第二話 「大団円」
突然会話に入り込んできた新参者に辺りは騒然となる。今まで何をしていたのだ?いつの間に縁側に…。人によって彼に対しての認識が曖昧であることから、今回の議題に大して思いやりがないようにも思える。その態度に憤慨する終鬼。
「今まで何処にいたんだ!集落の存亡が左右される大事な会議があるっていってたろうが!」
「ん?…あ~、てっきり気付いていると思ってたから空気を読んだ訳なんだけどね。」
「ふむ、それはどういうことだ?ヨウ。」
ジェン・ヨウ。ジェン・ジンの実の息子であり、ジンの後継ぎとしては申し分のない存在。集落の皆からも信頼があり、次期長としての資格は十分あるはずなのだが、いかんせん重要な会議をそっちのけにしているようにも見えている。少なからず、種族の代表達からの印象はあまりよくない。
「そのままの意味だよライさん。空気を読んだ、それだけのことだよ。」
「ほほぅ、既にその力は備わりつつあり、っという訳じゃな。」
「どういうこった?」
「馬鹿な鬼は黙ってろ。」
「うるせぇ!」
「確かに出席はしていたよ。でも、僕が進めるよりは皆で話し合って、相応しい人にやってもらえればいいかなぁってね。でも結局終鬼とライさんが張り合っちゃってたね。先読みはなかなか難しいねぇ。」
まるで何かの賭け事で負けたように後ろ髪を掻きながら乾いた笑いをする。真面目なライはむっと、終鬼は眉間の皺を寄せ、怖い顔が更に怖くなっている。
「それはそうであろう、ジンは集落の事を考えていないことは一度もなかった。信頼も厚い、何よりもジンは分け隔てなく多種族を尊重していたのだ。その報いに応えたいのは事実だ。」
「そうだ!俺だけじゃねぇが、ここにいる奴らはジンの失踪に心配した者の集まりのようなもんだ。なのに、ヨウ。お前は心配じゃないのか!?」
「両者静粛に。してヨウ坊よ、お主は長の座を欲しくはないのか?」
話のを切り出したチウニウ。長の座への欲求がないことを理解した上でヨウに話題をふっかける。皆の視線がヨウへと集まる。
「…う~ん、父さんの仕事は前々から手伝ってはいたけど自分がやるとなると自由がないなぁってね。まぁ、父さんは遊ばせてくれなかった…。」
「ふむ、ではお主は長として君臨したくはないと申す…。」
「けど、考えが変わった。」
周囲がザワつく。否、張りつめていた空気が更に圧縮され聴こえていなかった各々の呼吸音が近くに聞こえているというだけであり、誰もがヨウの次の言葉を気にしているのだ。緊張した会議場、そのど真ん中に座したヨウは口を動かす。
「この長を決めるにあたって、僕も参加表明をしよう。」
ドワァァ!崩れた緊張に罵声を浴びせる種族間の代表達。どういうことだ!さっき話していたことと違うぞ!いい加減な事を言っているんじゃない!主張できない者達は最初に言った者にあやかって不満をぶちまけるしかない。それが集団心理でもあり、発言した当の本人も理解していた。理解していたからなのか、怖気づく訳でもなく、罵詈雑言を音楽のように楽しんでいるふしが見えた。
「うるせぇぞ!!お前らぁ!」
振動が地面に波打つ。終鬼が畳に拳を打ち放ったようで、打ち込んだ畳は繊維がはじけ飛び、終鬼の拳は地面を貫いていた。
「ヨウ。お前が思っているほど長ってのは大変だ。ジンを見ていた俺でもわかる。生半可な気持ちで長になるなら俺は許さねぇ。」
「残念ながらこの鬼と同意見だ。ヨウ、お前の考えは分からないが長としての覚悟が微塵も感じられない今のお前では、我らは付いて行かない。」
「ふふっ、ヨウ坊。周りからの意見はこのようじゃが?」
「そうだね…。僕がこう発言すればこうなるっていうのは別の選択肢としてわかりきってたことさ。あ、終鬼後で直してね。」
「畳の心配はいいんだよ!で、どう解決するんだ。こいつらは俺かこの猫の方が相応しいと今は思ってる。」
「だから、僕から提案があるんだけどさ。いいかな?」
提案、その言葉に種族の代表達は耳を立てる。くすっ、と口角を上げてヨウは言い放つ。
「簡単な話、種族の代表で決闘しあえばいいじゃん。」
「…。」
全員がハトが豆鉄砲を食らったように目を丸くしてヨウを見る。僅かな間があってからゆっくりと…地の底から迫りくる初期微動の如く、高らかな笑い声が会議場を包み込む。
「がっはははは!確かに簡単なことだ!統治力関係なしに、力での統治!話が戻ってしまったじゃねぇか!」
「ふふっ、真に。参加を表明したということはヨウ、お前も闘うということだな?」
「如何にも。っていうより、堅っ苦しく会議で決めるよりは決闘で決めた方が盛り上がるんじゃないかな?代表だけで決めてたら他の皆は勝手に決められていた事に釈然としないよ。だから、決闘の他に演説っぽいのも入れてみたらいいじゃない?」
「ほっほっほ、やはりジンの息子なだけはあるの。この風読みのチウニウ、この闘いの中間を背負わせて戴こうではないか。」
「おいおい、チウニウは参加しないのかよ。お前だって長になりたかったんじゃないのか?」
「儂はもうよい。視ている方が面白くなってきたからの。この集落の未来がどのようになるのか…。高見の見物をさせてもらう。」
「いいだろう。獣人族代表、このライ。決闘に参加させていただこう。ヨウと組手をするのは些か心の衝動を抑えきれない。」
「俺もだ。鬼族代表、終鬼!決闘に参加するぜ!」
「ってことで、他に参加者はいないかな?勿論代表じゃなくても、種族の腕っぷしが代わりでもいいよ。」
では我も!ぐぬぬ、わしはもう隠居しようと考えていたからな…。はっはっは!面白くなってきよった!
妖怪たるもの、楽しそうな宴会には参加せざるを得ない。その読みに的を得たヨウは満足げでもあった。
「じゃあ宴と会場の準備をしよう。集落の皆にも広めていこう!」
こうして、張りつめていたはずの会議は会議という堅い意味を払拭し、宴会を決める楽しき話し合いに収まったのであった。
チウニウは人を惹きつける能力はジンから遺伝で伝わっているのを認識しながら、ヨウを見ていた。
皆さんこんにちは。作者のKANです。このお話から読んで下さった方は初めまして。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?思った以上に2000文字以内というのは収めるものが難しいというのを達観しながら今回のお話を書き上げたものです。というのも会話や描写を挟むことによって文章量が必然的に多くなってしまうからです…。だったら、もっと範囲を広げればいいじゃないか?と言う方もいると思いますが、定期的に更新するという目標を達成する上で、範囲を2500~10000字以上の範囲内にしますと、継続出来る方もいると思われますが億劫に感じる事もあるものです。枠に嵌った考えですと、必然とどこかで堕落してサボってしまう可能性もあります故。読者の方にも2000文字以内でしたら気軽に読む事が出来るのでは?という配慮もしたうえで、なるべく2000文字以内を許容範囲として考えております。あとがきが2000文字越えたら元も子もないんですけどね(笑
さて、次回のお話は決闘です。またお会いしましょう。