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49話

 とりあえず、あそこであのまま鉢合わせするのはリスクでしか無かったので、大聖堂を出た。

 ……けど、情報は欲しいよな、これ……。


 手っ取り早く、今回欲しい情報をまとめるとこんなかんじかな。

 1つ目は、アンブレイル達の進度。

 エーヴィリトに渡ってきたって事はエルスロアで地の精霊の助力は得られた、って事なんだろうけど……それにしちゃ、速すぎる。

 という事は、あっさり地の精霊が助力を申し出てくれたか、無理難題吹っ掛けられて後回しにしたかのどっちかだろう。

 状況によっては、今後のアンブレイルの動向にもつながる情報なんで、できればここら辺知りたい。


 2つ目は、アンブレイル達が光の精霊にもう会ったか。会ったなら、何を望まれたか。

 ……これ、場合によっちゃ、シャーテとアンブレイルの一騎打ちものである。

 元々、シャーテは光の精霊と敵対しまくることが宿命づけられたような未来を選んでいる訳だからそれだけでも厄介なのに、そこにアンブレイルが入って来たらますます厄介。

 アンブレイル、剣も魔法も俺以下だった、っつっても、優秀な仲間や武器、そして何より俺の魔力を持ってるからな。

 それに勇者様だから大っぴらに殺しちまう訳にもいかないし。

 ……ううん、めんどくさい相手である。


 んで、最後の3つ目。アンブレイルはエーヴィリトの王族にもう会ったか。

 ……シャーテがどういう経緯で城を出たのか、俺は詳しく知らないけれど。知らないけれど……シャーテの性格なら黙って、って事は無さそうだし、啖呵切って出てきちゃったなら、それ相応の警戒もされると思う。

 もしかしたら、もう、シャーテが光の塔に住んでる、ってところまで筒抜けてるかもしれない。

 そうなったら……光の精霊がらみか、はたまたそれ以外の『王族のお願い』か。そういった方面でも、アンブレイルがシャーテと対立する事になりかねない。




 ……知りたいことは山の様にあるが、かといって、俺がアンブレイルに接触するとなると、ひじょーにめんどくさい。

 前回みたいに全身甲冑でガッションガッションやるとか、前々回みたいにディアーネのマントの中に隠してもらうとか、そういう事でもしない限り、多分、シャーテVSアンブレイルよりもよりめんどくさいことが待っている。

 かといって、ディアーネにお願いする、ってのも不安だ。

 このお嬢様、器用に何でもこなすように見えて、人から情報収集するのはあんまり得意じゃないから。

 なんというか、ディアーネは案外不器用なのだ。

 器用に見せる事はかなり得意だし、そうみせる事ができるぐらいの器用さはあるんだけど……それでもやっぱり、あんまり器用じゃない。

 下手に出て情報収集するのは多分苦手だろうし、本人もやりたがらないだろう。そして、上から情報収集するとなったら、それを成功させる器用さは足りない気がする。怪しまれるのがオチじゃないかな。

