ダーズ荒野最前線(一)
それは一瞬だった。
それを近くで見たものは理解が追いつかなかった。
一人の少年が全体より10歩ほど飛び出しそれに向かって帝国兵が殺到したのを見て、「ああ、彼は死んだ」と頭のどこかで思った矢先、彼に殺到した帝国兵は皆一刀両断されて地に伏した。
そして全体よりも先に突っ込んだ少年は尚もより深く斬り込んでいく。
その刀から繰り出されているであろう剣戟は辛うじて剣を振っていると思う程度しか見えず、しかし彼がいる場所から血飛沫が上がる。
異様な光景に少しばかりポカンとしています兵士、だが次には現実に引き戻される。
少年は叫んだのだ。
「うらああああ!!!」
目の前の少年の一瞬の戦果は先程まで恐怖に支配されかけていた前線の人間に士気を与えた。
さらには少年の開けた穴に敵が動揺したのだ。
「「「ううぉおおおお」」
けたたましい怒号と共に両軍は衝突する。
とうとうタイラン防衛戦が始まったのである。
ジンの後ろを追走しているのは第十七小隊である。
「マジかよ!!」
ダリルは横から突いてこようとした槍を持った兵士を叩き斬りながら言う。
「おいおい、うちの隊長はなにもんだ?」
「コネで入った実力じゃないぞ!」
近くにいるダイナは走りながら言う言葉に返すダリル
「考えるのは後にしましょう!」
そう言うがトールだが、ジンの実力に驚いていたのは明らかだった。
目の前でコネで入ったと言った少年が大暴れしているせいで自分達への飛び火が抑えられている状況に皆動揺していた。
「そうは言うがな」
ダリルは目の前で帝国兵を血祭りにあげている少年に恐怖した。
「そういえば」
普段あまりしゃべらないガオンが珍しく喋る。
皆が各々帝国兵と戦いながらガオンは続ける。
「ジゲン団長の息子ってジンて名前じゃなかったっけ」
そう言ったガダンに小隊全体が驚愕する。
「いやでも似てなくないかしら?」
先程はパニックで声も出なかったミシェルがジンのおかげでなんとか喋る余裕を取り戻していた。
「似てねーな」
快進撃を続けて数十分ジンが急に快進撃を止める。
「どうした?」
急に止まったジンにダリルが聞く。
ジンは殺到してくる帝国兵を捌きながらダリル達に顔を向ける。
「これ以上は先行しすぎる、少しこの場で持ち堪える!ダリル、ダイナ!お前らは左右の敵に集中しろ!ガオン、ミシェルは背後の敵に!トールお前はできるだけ味方の位置を把握しろ!」
「味方の位置?」
「どうやらうちの指揮官はやられたらしい」
「何でそんなことがわかるんだ?」
「隊列がぐちゃぐちゃだ!このままじゃ押し返される!大方指揮官が近いところから崩れてるんだろう!」
トールはジンが隊列を気にしていたことに驚く。
何の考えもなく快進していただけだと思っていたからだ。
「仲間を見つけてどうするのさ!」
「見つけ次第救援にいく!おそらく新しい指揮が下りるまでは隊列が意味をなさない!少しでも隊列を組める味方を拾ってく!いいか!」
「俺らだって隊列なんてあってないようなもんじゃ」
「この規模の戦争で小隊の隊列なんてのは意味をなさねーんだ!そして今現状中隊長がそれぞれの判断で好き勝手に指示を出してる!いいか!少しでも味方を拾ってターゲットを分散させて耐えるぞ!」
ジンが急いでるためか厳しい言い方になるが皆、兵士である。
すぐに適応する。
「「「「了解!」」」」
全員が返事をすると各々が動き出す。
この時ジンの読み通り、ジン達がいる右翼の指揮官は流れ矢で死んでいた。
大きな大戦の最中指揮官が死んだために迅速に次の指揮権がある者に指揮が譲渡されなくてはいけないのだがそれが過去に例を見ない規模の軍に、もたついて未だに正常に行われていなかった。
更に近くに中隊長がいる部隊はどうにかなったがいないかった部隊は小隊規模で動かなければならない。この混沌とした乱戦の中では死活問題だった。
それでも小隊長として各々が判断を下さなければならない為、小隊長各々判断で行動した結果、隊列が乱れたのだ。
それをいち早く察知したジンは行動を開始した。




