハーブを摘みに行きましたよ。夕食で使いたいのです」


「そうか」

 微笑みながら、エプロンで手を拭いていた。


「魔王ヴィル様、狭い部屋なのですが、ゆっくりしていってくださいね」

「あぁ、ありがとう。そうさせてもらうよ」

 椅子に座って、温かい紅茶に口を付ける。


 部屋には調理で使うようなハーブがたくさん植えられていた。

 レースのエプロンもたくさん並んでいる。


「何か珍しいものありましたか?」

「すごいな。料理の道具でいっぱいじゃないか」


「はい。私たちが魔族の皆様にできることと言えば、それくらいなので」

「いつも感謝してるよ」

 窓から外を眺める。


 ダンジョンか・・・十戒軍のことはあるが、今は動きが無い。

 次行くダンジョンを探すか。


 攻略されたダンジョンの中が、アイリスにとって安全な場所だ。


 でも、アイリスはずっとこのままでいいのだろうか。


 これが、アイリスの望んでいたことなのか?


「魔王ヴィル様、よろしいでしょうか?」

「ん? 何か用か?」

 頬を真っ赤にして、柔らかい髪を耳にかける。


「その・・・こ・・・こうゆうのです・・・・」

 急に頬にキスをしてきた。

 吸い付くように触れた後、舌で舐めてくる。


「マキア?」


「はっ、すみません。魔王ヴィル様が好きなので、どうしても我慢できなくて。えっと、あ、そ、そうです! 試作品のお菓子があるんです。魔王ヴィル様、ぜひ食べていってください」

 マキアが耳を真っ赤にして、背を向けた。


「・・・ありがとう。そうさせてもらう」

「はい!」 

 頬に手を当てる。

 マキアの唇の感触が微かに残っていた。


 シエルといい、マキアといい、女魔族は欲望に忠実だな。


 好きだと言われても、俺にはその感覚がわからないのに・・・。

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