 だったらむしろ、最初から不器用さ全開のヴェルクトがやった方がまだ、奇を衒うという点では勝率が高そうな気がする……。




 ということで、俺達は光の精霊のおわす祠に向かった。

「あそこに見える白いちっさい建物が多分、光の精霊を祀る祠でございまーす」

「王城の敷地内だな」

 魔力を見る目を凝らせば、遠くからでもある程度見えちゃう位にはつよい光の魔力。

 その源、光の精霊を祀る祠は……城の敷地内にあるのだった。


 光の精霊を祀る祠に辿りつくまでに、城の敷地内に入らないといけない。

 リューエンのこの城はアイトリアの城同様に、城の敷地をぐるりと囲むように結界が張ってある。当然だね。

 更に、祠の入り口はまたしても結界で厳重に封じてあるわけだ。

 それぐらい真面目に守らないといけない場所、って事でもあるんだよね。下手に魔物にでも入られたら、ほんとにまずいことになりかねないから。

 ……なので、ここから先は俺1人で行く事になる。

 当然、リスクはあるとも。

 この城の兵士に見つかったりしたら不審者扱いアンドレッツゴー牢獄だし、光の精霊のご機嫌を損ねたらやっぱりレッツゴー牢獄になりかねない。

 唯一マシなのは、光の精霊が俺に対して直接手を下す事は出来ない、って事だ。

 なんでかって、精霊は実体の無い存在だから。

 人を始めとして、この世界のありとあらゆるものに干渉するために、精霊は魔力を使う。魔力を以てして、世界に働きかける。

 ……つまり、魔力を持っていない俺に対しては何もできないのである。これが吉と出るか凶と出るかは結果を御覧じろ、ってとこかね。


「……シエル、本当に大丈夫か?」

「へーきへーき。城の結界抜けは俺の十八番よん」

「どちらかというと問題はその後じゃないかしら?」

「……まあ、魔力無しでも精霊サマはお話してくれると思うよ」

 お話ができないわけじゃあない。理論上は。

 光の精霊が俺の脳内に直接話しかけるって事は出来なくても、その魔力を感知して俺が頭の中で組み直せばまあ、一応は会話が成立するだろうし。

 ……問題は、光の精霊が『魔力の無い人間などと会話する余では無いわっ!』みたいな高飛車なお方だった場合である。

 この場合はもう、ひたすら切り札を切りまくって……それで駄目なら大人しく引く。うん。別に逆恨みして祠に火をかけたりはしない。大丈夫。

「じゃ、俺はちゃちゃっと行ってくるから、お前らはそっちよろしく」

「分かったわ。気を付けて」

 そして一方、ディアーネとヴェルクトには一足先に光の塔へ戻ってもらう事にした。

 万一、俺に何かあった時、シャーテにアンブレイルの襲来があるかもしれない、って事を伝えられなくなっちまうからね。

 俺が駄目でも、シャーテまで共倒れになる必要は無い。いや、俺が居ないとあいつ駄目っぽいけど、まあ、クルガ女史も居るから、死ぬ気でやれば色々なんとでもなる気もする。

 ……ってことで、ディアーネとヴェルクトを見送ってから、俺は王城の周りを見学する旅人のようなふりをしつつ、まじまじと王城を眺め……人の目が無くなったところで、素早く結界の内側に潜りこんだ。




 城の警備はザル警備、横飛びおよび前転しながら通り過ぎればばれません……なんてことはない。そんなザル警備は某オカリナ吹くアドベンチャーの城だけで十分だっつの。

 ……なので、進むのは非常に慎重に、って事になる。

 木の陰に隠れ、気配を殺し(魔力は殺すまでも無いからそこはすごく楽)、警邏の兵士たちの目を盗んで、俺は城の庭を駆ける駆ける。

 あっちこっちの物陰を経由に経由して、そして、俺は遂に、光の精霊を祀る祠の中に転がり込むことに成功したのであった。




「お邪魔します!」

 一応礼儀は欠かさない。例え、前転しながら入り口の結界をスルーして入ってきたとしても。

 ……祠の中は、静かだった。

 静かに静かに、祠の奥、台座の上に……白い結晶が浮いている。

 あれが、光の精霊の依代になるものだ。アイトリアにある空の精霊を祀る祠にも、色こそ違えどこんなかんじの結晶が浮いてた。

「……光の精霊様―、聞こえますか」

 なので、とりあえず、その結晶に向かって話しかける。

「聞こえますかー」

 が、反応が無い。

「……お伺いしたいことがあるんですが」

 反応は無い。

「場合によっては、光の姫君をあなたにお渡しできるかもしれませんしそうでもないかも」

『人の子よ、私が光の精霊だ』

 ……現金な奴めっ!


