7 人違いと魔法剣
よろしくお願いします
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バッガァン!とカウンターが粉砕された中から俺は剣を拾いだして、鞘にしまった。
本当にコイツ鍛治師か?
他人の打った剣をいきなり否定して叩き折ろうとするとか鍛治師として最低だろ…こんなヤツに認定されたくない!
そう思ったときにステータスが変化した音が聞こえた。
拒否した事によりジョブの『鍛治師』が『鍛治師見習い』に戻りました。
Lv9/10に戻ります。再度別の鍛治師に依頼してください。
おぉ~…ジョブのレベルって戻るんだな~と、また1つ知識が増えたと同時に残念な気分になった。
そんな時、店の扉が開いた。
「何だ~?凄い音がしたぞ?また暴れてるのか?」
唖然としているステラでもレイグルない、曲がった大剣を見つめているバルザでもない第三者だった。
肌は褐色でイケメンだが姿は煤で汚れた荒いシャツに厚手の前掛け、分厚い手袋と靴の保護具…俺はピンっと来た。
「あの~…鍛治師の方ですか?」
「おぉ~そうだぞ?ここ辺りでは一番腕が良い鍛治師って言われてるぞ」
若干軽い気もするがこの人にお願いしようと思った。紹介状を持ってここに来たことを伝えた時、怪訝な顔をされた。
「…ここを紹介されたのか?」
この質問も、もっともで…実はこのボルカの鍛冶屋を過ぎると鍛冶屋がいっぱいあったのだ。
紹介状を見せてまた分かった事があった。
「これ俺への紹介状じゃん!バルザ…てめぇ、ふざけんなよ!」
バルザは本当に最悪な事をしたらしくメチャクチャ怒られてた。
店を出ると
「俺『が!』紹介状に書いてあった。鍛治師のフォルマな!」
マスターの伝え方が悪かったせいで時間を使ったが剣を見てもらえるので良しとしよう。
しかしこの人…俺が持ってる剣から視線が離れない。本当に剣が好きなんだろうな…と歩いていくと
「ここが俺の店だ!」
サッとカウンターの位置に着くと目を輝かせてフォルマは言ってきたのだった。
「さぁ!その剣を見せてくれ!」
苦笑しつつ剣を渡す。
剣をキン!と一息で抜き放つと持ち手から見始めた。
その瞬間から目付きが変わる。ゾクッ!とするほどの視線で様々な角度から剣を一心不乱に見る。
フォルマが5分ほど見てから一言
「この剣…一度ダメージ受けてないか?」
俺はビックリしていた。
見た目的には一切傷など無いのだ、なのに大剣を叩き付けた事を見抜いた。
説明することに決めた。
「実は…」
「あ~…ったく…あのバルザが…」
説明したらフォルマは苦々しい表情に変わった。
「こんなに素晴らしい剣なのに嫉妬で叩き壊そうとするなんて、鍛治師の片隅にも置けね…」
説明に嫉妬とか言ってないが『見習いの癖に』こんな剣を打ちやがって!と言うことなのだろう。
多分俺の技術じゃなくて女神アウラ様のお陰だと思います。
火竜の魔法を使った剣の特性で、もしかしたら火を吸わせたらダメージが消えないかな?と思って一度剣を預かり火竜の息を当てた。
「おい!…!?」
一瞬慌てたフォルマだったが剣が火を吸い込み出して黙った。
コブシ大の火竜の息を吸い終わると剣が輝いたように見えた。そしてもう一度見てもらう。
「もう一度見てもらっても良いですか?」
フォルマは驚いたまま剣を受けとりまた見て驚いた。
「…ダメージが消えてるだと!?しかし…少し粗削りだが良い剣だ。」
うっとりと剣を見ているフォルマだがよほど剣が好きなんだろうな…
「よし!お前の剣は合格だ!『鍛治師』としてガンバっていけよ!で…名前なんだっけ?」
名乗り忘れてた…
「カズキです。カズキ・ホムラ」
そして俺は改めてフォルマと握手をしたのだった。
そして先ほど聞いた音が流れた。
ステータスを見ると『鍛治師』に変わっていた。
再度ミスリルの使用が可能になりました。
フォルマの店内の剣を見ていて思った。
バルザの店と品質が偉い違いだ!
