恥
「それは事実でしょうか?」
ジンはドールとリナリーが婚約しているのが事実であるのかとディノケイドに尋ねる。
中々に不敬ではあるがここで確認をしてもしそれが事実であるならジンはしっかりとドールに謝罪をしなければいけない。
そのことをディノケイドも推察して応えてやることにする。
「そんな事実はない、そもそも先程リナリー嬢はジン、お前の求婚を受けたであろう」
「父上!」
「ドール、いい加減喚くのをよさないか。それにわしはお前に一言でもリナリー嬢との婚約の話をしたか?」
「して、おりませんが、俺はそう聞き及んでおります」
「であるならば、それは根も歯もない噂であろう」
「そんなわけが!」
「ドール!くどいぞ」
ディノケイドはこれ以上自分の息子に失望させてくれるなと言う気持ちで叱責する。
ディノケイドが無いと言えばこの国で起こる事は大抵無いのである。確かにこれは聞こえは悪いが政治的側面を考えれば致し方無いことでもある。更に言えば今回ディノケイドからの直接の婚約と言う話はドールにはされていないので事実、婚約はしていないのだ。
「ぐぅ!」
これ以上、ディノケイドの機嫌を損ねるのはまずいとドールは押し黙り、ディノケイドではなく標的をリナリーに変える。
「リナリー!こんな成り上がりの子供の婚約者など本気か?お前には俺といた方が幸せに出来る!お前の欲しい物、やりたいこと何でも叶えてやるぞ?それに、王太子と侯爵家の令嬢、身分的にも申し分なく、これから先お前には何不自由ない暮らしが待っているのだぞ?」
「殿下、確かに私が殿下に嫁ぐことには大きな意味もありましょう」
リナリーの言っている、大きな意味とは政治的な意味合いであるが、ドールは理解していない。
「であれば!」
ドールがリナリーの言葉に顔を輝かせると同時にリナリーがドールの言葉を遮る。
「ですが、私は生まれて初めての気持ちを貫くことにいたしました」
「どう言うことだ?」
ドールはリナリーの言っていることがわからずに聞き返す。
するとリナリーはドールから視線を外し、黙って聞いていたジンを見てハッキリと言った。
「この方が私の運命の人であるという直感を貫くということです」
顔を真っ赤にしてリナリーが言い切ると、ジンも気恥ずかしそうにする。
「......何をいっている」
ドールには理解出来なかった。
ドールとジンはリナリーに間違いなく一目惚れをし、お互いに一人の女性に惚れ、ジンはその場で求婚し、ドールは婚約できると知り優越に浸った。
そして、選ばれたのはジンだった。
どこにでもある三角関係のお手本のような構図である。
だがドールはそれが納得できなかった、欲望はもれなく叶ってきたドールが初めて叶わなかったのだ、納得できるはずもない。
だからドールはこの気持ちがなんなのかも理解出来ずにただ自分の気持ちのままに口を開く。
「ふざけるな!これは王太子命令だ!この俺がリナリーと貴様の婚約を認めん!リナリーは俺と一緒にあるべきだ!」
王太子命令とは王が承認した王太子の命令のことで、その価値は王命に最も近しいものだ。
「ドールよ、わしはその命令を承認した覚えはないが?」
ディノケイドがドールに言うとドールはディノケイドの声が耳に入っていないのか尚も騒ぎ立てる。
「認められるか!リナリーは俺の物だ!貴様などにくれてやるか!」
それを見かねたディノケイドは扉に向かって声をかける。
「ゼスター!ドールを退室させろ」
その声にはドールも反応した。
「な!?お待ちください父上!何故俺が退室せねばならないのですか?!」
「部屋へ戻ってよく考えてみろ」
ディノケイドは最早ドールなど眼中にないように静かに突き放す。
部屋に入ってきた二人の騎士が、殿下どうぞこちらにと言うとドールは納得できずに暴言を発しようとした。それを言う前にディノケイドが声を荒げる。
「ドール!退室しろ!」
ディノケイドに言われてドールは渋々と退室していくだが、その目には怨嗟に近いものを宿してジンを睨みつけるのであった。