 まあ、うん、現金な奴と現金じゃない奴だと、相手にするんなら現金な奴の方がやりやすくていいもんね。むしろこれは喜ぶべき事態である。

「ああ、おいでだったんですね」

『今日は来客が多いな……して、人の子よ、光の姫君、と申したか』

 話が早いからほんとに助かる。

「ええ。居場所も存じております。……もしかすると、私達の利害は一致するかもしれません」




 ということで、光の精霊に色々確認した。

 つまり、『あのおとぎ話ってホント?』とか、『光の姫君のどこが好きなの?』とか、『姫君を光水晶の棺から引きずり出したら何したい?』とか。

 ちなみに、そこら辺の答えは、『微妙に間違ってる。姫君と私は相思相愛だったが、姫の父王が認めなかった』『顔』『捕まえて精霊の国に連れて行く』みたいなかんじだった。

 ……情報を一義的に判断するのはよろしくないけど、まあ、うんとね……光の精霊のもじもじきらきら具合を鑑みるに、とりあえず、この精霊、ほんとに光の姫君が大好きみたいね。光の姫君と本当に相思相愛かはおいといても。

「ふーむ……あのですね。それで、あなたが光の姫君と再会できるよう助力することは可能なのですが……厚かましい限りですが、こちらの望みも聞いて頂きたく」

 散々惚気話を聞かされた後なので、さっさと話を進めよう。じゃないと俺がとけちゃう。

『望み、とな?』

「ええと、まず、1つ目に……姫君を連れて行ってしまうなら、代わりになる魔力を調達して頂きたいのです」

『……魔力?代わり?どういう事だ?』

「話せば長いことながら、聞けば短い物語でございます」

 さて、ここが第一難関だぞー。


「この国の状況をご存知ですか?」

『……一通りは把握しておるぞ』

 そうですか。

「では、宗教と王族の腐敗もご存じで?」

『今に始まった事でも無かろう』

 あ、そうなんだ。へー。……あ、もしかして、光の姫君を隠されちゃったから、光の精霊はエーヴィリトの王族に対していい印象が無いのかも。

「なら話は早い。……今、この国を変えようとしている、1人の若者がおります。彼は自らがどんな罪を被ろうとも、この国で王族に虐げられる民を救おうとしているのです」

『ほう』

 そこから、シャーテの事をざっと話す。涙ながらの苦労話に聞こえるように。

 シャーテが父王に意見して城を追い出され、苦労しながら魔物の巣である光の塔に辿りつき……みたいなかんじに。

 少々捏造もぶちこみつつ。

「……という具合に、彼は現在、少々視野が狭くなっております。しかし、国を救いたいと思う心は確かな物。私は彼の望みを叶えたいと思うのです」

『成程な……それで、姫君の代わりになる魔力を提供しろ、という事か』

「はい。この国を愛する心、光の精霊様にはお分かりいただけるのではないかと……!」

 何卒!というかんじにお願いすると、光の精霊は少し考えて、割とすぐに結論を出した。

『ならば、姫君が眠る棺に細工をしよう。あれは上等の光水晶だったはず。ならば、あれを私の力で少々加工すれば、魔力源とできよう』

 おおおお!そりゃいいね!光の精霊が直々に手を加えた上等の魔石っ!相当な代物になるに違いないっ!

 シャーテが使い終わったら俺が貰おう!そうしよう!


『それならば問題あるまい?早く私を姫君の元へ案内してくれ』

 なんとも可愛らしいことに、この精霊、気が急いている模様。うん百うん千年待ってただろうに、今更数分数時間ぐらい焦るなよ、とも言いたくなるが。

「それから、もう1つ……こちらは、個人的なお願いです」

『……まだあるのか』

「ですが、これは失礼ですが、移動しながらお聞きいただいた方が良さそうですね。まずは姫君の元へ急ぎましょう」

『うむ!そうだな!では参ろうではないか』

 アンブレイル関係の根回しは結局、この精霊様の一存でオッケーな訳だからね。

 精々、ご機嫌とって、こっちに有利に働いてくれるように仕向けなきゃね。

 ……あとは、シャーテのアドリブ力に期待、かなぁ……。


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