こんなに違うものかと見ていると…
「カズキ、その剣売ってくれないか?」
「えっ?こんなに良い剣いっぱいあるじゃないですか」
本当に不思議だったが理由は確かにあった。
「それでも魔法剣は無いだろ?」
「えっコレでも魔法剣なんですか?」
俺は剣を指し示す。まさか刻印打ってないのに魔法剣だと思わず返事をしていた。
「えっ?」
「えっ?」
後ろの二人から、ため息が聞こえた気がした。
「…お前さん知らずに魔法剣を作ってんのか」
フォルマは俺の態度に若干ガックリしていた。
そんな時にステラが助け船を出してくれた。
「申し訳ありません、カズキは『迷い人』で知識があまり無いので私とレイグルさんで色々教えているんです。」
話を聞いてみて魔法剣は魔法を使いながら打つので難しいらしい…確かに、火竜の魔法で鉄を1個だけ蒸発させたしな。
そもそも蒸発させるほど高火力な魔法が普通は無いと俺は知らなかった。
「私はステラと言います。迷い人のカズキをギルドより指導役を仰せつかっております。」
ステラがお辞儀をしている横で思う。ステラって時々言葉遣いが高貴な感じがするのは気のせいなんだろうか?
貴族と交流した事がないので分からないが勝手なイメージを持っている。
恐らくアレだ、初めて出会った美少女は高貴な身分を隠して~…ってラノベの読みすぎだ。
「そんでもって俺はレイグル。冒険者ド初心者な大将に剣を打ってもらうために二人で色々、この世界の教育してるんだ」
白いモフモフした獣人で虎族の青年。出会ったばかりだが盗賊系の物知りなお兄さん的に思ってる。
「俺に二人とも親切にしてくれて助かってます」
まぁ打算的な思惑があろうと親切にされるのは嬉しいものだ。
「それでだ…この剣を金貨100枚で売ってくれないか?」
ちょっと驚いた。この剣はそんな値段で売れるのか!?。
俺が考え始めるとステラが止めた。
「ちょっと待ってください。この剣は金貨50だと思うのですがどうして100枚になるんですか?」
ステラが止めた理由。俺に変な価値観が根付かない様にあえて止めたと後で教えてくれた。
「カズキとさっき話した時に『コレでも魔法剣なんですか?』って言葉を聞いてね、この剣…まだ先があるんだろ?」
フォルマは観察者としても、かなり鋭いらしい。
「ごめん…ステラ、まさかアレで魔法剣になるとは…」
「いえ、私も悪いんです。包丁の時に注意する事も出来たのにしなかった私の落ち度もありますから…」
基本的にクラフト魔法を除く攻撃系の魔法で作成すると魔法剣になるらしい。
水系と氷系の魔法剣ってどう作るんだ?と思って聞いたら鋼までは結晶に魔法を込めて砕いて混ぜるらしい。
ちなみにミスリル以上だと鉱石自体が魔法の触媒になる事もあって直接魔法を込めて、打つ時も金槌に魔法を込めて打つ事で魔法剣が出来るらしい。
思い通りに打てる分、加減が難しいらしい…。
これも後で教えてもらった。
「カズキから買った剣はダンジョン産とでも言って売らないから安心しろ。むしろ俺のコレクションとして並べるだけだからな」
「売った」
固い握手を交わしあった俺達だった。
早速ガラスケースに入れてカウンター側の壁に飾ってくれた。
「そんなに気に入ってくれたんだ?」
俺は苦笑するけど、フォルマは大真面目な顔して
「いや~真面目に鋼とは思えない位に良い剣だよコレ?」
なんか嬉しくなったので刻印してあげる事にした。
「その剣まだ完成してないんだ。一回出してくれない?」
もちろん嘘だ。剣として完成してるけど個人的に、魔法剣としては完成してないと思ってる。
「工房をちょっとだけ貸りても良いかな?」
快く貸してくれた。後ろで見させてくれ!という条件付きで…
