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運命

 ジンはジゲン達と別れてメイド達に正門へと案内されていた。


「にしても広れーなー」


 なんの気無しに歩く廊下の広さに独り言が漏れるジン。メイドはそれに反応を見せず粛々と歩いてて先導する。

 反応を求めたわけではないためジンも特にそれ以上何も言わずについて行く。

 しばらく歩いた時正面からこちらに歩いてくる人影をジンはメイド越しに確認した。メイドもそれを確認したのかそっと脇へより一礼する。

 ジンはメイドの行動に少しの困惑を覚えた。メイドが礼をするということはこちらに向かってくる一向は貴族ということになる。幼少から剣の修行に明け暮れていたジンは礼儀作法は基礎の基礎しか知らなかった。しかもジンは幼少のお披露目式が修行の期間とかぶっていたため貴族の顔や名前など何一つとして知らなかった。知ってるのは自分のバスター侯爵家の人間くらいなものだった。


「ジン様、フォルム侯爵様御一行です」


 固まっていたジンに助け舟を出すメイドにジンは感謝しながら貴族の礼に倣った一礼をする。

 フォルム侯爵といえばジゲンが懇意にしていてリュウキも家に遊びに行く間柄であることがわかっていたので失礼がなくて良かったと胸を撫で下ろしながら一礼していると一向がジンの目の前までくる。


「しばしまて」


 ジンの目の前で足を止めた金髪碧眼で世の女性は見られたらコロっと行ってしまいそうなダンディズムな男性がメイドを止める。


「そこな少年」


 このタイミングで少年は自分しかいないだろうと返事をするジン。


「はい」


「顔を上げてくれ、君は見たことがないんだが名前を教えてもらってもいいかね?」


 素直に顔を上げてジンは少々驚きながら自分の名前を名乗る。


「はい、私はジゲン・オオトリが長男、ジン・オオトリです」


「おお!やはりそうか!ジゲンの倅か!」


 嬉しいそうに笑うフォルム侯爵は一歩前に出て名乗る。


「すまない、私はキリル・フォルムだ」


「存じております」


 ジンは無礼のないように修行に行く前にジャスと行った礼儀作法を記憶の底から引っ張り出しながら頷く。


「ははは、なんだジゲンと違って礼儀正しいな」


「親父殿、あ、いえ、父上はなにかと破天荒な方ですから」


「言い直さなくても良い、あいつとは学園以来の仲だ。その息子なれば友の息子よ。知り合いのオヤジに会ったと思えば良い」


「そう言っていただけると幸いですが、ここは人目がありすぎます。いつかの席では存分に甘えさせていただきます」


「ほう、そうか!ではまたの機会を楽しみにしておこう」


「はい」


 キリルは嬉しそうに笑うと何か思い出したかのように話を再開する。


「そうだ、紹介が遅れたな娘のリナリーだ。リナリー挨拶なさい」


「はい、お父様」


 リナリーと呼ばれた少女がキリルの後ろから顔を出して綺麗に一礼して顔を上げる。その瞬間ジンは世界の時が止まったと錯覚するほどの衝撃だった。


(なんて、綺麗な人だ)


 ジンの思考はその一つに征服され他の思考が全て停止した。白銀に近い金髪に、空よりも深いブルーの瞳、全ての美が完璧な調和を成した顔立ちそしてそれをも凌駕する雰囲気、思考が回復しようとする中で新しい思考に支配される。

 運命だと。

 その思考の後に師匠がいつか言っていたことを思い出した。


「いいか?ジン、運命ってのはビビッと来た時が勝負だ。そこに理由とかそういうのは後付けでいい自分にハマったと思うならイケ。そこを逃したら全て詰みだ。ここだと思ったら何も考えるな全ては心に任せて行動しろ」


 ガクゼンは生死を賭けた運命の一瞬の話をしていたのだがジンは何故かこれが今この時に必要なんじゃないかと思い心の思うままに行動してしまおうと思考を放棄した。

 思考を放棄した途端にスッキリとした頭にまたガクゼンとの会話が蘇る。


「そういえば師匠って独身なの?」


 いつかなんの気無しに聞いたジンにガクゼンは酒瓶を置いて懐かしむように話す。


「そうさなぁ、わしも元は国で剣を売っていた身だ、好きな女の一つや二つはいたさ」


「でも今は独身だと」


「バカタレ話は最後まで聞け」


「すみません」


 ペシっと後頭部を平手で叩かれたジンは叩かれたところを撫でながら謝る。


「好きな女がいはしたが、愛した女は一人だったな」


「へえ!じゃあそれが師匠の奥さん?」


「夫婦にはなれなかったな。今よりも酷く命が軽い世界だった。わしは愛した女一人守れねーようなクズ野郎だったってだけさ」


 ガクゼンはグイっと酒の入ったお猪口を煽りながら自虐的に笑った。


「ごめんなさい」


 ジンは自分が如何に愚かだったか後悔して謝った。


「けっ!ガキが気ーつかってんじゃねーよ」


「でも」


「でもも、へったくれもねー......だがなジン覚えておけ、もしお前が自分の全部で守りてぇ者がいるなら尚更な」


「うん」


「愛してるってことを絶対に伝えろ次の瞬間には自分が間違いなく死ぬかもしれねーって時だとしても伝えろ。そいつが後悔しない生き方ってやつだ」


「......師匠は伝えられたの?」


 ジンは俯きながらグクゼンに言うとガクゼンはゆっくりと天井を見上げてポツリと言った。


「ああ、言ったさ」


 その一言に込められた想いに何もいえなくなったジンはただ黙って己が師匠を見つめるだけだった。

 だから、ジンは言うのだ、たとえこれが無礼千万、突拍子も脈略も何もかもをぶっ壊していたとしても、ただ一言を。


「貴女を、俺が死ぬまで護ると誓う、だから結婚してくれないか?俺は多分貴女を死ぬまで愛してやまない」


 強烈な一目惚れ、と数秒の思考、その後の熱烈な求婚、これらは一分の間に済まされたことだった。

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