これが
ジン達がダーズ荒野についてから数時間、日が開けようとしていた。
早朝、伝令によって隊列を組んだ騎士団は総勢一万、向かい合う帝国兵およそ一万二千、その光景は壮大の一言だった。
ジン達は白虎騎士団が主軸となる右翼に配置されていた。
その理由が青龍より白虎の方が兵の数が少なかったからである。
青龍騎士団の大部分は左翼に配置されジン達は中隊規模で右翼配置とされていた。
また最前線で戦うものは白虎騎士団に収集された平民の兵で国防のために駆り出された取集兵だった。
最前線に配置された第十七小隊はその光景を一番先頭で見ていた。
「こりゃすげー」
ジンは少しの恐怖とそれよりも壮大光景に思わず一言出てしまった。
「よ、余裕ですね」
言葉を詰まらせていうのはダイナだ。その顔は青ざめ少しだけ震えているいるようにも感じた。
「ガキだからな。わかってねーんだろーよこの光景の意味がな」
もはや隊長に対しての言葉使いではないが、そこまで気が回る余裕がなくなっているのはダリル。
ジンは他のメンバーに目を向けるとトールとガダンは口を開く余裕すら無くなっていた。その顔は血の気が引き呼吸は荒くなっている。
ミシェルに至ってはほとんど過呼吸に近いほどに呼吸が荒くなっている。
ミシェルの様子は流石にまずいと、ジンがメンバーに振り返る。
「いいかい諸君、君たちはとりあえず俺の後ろをついてこい」
「何言ってやがるガキが」
いきなりのジンの発言にダリルは文句を言う。だが、ジンはその声を無視してミシェルに視線を合わせると話を続行する。
「ミシェル、大丈夫だ落ち着いて」
じっと視線を合わせるジンを見ていたミシェルはゆっくりと呼吸を整えていく。
ジンがミシェルの呼吸が整うのをみると他のメンバーに一人一人顔を合わせる。
「いいかお前ら」
そこで話を切るとちょうど全体に号令が発せられる”進め“と。
「黙ってついてこい」
そう言ったジンは先程の物腰の柔らかい少年ではなく、獰猛な戦士の佇まいだった。
開戦を知らせるドラが鳴らされ敵味方一斉に走り始める。
ジン達第十七部隊も例に漏れず走り始めていた。
四方八方から細く激しい息遣いと自分を鼓舞する叫び声が聞こえる中、ジンは一番先頭を走っている。
(覚悟か)
ジンは走りながら自分に問いかける、できたか?と。
(この刀に乗せるのは何だ)
自分の腰から刀を引き抜きながらも考える。
これは戦争だ、敵も大義のために剣を振るう、敵の数だけ覚悟がある。
ならば自分が想う刀を振るう覚悟とはなにか。
(わかってる)
この刀に乗せる覚悟は分かっている。
元々分かっていた、けれど自分が戦場に立った時、怖気付かないかわからなかった。
(でも大丈夫だ、俺はやる)
“守る”覚悟。
(これが俺の覚悟)
自分と帝国兵が10メートルを切ったところでジンは決めた。
(すまん、俺の覚悟を通すために死んでくれ)
身勝手な宣言、だが戦争とは結局のところ両方の身勝手なのだ。
どこまでいっても殺し合い、そこに正当性などないのである。
あるのは、互いの譲れぬ何かとそれを通す覚悟だけである。
「飛び出すな!」
どこからか声がしたがジンは決めた瞬間に一歩大きく踏み出す。
後ろで自分の部隊が動揺しているのが分かったが、かまわず走る。
ジンは前線部隊から少し突出して前に出たため格好の的となる。
「バカが!死にに来やがって!」
帝国兵がジンを刺し殺そうと両手に持つ槍や剣を突き出すが、視界がブレる感覚を伴って目の前が暗転する。
「マジかよ」
走りながらダリルはつぶやく。
今、目の前で起きたことに理解が及ばなかったからだ。
それは一瞬の必殺だった。




