第四話「終鬼の闘い」
土竜 土蜘蛛の妖怪。蜘蛛の中でも武闘派で誠実さを兼ね備えている勇敢な者である。多足族の長に選手として選出された為、何としてでも勝ち進めていきたいと心に誓っている。
牙 天狗一族の広報担当をしている烏天狗。集落の情報を瞬く間に知らせてくれるので頼りにもなるが、いらない情報まで知らせてくれるので、厄介者としても疎まれている。今回は集落の長を決める武闘会の司会兼実況に抜擢されている。
多足族 巨大な昆虫達でまとめられた種族。蜘蛛などの昆虫に属さない者達も入る。長は蜈蚣の戸愚呂。
熱狂する妖怪たちの声は舞台という闘技場全体に響き渡り、参加する選手達のテンションを上げるのに申し分なかった。妖怪は楽しい事を好む習性がある。故に、各々の技にも磨きが掛かる。
「うおおおお!」
唸りを上げた黒い鬼。得物である巨大なこん棒を大きく振り回し、相手目掛けて殴り掛かる。対するは巨大な八足を地面に食い込ませ、鋭利な口から無数の粘着糸を噴射する蜘蛛であった。
「終鬼には不利の相手じゃのぅ。」
「終鬼選手ぅ!自慢のこん棒を振り回すが、土蜘蛛である土竜選手、粘着性のある糸で腕を拘束し、終鬼選手を壁に投げつけたぁぁ!」
観客席の中央に取り付けられた解説と実況席には、天狗一族長チウニウと烏天狗の牙がいた。解説者であるチウニウは解説ではなく、まるで独り言のように呟くだけであってこれといった解説をしている素振りはない。隣の牙はというと、実況者らしく闘いの状況をこと細かに言葉に発し、観客を楽しませるように奮闘している。司会兼実況である牙は自らの役割を全うしているようにも窺える。
砂煙が立った場所にすかさず土蜘蛛の土竜は地面に食い込んだ足を引き上げ、地面の固い土塊を投げ付けていく。砂煙は更に立ち上がり、鈍い音が響き渡る。
「おおっと!?土竜選手の足にはびっちりと土が張り付いていましたが、これは一体!」
「土竜は足に粘着糸を事前に仕込んでおったのじゃろう。根の様に張り付いた糸は更に広がり、周囲の土を固めて土塊を作り上げたのじゃ。」
「成程…。さて、対抗する終鬼選手は!」
チウニウは独り言の様に呟くが、それを牙は立てた耳に入ったかのように鵜呑みにし、進行していく。二人の関係としては主従関係にある。が、この場では主従関係を払拭し、同じ立場で進めていこうとしている。しかし、そこは主従であるが故、どうしても意見を向ける事ができないでいる牙である。
「ったく、口から吐き出したもんくっつけやがって。」
土塊を直撃したにも関わらず、終鬼は砂煙から現われる。微かな擦り傷があるが、ダメージには達していないようだ。
「その余裕がいつまでもつかな!」
土蜘蛛の土竜は巧みな足さばきで糸を巻き、堅牢な盾と鋭利な槍を形成した。前足に装備した土竜は終鬼に向き合う。
「ほぅ?俺に近接で闘うかぁ?遠距離で口から唾はいてればよかったものを。」
「言っておくが鬼。我等多足一族の武芸には近接格闘における極致がある。力で勝る鬼であっても術を持ち合わせているのだ!」
土竜が盾を構えて、槍の矛先を終鬼に向ける。終鬼は余裕の笑みを浮かべる。
「これは…、終鬼選手。土竜選手の攻撃を受けて立つといった所でしょうか!?」
「ふむ…。土竜は何か仕込んでおるな。」
解説と実況が言うと同時に六足の足が素早く駆ける!
