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39話

『守り石』から非常に濃くて強い地の魔力を感じるので、これは今度ウルカにでもあげようと思う。いい武器にしてくれるんじゃないかな。

 ……ってのは置いといて、だ。

 とりあえず、目の前にあるこの魔導装置を調べておこう。

 どういう術式を組み合わせて作ってるのか、単純に興味がある。

 それに、もしかしたら『魔王から魔力ぶんどる装置』の制作のヒントになるかもしれないし。




 魔導装置を調べて、あらかた仕組みが分かったところで、拘束しておいたエルフたちが目を覚ましたらしかった。

 そういえば、もうすぐ夜明けだ。時間がたつのって早いね。

「く……こ、これは一体……?」

「だ、駄目だ、魔法が使えない」

 エルフたちは魔力切れの状態に慣れていないらしく、混乱気味だった。

 ……まあ、普通、エルフってのは人間よりも魔力をいっぱい持ってる種族だからね。余程戦か何かで派手な魔法をバンバン使いでもしない限り、魔法が使えなくなるまで魔力が減るって事は無いだろうし。

「お目覚め?『狂人』ども」

 ま、相手が混乱してるうちに事を進めちゃうのが一番よねん、って事で、俺は満面の笑みを浮かべつつ、エルフたちの前に顔を出した。

「なっ、貴様、何故生きている!?」

 ……あ、気絶する前の記憶がごっちゃになっちゃってるのかな?それとも、気絶する直前の素朴な疑問を今解消しようとしてるとか?

 ま、どっちでもいいんだけどね。

「そりゃあ、俺が選ばれし者だからだよ」

 手の内を明かしてやる気は無いので、精々堂々と胸を張ってこーいう事言っちゃっておくのである。

 あとは深読みでもなんでもして余計に混乱してください、ってね。


「で、これは誰に頼まれて作った物だって?」

「こ、答える訳が無いだろうっ!」

「だよねえ」

 まあ、ここら辺はもう大体分かってるんだ。

 つまるところは、人間側じゃなくて魔物側に加担しようとしてたって話なんだから、魔物とか魔物の手の者とかそういう事なんだろうけど……その『下請け』が誰なのか、っていうのは結構貴重な情報だからね。

 この先、間違いなくどこかでアンブレイル(か、とばっちり食った俺)がそいつにぶつかる事になるだろうし、ここでそいつを潰しつつ、うまいこと魔王様の情報が貰えちゃったりしたらとってもラッキィなんだけどね。

 ……しかし、俺も鬼では無い。決して拷問なんてしない。叫び声や血が涙が飛ぶような聞き方なんてスマートじゃないもんね。

 俺としては、もっとスマートかつ紳士的にお話を聞けたらいいなあ、って思う訳だ。

「でも、すーっごく答えたくない?ほら、ね?」

 なので、俺はただ握手するだけである。


 エルフを1人ずつ引っ張ってきて、別々にお話を聞くことにした。全員の解答を照らし合わせたいからね。

 まずは、握手。

 ……そんでもって、じわじわーっ、と、少ない魔力を更に吸っていく。

 当然、それは死へのカウントダウン。

 痛みも何も無い。ただ、『死への恐怖』がすぐそばに迫ってくる、という未知の感覚だけ。

 魔力が吸われてる、って感覚ですら、ないかもね。

 大体、俺は当たり前にやってるけど、『魔力を吸う』ってのはかなり物理……ううんと、魔法?……とにかく、この世界の法則的にはかなり面倒な事なのだ。

 ウルカが『光の剣』の改造をちゃちゃっとできたのは、俺の『魔力を吸収する能力』があったからこそ。

 これ、普通にやろうとしたら、滅茶苦茶面倒な準備と調整が必要なのだ。

「な、何を……これは、なんだ!」

「で、誰に頼まれて作ってたの?教えて教えて?」

 一瞬、魔力を吸うスピードを極端に上げた。勿論、その後はまたじわじわに戻すけど。

「ね?」

 そして覗き込んで笑顔で聞いてやれば、遂にそのエルフさんは折れた。

「え、エーヴィリトのっ!」

「エーヴィリトの?」

「西、の」

「西の?」

「塔に……」

 よし、こいつはもうオッケ。魔力吸いきっておねんねしてもらおう。永遠に。

 ……あとはこの作業を8回ぐらい繰り返すだけである。

 はー、しんど。




 終わった。

 魔王に傾倒した狂人ならぬ狂エルフ共は全員永遠におねんねした。

 情報は手に入ったし、生かしておくメリットがあんまりないからね。

 ……もう太陽はすっかり登ってしまっている。朝7時ぐらいかな、これ。

 帰りたいが、その前にこの『魔道装置』を徹底的に破壊してから帰ろう。

 破壊はとっても簡単。装置を作っている物質から魔力を徹底的に抜いちゃう。それだけ!

