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悪化

 時間を少し遡り、ジン達が決死の撤退戦をしている最中本部は怒号が飛び交っていた。


「ふざけるな!なぜ右翼を撤退させた!」


「現場の報告では指揮系統の混乱により一時撤退しただけだと言っている」


「馬鹿野郎が!」


 ジゲンは吐き捨てるように自分の前に置かれた机を蹴りながら言うがラージャは無表情を崩さない。


「何を考えていやがる!この大戦で流れ矢で指揮官が死んだからと言って指揮系統が混乱だと?舐めてるのか?」


 指揮官の死亡で現場が一時混乱するのはわかるがそれが撤退と言う状況まで大混乱するなど戦争をなめているとしか考えられなかった。


「だが、左翼は大勝を期している五分と言ったところだろう」


 そう言ってジゲンとラージャの会話に入ったのは右翼で撤退命令を出した張本人である白虎騎士団聖騎士ヴァーチャス子爵だ。

 白虎騎士団では青龍騎士団と違い大隊長=大聖騎士、中隊長=聖騎士、小隊長=騎士と呼び方が異なっていた。

 これは戦場では要らぬ混乱を生むが貴族とはこう言ったことにプライドを持つディノケイドの政策はそこまで進行していなかった弊害である。


「なにが五分だ!貴様の方は千五百もの兵が生死不明になったんだぞ!?最前線には撤退の伝令すら届かなかったと言うではないか!ただ見殺しにした無能の将がこの場でその首叩き斬ってやろうか?」


 ジゲンは自分の騎士団から補充のために入った十五から二十までの小隊も最前線に駆り出され生死不明と報告を受けている。

 右翼本隊から撤退の伝令がなかった最前線、しかも現場は大混乱だほぼ間違いなく全滅していると言っても間違いなかった。

 それにその中にジンが入っている事にも少なからず思うことはあった。ジンなら必ず戻ってくると言う大きな信頼はあるがそれとこれとは別問題だった。


「平民がいくら死のうが戦には支障はない」


「貴様、本気で言っているのか?」


 ジゲンはこの時目の前が真っ赤になっていく感覚になる。

 ジゲンがヴァーチャスを睨むがそれに追随するように白虎騎士団幹部から同意の声が上がる。


「ヴァーチャス聖騎士殿の言う通りだ。あのような雑兵など取るに足らん我々騎士が残っているのだ、問題なかろう」


 そう言ったのはヴァーチャスの腰巾着で有名なバンバドラ男爵であった。


「貴様ら!よくも抜け抜けと!」


「団長!落ち着いてください!」


 ジゲンはガイルに止められてなんとか少しだけクールダウンするがそれでも怒りは収まらない。


「これ以上先の結果を気にしても仕方がありません、もう少し建設的な話をしましょう」


 ガイルの発言に皆が黙ると総司令官であるラージャが口を開く。


「右翼の再編は至急済ませる案件だ、中央本隊から千程補充しろ」


「御意」


 ヴァーチャスが素直に頭を下げる。


「左翼は現状維持だ。敵が業を煮やし本隊が動くのを待つ。明日も今まで通り正面からの消耗戦だ。只ヴァーチャスよ今日の失態は明日以降取り戻せ」


 ヴァーチャスに対して甘い対応ではあるとガイルは思ったが作戦自体は硬い作戦であると感じた。

 この戦争は言ってしまえば時間を稼げばいいのだ。帝国は北との戦線を一時離してこちらへと攻勢に出ている。

 ならばこのまま時間を稼ぎ北の攻勢が強まれば自ずと引かざる終えないからだ。その前に帝国の本隊は業を煮やして打って出ると言う考えは合理的だった。


「だが、いたずらに兵を消耗してはこちらも厳しいぞ」


 ジゲンがラージャに忠告を入れる。


「たしかにその通りではあるが、最悪我々にタイランと言う砦がある。そもそも一度墜ちたからと言ってもタイランは要塞だ。こんな荒野戦などしなくても良いと私は思っている」


 ラージャの言うことはたしかにその通りであるのも事実だったが、タイランを取られれば再度取り戻すのはほぼ不可能に近いという考えが国の総意であった。それに一万二千と言う過去例を見ない大群にいくらタイランとは言え死守できるかは皆想像が出来なかった。


「クソが。帝国に大きなダメージが与えられる糸口が見つかるまでは当たってきた物を返すしかないか」


 ジゲンがそう吐き捨てるたところで天幕に伝令が入る。


「失礼します!ジゲン団長にお伝えしたいことがあり馳せ参じました!」


「今は軍議中だ、後にしろ」


 ジゲンはそう言うが伝令は尚も食い下がる。


「いえ!どうしても早急にお伝えしたくどうかご容赦ください!」


「......」


 ジゲンはラージャ目配せをするとラージャは顎でかまわんとしゃくる、その態度にイラッとしたジゲンだったが何も言わずに伝令に言葉を返す。


「入れ」


「失礼します!」


 伝令が入ってきてジゲンに耳打ちをするとジゲンは静かにそれを聞いていたが最後に驚きの声を上げる。


「なに!?それは誠か!」


「は!間違いないとセシル大隊長殿が!」


「そうか」


「どうかしたのかな?」


 ヴァーチャスがジゲンの驚きぶりに何をそんな驚いているのか気になりすぐに質問をする。


「.....本国から確かな伝手で情報が入った」


「ほう、それは吉報かな?」


 この戦争を軽視しているヴァーチャスは自分の口元の生えた髭を撫でながらそう言う。

 北がいる帝国はどれだけもつれようと長くてニヶ月の戦争だと思っているヴァーチャス、それに後ろにはタイランがある最悪引けば良いだけの話だと認識していたからだ。


「いや、北と帝国が二年間の不可侵条約が締結されたと」


「ばかな!?」


 そこにいた全員がヴァーチャスと同じように驚く。

 北国、デル王国と帝国との二年間の不可侵条約は、詰まるとこと帝国は二年間背後を気にせずタイラン攻略に専念できるということだった。


「ありえん!あのデルと帝国が不可侵条約など、そもそもその条約でデルは何を得るというのだ!」


「わしが知るものか!」


 ジゲンも吐き捨てるように言う。


「......」


 ラージャはそれを聞いて黙っていたがすぐに口を開く。


「仕方があるまい。その情報が本物であるかはもう少しすれば確実にわかるだろう。ひとまずは先程話した通り明日以降も戦線を維持する。詳しい話はその情報が確定してからまた行う事とする。皆解散しろ」


 ラージャがそう言うと各々が天幕を出て行く。皆様々な顔をしていたが一様に青ざめた表情をしていた。


「ラージャ、後手には回るなよ」


「貴様に忠告されずともわかっている」


 ジゲンは天幕から出る際にラージャにそう言うとフンと鼻を鳴らして天幕から出て行く。

 全員が出て行った天幕でラージャだけが変わらず机で腕を組んで一点を見つめていた。

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