オリハルコンの鏨を出して紋様のリストを表示。ここで微妙な厨二病知識が役に立つ。
陰陽師の陰陽五行が作用するらしく『相生《補強》』と『相剋《抑制》』を上手く組み合わせることが出来る。
初の長剣系なのでかなりの範囲に刻印する事が出来る。
なので…根本にまず水の刻印をする水玉模様を5つで星を作る。
そして木の弦をイメージし水の星から太い根から伸びて先に行くほど細くなる唐草模様を刻み込む、その横に波模様と水の星を刻み木の成長を促す。
ここまで剣の半分以下しか刻印していない。
この剣のコンセプトである『炎』を入れていく。
育った樹から葉が落ちて炎を育てる。
伸びた弦から火が上るイメージ、葉っぱは舞う火の粉のイメージを持たせて炎と弦が絡み付く刻印を施す。
水の刻印は出力が上がりすぎない様に念のために刻み込んである。
効果があるのかは不明なんだけどね…
両面ほぼ同じ刻印を施して完成した。
・ 高品質なブロードソード
『白鋼の炎剣』
分類:長剣
攻撃力:70
鋼で丹念に作り上げられ竜の炎で鍛えられた、鋭い切れ味と扱いやすさが特徴な鋼の長剣。剣自体が炎を出す事ができ、その炎を吸って剣自体が再生する特性を持つ逸品。
うん、剣がダメージ受けるそばから再生して折れる事がないから戦い放題って 事だね。
鋼でこれってヤバいだろ…
今さらだけど、もしかして鞘にも刻印って出来んじゃね?って事で水と氷の刻印をしておいた。剣の熱で鞘が燃えたら困るしな…
「これで良いかな…はい、これで完成です。認定ありがとうございました、それでは失礼します」
俺は礼を言うとポカーンとした顔のままのフォルマに剣を渡して店から出ていった。
その後、フォルマは剣を振ってみて狂った様な笑みを浮かべていたらしい。
帰り道、焼き鳥を3人で食べながら帰ってる。この焼き鳥は女神様に貰ったヤツだ、が腐ったりしないらしい。
貰ったバックが時間経過無効だから問題ないらしい。
「良かった~、無事に『鍛治師』になれた。二人とも俺に付き合って貰っちゃってありがとう。」
「まぁ大将にスキルも含めてガンガン上げてくれりゃ~俺もステラも得だから問題ないぜ~」
レイグルが自分の双剣が入った鞘ををポンポン叩いて答えてくれる。
「私は違いますからね!魔法職ですから前衛がいて欲しいとは思いますが…一緒に成長できる人がいると張り合いがある…じゃないですか?」
ステラは、ちょっとだけ頬を赤くし上目遣いで言ってくる。個人的にはステラの方が絶対に強いはずなんだけどね。
魔法職単体でレベルを上げるのは簡単だと思っていたが安全マージンをとると、どうしてもレベルが上がりにくいらしい。
魔法を外したら圧倒的な危機的状況に陥るし、何より魔法使い系は装備が紙耐久が定番なので…やむを得ず接近戦になった場合に備え、ある程度の剣術や短剣術を習うらしい。
その場合は基本的に逃げの一手になるらしいけどね。
あっ…そういう意味であのナイフ…魔法剣に感謝してくれたのかと今になり分かった。
呪文を唱えず無詠唱で水刃や氷柱を出せるし…
ん?…なんで普通に無詠唱じゃないんだ?
俺も火竜の魔法を使う時に唱えてたけど非効率だよな…
「魔法って無詠唱で使わないの?」
言ったら二人にギョっとした目で見られた。
「お前まさか…無詠唱で使えないだろうな?」
「えっ?嘘ですよね?」
変な状態になってる二人だけど正直やってないはず…ん?
「やったこと無いから出来るか分からないな…ちょっと待って…」
手を前に出して『火竜の息』をイメージする。
白炎の塊で燃え上がる効果…
「おっ!出来たね!」
出来た事を確認して二人を見たら夕暮れ時に頭を抱えていたのだった。
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