 ……それだけで、もうこれは完全に機能しなくなる。断線した機械みたいになっちゃうからね。


 後片付けも終わったところで、俺は昨夜採取しておいた魔草類を拾って、ぶらぶら村に向かって帰ることにしたのであった。




 村に着いたらもうブランチ時になってた。

「ただいまー」

「あら、お帰りなさい、シエル」

 ……そして、ディアーネが、元気になってた。

「え、ディアーネ、体調は?」

「この宿の地下に、結界装置があったの。それを破壊したら『普通の森』になったわ?」

 ……成程。

 この宿の女将さんも、魔王派のエルフだったんだろうから、多分、この宿自体が魔王派のエルフたちの基地みたいなもんだったんだろう。

 という事は、人間が嫌いなエルフたちだったわけで……彼らは、人間が森に入ってこないように、そういう結界を張っていたに違いない。

 多分、森がよそ者に敵意を持つような。そういうかんじの。

 ……迷惑な話で合った。

「という事は、この村の狂人共は始末済み?」

「この宿の他の部屋に居たエルフたちは全員。……あら、私がやったんじゃなくってよ?」

 ということは、ヴェルクトが?

 ……そういや、姿が見えないけど。

「ああ、シエル。……そっとしておいてあげて頂戴な。ヴェルクト、二日酔いで寝ているの」

 部屋のドアを開けようとしたら、ディアーネに止められた。

「ウィラ、というエルフにお酒を勧められたから、一緒に飲んでいたんだけれど……ウィラさんが先に酔ってしまったの。そうしたら、この村に魔王派のエルフが混ざっている、という話をしてくれて。……それを聞いたヴェルクトが……」

 ディアーネの視線の先には、すっぱりと綺麗すぎる断面を見せている柱や壁板。

 何で斬ったかなんて、すぐ分かる。『光の剣』の短剣……つまり、ヴェルクトの仕業である。

「床を壊した時に地下室が見つかって、さっき話した結界も見つかったのよ。お手柄ね」

「お手柄だけどなんなのヴェルクト」

 ……あいつに無理な飲ませ方はしないようにしよ。怖いもん。




 ……そして俺とディアーネは、やっとこの村に来た本来の目的である杖職人のロドールさんの元へ向かう事になったのであった。

 ヴェルクトに声を掛けたが反応が無かったので、宿に置いてきた。無人だし大丈夫でしょう、多分。


 宿を出ると、エルフたちが口々に感謝の言葉を述べてくれた。

 この村は魔王派のエルフがこっそりと紛れ込んだせいで、誰が魔王派かも分からず、誰の意見を信じていいかも分からず、にっちもさっちもいかなくなっていたらしい。

 そこにこの国特有の引きこもり気質っつうか、まあ、『身内で解決したい』気質が相乗効果しちゃって、『国王には守り石が無くなった事を黙っていた方がいい』とか、『よそ者を生贄にしよう』とかいう意見を疑いきる事もできず、かといって、下手な意見言ったら魔王派として処罰されるし、狂エルフに賛成するエルフも出てきちゃって……ってなってたんだそうだ。

