84 転生前のエヴァン
「はぁ!?」
「ま、そうゆうことだから」
「いやいや・・・」
魔道具で埋め尽くされた倉庫のテーブルに座ってエヴァンと話をしていた。
魔王の間で上位魔族と会議するつもりだったが、予定変更だ。
エヴァンが面倒なことを言い出したからだ。
「なんか悪いもんでも食ったのか?」
「違うって、だから言ってるだろ。俺は、ドラゴンになるんだ」
「とりあえず、変な魔法はかかってないみたいだが・・・?」
「俺は真面目だよ」
アリエル王国騎士団長、エヴァンがとんでもないことを言い出した。
「リョクちゃんと一緒にいたいんだ」
「・・・・・・・」
リョクと共に生きるために、ドラゴンになりたいとか言ってきた。
エヴァンが魔王城に来たことを隠すためにドラゴンになったのに、完全にはまってしまったらしい。
「王国騎士団長はどうするんだよ。色々根回ししてたんだろ?」
「志半ばで、魔王に倒されたということにしよう。魔王ヴィルとしてもいいじゃん、そのほうが」
「いや、そうゆう問題じゃなくてさ・・・・」
頭を抱える。
「そもそも、何のためにフルステータスで転生してきたんだよ。散々、異世界ライフを楽しみとか言ってたじゃないか」
「全てリョクちゃんに会うためだったんだ」
「お前な・・・・・・」
もう何言っても無駄かよ。
嘘だろ。
全く予想しなかった展開に向かってしまった。
「俺はかなり真面目に言ってるんだよ、魔王ヴィル」
「真面目って・・・」
エヴァンがテーブルの埃を触ってから、座った。
小さな足をぷらぷらさせながら、窓の外を眺める。
「転生する前の話をするよ。俺は勉強だけは飛び抜けてたけど、周囲には馴染めなかったんだ」
「・・・・・・・・・」
「何とかして就職した会社も、クソ上司たちにはめられて退職させられたんだ。人格も学歴も仕事も、何もかも否定されるパワハラ退職だ。友達も彼女も、好きな子だってできないまま、人生のレールを踏み外した。しまいには、なんとかって病気だ。もう、死んでやり直したかった」
俯きながら言う。
「誰もいないワンルーム、突然いなくなっても誰も困らない。死は限界を迎えたときに来た。転生したら、人間たち使って、異世界で無双してやるって強く思った」
「で、叶ったんだろ?」
「そうだね。この世界、最強の人間に転生した。まぁ、アイリス様は除くけどさ。異世界ライフは最高に楽しいよ。人間も金も権力も、思うがままに動く。でも、人間だってクズはクズ。こっちの世界でも変わらない」
「そうか・・・」
カマタの異世界クエストに行ったとき会ったおっさんを思い出すな。
ん・・・?
エヴァンの居た異世界ってもしかして。
「俺はリョクちゃんといることが、一番幸せなんだ。想像もできなかったんだよ。好きなVtuberにそっくりでさ、本当に・・・そっくりなんだ」
Vtuber・・・か。
アイリスがダンジョンで話していたような気がするな。
「エヴァン、お前、もしかして転生前ってシナガワとかシンジュクとか・・・」
「魔王ヴィル、待って。大変だ・・・」
エヴァンがいきなり、深刻な表情をして、手を上げた。
変な気配は感じないが・・・。
「何かあったのか? シエルが運んできた十戒軍なら、地下牢にいるけど・・・」
「リョクちゃんが来る」
「は?」
「・・・・・・・」
シュンッ
すぐに変化の魔法をかけて、ドラゴンになっていた。
赤い尻尾を振る。
心の底からやりにくい。
魔族の王になって、初めて挫折しそうだ。
「あれ? 部屋迷っちゃったな。あっ、魔王ヴィル様」
「・・・リョク」
「失礼します。ドラゴン、昨日は一緒に寝てくれてありがとう。あの、魔王ヴィル様、このドラゴンって名前あるんですか?」
「えっと、エヴァンだ」
「エヴァンかー。人間みたいな名前だな」
「!?」
「僕に懐いてないと思って心配したよ。シャイなんだな、お前」
リョクが頭を撫でてから、頬のあたりにキスをした。
エヴァン(ドラゴン)の口が半開きになっている。
「ん? やっぱり反応薄いな。普通のドラゴンなら、舐め返してきてくれるのに、もしかして僕のこと嫌いなのか?」
「・・・・・・・」
ぶんぶん首を振っていた。
「よかった、徐々に慣れていこうな。エヴァン」
なんか、よくわからんが、幸せそうだった。
リョクがにこっとすると、エヴァン(ドラゴン)が爪をもじもじさせた。
「僕、ププウル様に呼ばれているので、後でまたエヴァンに会いに来ますね。失礼します」
リョクが緑の髪をふわんとさせて、戻っていった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
エヴァンが静かに元に戻る。
「・・・・というわけだ。よろしくな」
「そう・・・とも言いにくいんだけど・・・」
肩を落とす。
「わかったよ。認めなくても居座りそうだし、どちらにしろ、お前の力は必要だ」
「さんきゅ。親友」
エヴァンがにっと笑って親指を立てた。
「親友になった覚えはない。それに、王国騎士団長として上手く立ち回ってくれることが条件だ。アリエル王国の状況がわかる状態にしてくれ」
「わかったわかった、リョクちゃん優先に適当にやるよ。全てはリョクちゃんのためだ」
適当に・・・て。