小さくて素早い蜘蛛が人以上のサイズになって駆ける速さは尋常ではない。瞬時に土竜は終鬼の前に現れ、槍を突き出す。
「は、速い!土竜選手、終鬼選手に猛スピードでの突きを繰り出したー!」
槍は終鬼の身体を貫かんとする。だが、終鬼に余裕の笑みが消えることはない。
「はっはー!いい突きじゃねぇか!」
得物を携えた右腕を使わず、空いている左腕を前に突き出す。狙いを定めた土竜の突きは突き出された左腕へと集約していく。
「何か策があるようだが、無駄だ!」
触れた槍先と左手でに触れたと同時に槍全体が網状になり、終鬼を拘束する。
「槍は見せかけ、盾が本命ときおったか。」
「なんと!槍は終鬼選手に触れると捕縛する網になるような仕掛けとなっていた様です!」
観客は悲鳴ととも呼べる程の大声をわめきちらす。鬼族の観客は熱い声援を送り、多足族は静かに土竜の闘いを見ている。
「終わりだ!」
盾が槍へと形状を変え、終鬼に迫る。
「…。どうりゃあああああああ!」
終鬼が怒声を発すると同時に土竜の糸が瞬く間にはち切れ、右手の得物が土竜の側頭部に当たる。
「がっ!?」
体勢が崩れたため、土竜は大きく後退する。自慢の糸を軽々とちぎられたことに驚きを隠せないでいるようだ。
「ぐっ、俺の糸が…。どんだけ馬鹿力なのだ。」
「今度は俺の番だ…。鬼族奥義!鬼道!」
終鬼が右足を踏みこむ。砂煙が吹き飛ぶと同時に、終鬼の周りを黒く禍々しいオーラが電撃の如く迸る。
「で、でたぁぁぁ!!終鬼選手の奥義技!鬼族の誰しもが教えられるとされる鬼道!チウニウ様。これはどういった技なのでしょうか?!」
「鬼族の誰しもが小さき時から教え鍛えられる技じゃな。じゃが、終鬼の場合鬼道を極めた黒いオーラが見えておる。鬼道は険しき道じゃから大変じゃろうな。」
左足を踏みこむ。地面に降り積もる砂が更に宙へと舞う。土竜は体勢を整え再び盾と矛を携える。観客のボルテージは更に上がり、鬼族は紅い顔が更に好調している者が多くいる。多足族は土竜の事を心配する輩がざわつき始めているが、多足族代表の雄姿をその目に焼き付ける為か、静かに見つめていた。
「某、鬼族代表終鬼。貴殿を対等な者として認め、鬼族の奥義をその身を以て体験するがいい。」
「(急に口調が変わった…?)」
「鬼道を発動するとそれに沿った言動になってしまうのが偶に瑕じゃな。」
舞台が振動する。地鳴りに似たその振動は観客席にも伝わる。緊張感を体現するかのように地面の小石は踊り、土竜の巨大な身体にも伝わる。
「くっ!先手必勝よ!」
急速な加速と共に矛と盾を構える。終鬼の身体を目掛けて矛が迫るが、終鬼は矛と盾に目を合わせることなく、土竜の八つの目を見ていた。それぞれ目の方向が違う分、死角を失くしているのだ。二つの双眸だけで八つの目を捉えることは不可能である。が、終鬼は鬼道を応用することによって、八つ目の視線をオーラに視認することが出来ている。
「鬼道式‐其の壱‐。豪拳!」
終鬼の位置と土竜の位置がすり替わった様に見えた。観客や実況の牙にはそう見えるだろうが、控えの選手達とチウニウには何が変わったのかが目に見えていた。
「…がっ!?」
膝を崩した、否関節を崩したのは土竜であった。大きな砂煙を上げながら地面へ倒れていく。終鬼は正拳突きの体勢の状態から暫くして立ち、鬼道を解く。
「っへ、やっぱ耐えれなかったか!」
第四話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めての方は初めまして。
さて、今回は鬼族代表の終鬼と多足族代表の土竜の闘いを書きました。土竜は新しいキャラですので前書きで紹介しております。因みに、以前のお話でキャラの紹介を前書きに書いていなかったのはご了承下さい(前書きの使い方を知らない故にキャラ紹介に使おうと今回から思った次第です)。
土竜は聖騎士のように盾と矛(槍と同様)を携えたスタイルです。他にも蜘蛛ならではの粘着糸。土蜘蛛の特徴的な足の俊敏さ。万能な土蜘蛛にも関わらず終鬼には敵いませんでしたけど(汗
終鬼の強さは今回の闘いで大分わかったかと思いますが、2000文字以内ということを考えますと、もう少し戦闘描写の時は制限の幅を広げたいなぁと感じた今回のお話でした。描写を書こうと思いますと、やはり制限を越えて以内を守ることが出来ませんでした(抑えたが為に描写が少々雑に…)。なので、戦闘描写が入る時は制限を解除して、物語が進む時は制限を掛けていこうと思います。
では、次回でお会いしましょう。