 まるで人狼ゲーム。ここはタブラ村かっつの。


 しかし、この村はもう平和になった。

 ……そうなのだ。ヴェルクトは酔っぱらいつつも驚異的な判断力を以てして、ちゃーんと魔王派のエルフだけ選んで斬ったらしい。

 どーいう判別をしたのか聞いてみたいけど……なんとなーく、あいつ、酔っぱらうと無意識に相手の魔力を見通す能力が開花するんじゃないかなー、って気がする。

 ヴェルクト自身の魔力が滅茶苦茶透明だからね。相手の魔力と干渉しにくいから、相手が魔の手の者かどうかに敏感になれる素質はあると思うんだよね。

 ……まあ、そんで、ヴェルクトが魔王派の狂エルフを斬って斬って斬りまくったおかげで、村にいた魔王派のエルフたちは全員斬られるか逃げるかしたらしい。

 逃げられたのはちょっと痛いけれど、ま、この村の平和には変えられねえかな。現に今、エルフたちからの感謝の声が止まない訳だし。ははは、気分がいい。




「こんにちはー。エルスロア国王の紹介で来ましたー。開けてくださーい」

 という事でやってきました村はずれ。ここがロドールさんのお宅らしい。

 ドアをノックして名乗れば、中から「入れ。鍵は開いてる」とだけ、ぶっきらぼうな返事が返ってきた。正に『偏屈』ってかんじの対応である。まあ、覚悟はしてた。その『偏屈』に勝つ自信もある。

「では、お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

 ディアーネと2人で家の中に入ると……真っ先に、飾ってある杖に目が行った。

 美しい杖だ。

 まるで骨のような白い木が滑らかな曲線を描き、黄金色の石を抱き込むように固定している。木に施された彫刻は精緻な古代言語の呪文を成しているらしい。

 一目で業物だ、と分かる杖だった。

 成程、これを作る職人になら、ディアーネの杖を任せられるな、と素直に思えた。


「王の紹介だと言ったな」

 杖に見惚れていたら、横から老エルフに声を掛けられた。

 彼がロドールさんなんだろう。

「紹介状はこちらです。……初めまして、ディアーネ・クレスタルデと申します。以後、お見知りおきを」

 ディアーネが紹介状を差し出しながら、優雅に一礼して挨拶する。

 が、ロドールさんはそんなディアーネには目もくれず、差し出された紹介状を一読して……目を瞠った。

「『炎の石』だと?」

「こちらです」

 ディアーネはすぐに、『炎の石』を取り出して、ロドールさんに見せた。

 ロドールさんは食い入るように『炎の石』を見つめ……1つ、感嘆の息を吐いた。

「素晴らしいな。……ディアーネ嬢、と言ったか」

「はい」

 ロドールさんはディアーネの手から『炎の石』を取り上げて、光に透かして見て……『炎の石』越しにディアーネを見て……踵を返すと、奥へ入っていった。

 ……本当に言葉の少ない人である。


 そのまま俺達は少し待っていると、奥からロドールさんが出てきた。その手には太い木の枝を持っている。黒檀のような色合いでありながら、金属のような雰囲気も持つ、不思議な枝である。

 素材を確認しろ、という事なのか、ロドールさんは木の枝をディアーネに差し出した。

 ディアーネはその枝に触れると……目を瞠った。あら、珍しい表情するもんだ。

「……もしかして、生命の樹」

 ディアーネが零した言葉に、俺もぎょっとした。

「最高の石だ。最高の木を用意せねばならんだろうが」

 いや、だってさあ……俺ですら、見た事無いのよ?生命の樹。

 千年を超える樹齢の霊樹だとも、天と地の底を繋ぐとも、実は精々25mぐらいの高さしかないだの……色々な話があるものの、実際に見たという人は少ない。

 ……まあ、少なくとも、だ。

 杖の素材としては最高の物であることには違いないだろう。

「……ええ。最高の魔女が使うに相応しい杖になりそうだわ」

 ディアーネは瞳に生命を感じさせる炎を灯し、高慢にすら見える笑みを浮かべてみせた。

 それに呼応するように、ロドールさんの手の中で、『炎の石』の内部で炎がひときわ大きく揺れる。

 ……ロドールさんは、分かりにくいながらもちょっと笑っているらしい。

「3日で仕上げる。3日後、取りに来い」

「ええ。ではまた3日後。……失礼致します」

 ディアーネはまた優雅に一礼するが、その頃にはもうロドールさんは奥に引っ込んでしまっていた。早速、杖作りに取り掛かるんだろうね。

 俺達は顔を見合わせて、『やったな』『やったわね』みたいな顔をお互いした後、ロドールさん宅を後にすることにしたのだった。


 さて。これで『炎の石』の心配もいらないけど。

 ……けど、3日も何して待ってようか。

「とりあえず、シエル。貴方、簡単な魔法薬は作れるんでしょう?」

「え?うん。ほんと基礎の基礎、作るのに魔力要らない奴ならね?」

「なら、ヴェルクトに二日酔いの薬を作ってあげなさいな。あれでは使い物にならないわ」

 まあ、まずはヴェルクトを治すとこからか……。


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