毛だるま
おはようです眠いですね
ジンとジゲンの修行は例の一件から数日経って始まろうとしていた。
その間にルイとジゲンのジンの教育方針による家族大喧嘩があったり授業はどうするのかと文句を言うジャスをいなしたりとあったが割愛しよう。
「親父殿どこに向かっているんだ?」
年単位で家を開けることになったジンとジゲンはルイに抱きしめられること数十分、オウカに泣き付かれること数十分を経て馬車で移動していた。
「ついたらわかる」
ジゲンは目を瞑って短く答えた。
(こりゃあれだな、オウカに俺だけ行かないでとせがまれたことを根に持ってるな)
ジンはオウカに泣き付かれたがジゲンはそんなこともなく送り出された。これは単純にジゲンは何度か家を開けることもあったからであるが、やはりジンだけがオウカに泣き付かれるのは面白くないらしい。
馬車が止まりジンとジゲンが降りるとそこには森が広がっていた。
その森に入っていくジゲンの後をジンは何も言わずに追った。
ずんずんと進むとそこに寂れた古屋がポツンとあった。
ジゲンは古屋の前まで歩くと振り返り真剣な顔をする。
「ジンこれから始める修行はおそらくお前の想像を絶する筈だ。一年後にお前を戦場に連れて行くと言ったらルイが戦場よりはここの方がマシだと言うのでな、ここでお前の修行を行う」
「親父殿も同じ修行をしたの?」
「したな、この古小屋の師匠にな」
そう言うとジゲンの後ろの古屋から建て付けの悪い扉の音が聞こえてジゲンが振り返る。
「なんじゃ、人んちの前でうるさいのお」
そこから出てきたのは顔中白毛で覆われた老人というより妖怪に近い存在だった。
「む?なんじゃ懐かしい顔があるな」
(その毛でどうやって顔を認識してるんだ?)
「ご無沙汰しています、師匠」
(師匠!?)
急な対面にジンは内心驚いたが顔には一切出さなかった。
「なんだい、暴れん坊か」
「師匠、その呼び方はやめてくだされ、一様倅の前なので」
「せがれ?」
そう言うと毛だるまはジゲンの後ろを覗き込むように見る。
「お前のせがれか」
「はい」
じっとジンを睨むように見る毛だるまにジンも目を逸らさずじっと見返す。
「にとらんな」
興味をなくしたのかボソっとつぶやいて家に戻ろうととする毛だるまにジゲンが待ったをかける。
「師匠、こいつの居合だけ見ていただけませんか?」
「居合?こんなガキが居合などできるわけなかろう」
「できます」
イラッとしたジンは一歩前に出て堂々と言う。
「ほう」
面白そうに笑う毛だるまにジンは今までひたすらにやってきた居合の構えをする。
「腰の刀は飾りじゃなさそうか」
つぶやくように言った毛だるまの声はジンには届かなかった。それだけ集中していたのだ。
ジンが集中を高めて抜刀する。
刀を振り終わり鞘に戻した瞬間にヒュンと空気を切る音が聞こえる。
ジンが姿勢を戻して毛だるまを見ると髪の毛と髭の間から目が見えた。
どうやら驚いているらしい、ジンはそのことに満足してドヤ顔をする。
「そうか、暴れん坊、このガキは置いてけ」
「師匠ならそう言われると思いました」
「生意気になりおって」
どこか嬉しそうに言う毛だるまにジゲンも頬を緩める。
「どら、お前も久々にしごいてやるか」
そう言った毛だるまにジゲンは緩んだ頬が引き攣るのだった。
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