エヴァンに振り回される部下が気の毒だが・・・。
ま、人間のことなんて、どうでもいいけどな。
「お前の世話役はリョクに頼むからな。どうせ、魔王城にいる間はドラゴンになってるんだろ?」
「せ・・・世話。俺の・・・おう・・さ、さんきゅ」
部屋のドアノブに手をかける。
エヴァンがドラゴンに変化して、鱗の艶を確認しながら、リョクが戻ってくるのを待っていた。
鱗の艶に、何の違いがあるのか知らないけど、近くの布でごしごし磨いているのが見えた。
シエルは昨日の夜、戻ってきたと聞いていた。
ププウルに案内されて、上位魔族の部屋で待っているらしい。
「シエル、遅くなって悪かったな。どうだ? 上位魔族の部屋は」
「魔王ヴィル様ー!!!!」
ドアを開けた瞬間、走って、抱きついてきた。
慌ててドアを閉める。
ツインテールをぴょんぴょんさせる。
「会いたかったのです。会えない時間も、大好きを溜めてました」
「魔王城で抱きつくのは無しだ。他の奴らに見られたら、お前の特殊効果発動条件を言わなきゃいけなくなる。ダメだって、言っただろ?」
「はっ・・・すみません、つい。き、気を付けます」
しゅんとして、髪をくるくる巻いていた。
「えっと、そうですね、部屋のほうは・・・ベッドもふかふかで、大変良くしていただいております。サリー様から洋服や下着もいただきました」
「捕まえた人間たちはどうした?」
「魔王の間で、下位魔族が見張っております。精神に異常をきたしていますが、心拍数は下がっていないのでご安心ください」
「そうか」
「魔王ヴィル様が使用するまで、ちゃんと生かしておきます。私は魔王ヴィル様のおかげで元気いっぱいなので、魔力もあり余っています」
嬉しそうに言う。
ベッドに座ると、シエルがぴったりとくっついてきた。
「魔王ヴィル様、好きです。今は2人きりだからいいですか?」
「魔力は足りてるんだろ?」
「足りてても、いつも好きを補充したいのです」
強引にキスをしてきて、妖精のような顔で見つめてくる。
綿毛のように柔らかい肌だった。
「こうしてると、どうしてもくっつきたくなってしまうのです」
シエルが透き通るような瞳をこちらに向ける。
「シエル、2人きり以外のところでこんなことするなよ」
「わかってます。でも、私もどんどん強くなってしまいますからね。2人きりのときは私のわがまま聞いてくれないと、意地悪しちゃいますよ?」
「どんな意地悪だ?」
「んー、いっぱい大好きって言っちゃうとか・・・たくさんキスしちゃいます。あとはー・・・」
「ん?」
「今は言わないのです。今後のお楽しみですから」
「へぇ・・・・」
「私から離れられなくなるほどの、誘惑をしちゃいますね。覚悟してください」
シエルが口に手を当てて、意地悪く微笑む。
「・・・・俺は愛を知らないから、お前の思うように愛せない」
「ふふ、そんなこと気にしてませんよ。大事なのは私が好きだって気持ちなのです」
ベッドが沈む。
「たくさん強くなって、今度は私が、魔王ヴィル様を守ります。二度と大切なものを失いません」
シエルが頭を撫でてきた。
「魔族の王である俺を? か?」
「はい。魔王ヴィル様のいない世界なんて考えられませんから」
「・・・・・・・・・」
髪を後ろにやって、しっとりとした唇を押しつけてきた。
シエルはこの時間で、さらなる力を手に入れるだろうな。
上位魔族との会議は夜まで続いた。
現時点で、魔族のダンジョンを狙う動きはないとのことだ。
今は、特定の魔族の集落を集団で攻撃したり、弱い魔族を倒して経験値を上げる方向性になっているらしい。
カマエルが怒りのあまり、グラスを握りつぶしてしまった。
十戒軍については、明日話すことになっている。
「アイリスっ・・・て、寝てんのか」
「ちょっと停止モード・・・んー私、寝てるのかな? 目が開かない、頭が回らない」
「寝てるな・・・完全に」
部屋に戻ると、アイリスがうつらうつらしていた。
呑気な奴だ。
今回捕まえてきた奴らは、アイリスを狙っているのにな。
本を読んでいると時間が経つのが早い。
魔王城にはまだ手を付けていない本がたくさんあった。
「ふわっ・・・魔王ヴィル様・・・・」
ソファーの横に座ると、アイリスが目を覚ました。
目を擦りながら、体を起こす。
「いつからいたの?」
「今来たばかりだ。寝言言ってたぞ」
「寝言!? どんな?」
「さぁな」
軽く笑う。
小さい嘘に、アイリスが膨れていた。
「やっぱり、魔王の城はにぎやかなほうが楽しいね。リョクとも話してみたいな・・・可愛らしい天使みたいな子・・・」
「そうだな」
「魔王ヴィル様といると、いろんな魔族を知れて嬉しい」
俺はアイリスを守り切れるだろうか。
「相変わらず子供だな、アイリスは」
「違うよ」
アイリスが目を細めて、ふらふらしている。
「魔王ヴィル様が、急に大人になったの」
「え・・・・?」
「ふふ、おやすみなさい」
アイリスがそのままソファーに横になっていた。
「よく、すぐに寝れるな」
ピンク色の髪を撫でる。
寝顔も花のように綺麗だった。
真っ白な・・・リュウグウノハナみたいにな。
アイリスは、”名無し”に代わって以降、寝る時間が長くなった気がした。
気にしすぎだろうか。




