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40話

 採ってきた魔草で二日酔いの薬を作ってヴェルクトに飲ませたら、一応動くようにはなった。

 ただし、稼働率は通常の10%ってところだな。戦闘なんかさせらんねーかんじ。今日一日、こいつはでくのぼーだと思っておいた方が良さそう。

「……二度と、酒は、飲まん……」

 ヴェルクト本人もこの調子で、ひたすら昨日の自分を恥じ、昨日の自分を責め、体調不良も相まって欝々としている。精神状態もでくのぼーである。

「あら、残念だわ。面白かったのに」

「……やめてくれ」

 ……俺も見たかったなあ、酔っぱらって大暴れするヴェルクト……。




「で、どーしよっかな、って、迷ってるんだよね。今」

 ヴェルクトも欝々としてはいるが、物を全く考えられない状況からは脱したし、ディアーネはすっかり元気になってるので、2人の前に地図を広げる。

「ディアーネの杖ができるまで3日ね。って事で、その3日間、俺達はどーしよっか、って話なんだけど……候補が3つあって。1つは、この村でちょっとのんびりする、っていうルート」

「一番つまらない選択肢ね」

 まだ他2つ言ってないのに、ディアーネに切って捨てられた。うん、まあ、一番休息が必要そうだったディアーネはすっかり元気になっちゃってるから、俺もこれはどうかと思ったけど。

「……で、2つ目が、ガフベイに急行して、恐らくそこから逃げようとしてる魔王派エルフ共をひっ捕らえる」

 魔王派エルフたちが『エーヴィリトの西の塔』に居る奴の指示で動いていた事は分かっている。

 オーリスの村を逃げた魔王派エルフ共は多分、そっちに向かうんじゃないかな。

 エーヴィリトは東大陸の最北西。つまり、エルスロアのお向かいさん、っていうかんじの国だ。

 勿論、エルスロアからエーヴィリトへ渡るには、船……か、古代魔法の祠を使った瞬間移動しかない。(あ、別に泳いで渡ってもいいけどさ。)

 なら、魔王派エルフたちは当然、エーヴィリトへ行くために船を使うはずで、となれば、エルスロアの港町であるガフベイを経由する事になるはずなのである。

「……難しくないか、それは。……森の民に、森で……追いつく、というのは」

 が、まあ、ヴェルクトの言う通り、難しい。

「ま、そうだろうね。道中で追いつけるとは思ってない。ガフベイで船の手続きするのにちょっと時間食うんじゃないの、って踏んで……それ前提でギリギリ、って所?」

 丁度いいタイミングの船に丁度良く潜りこめちゃったらアウト、ってかんじだね。

「で、3つ目。……逃げた魔王派エルフはほっといて、ここら辺の森で有翼馬を、探す!」




 有翼馬。つまり、羽生えたお馬さんである。ペガサスね。

 ……綺麗な森の中にときどーき、居るらしい。

 手懐けられれば、とんでもなく速い脚として使う事ができるが、手懐けられるかどうかは運次第。

 ……が、その有翼馬の方も、個性の強い魔力を好むらしいから……どでかい魔力とどぎつい魔力と全く無い魔力の3人組になら、寄ってこないかなー……と、思わんでも無い。

 それでも行き会えるかは分からないし、手懐けられるかもわからない。

 3日という限られた時間の中でやるんだから、本当に運次第、って事になる訳だけれど……試す価値はあると思ってる。

 移動が速くなれば、その分、アンブレイルの先を行けるようになる訳だからね。ここでの3日のロスを補って余りある結果を得られるんじゃないかなー、と期待してる。


「有翼馬を手懐けられればこれからの移動がきっと楽になるでしょう?なら、3日をここで費やす価値はあるんじゃないかしら」

 ディアーネはすっかり乗り気である。……まあ、魔力の個性の強さって点では、こいつ以上に個性豊かな奴はそうそう居ないからね。成功する気でいるんだろうね。俺も成功する気がしてる。

「俺も別に構わない。魔王派エルフの残党は……放っておいても、どうせ行き会うんじゃないのか」

 ヴェルクトも賛成、と。……こいつ、自分が大暴れしたこと思い出したくないのかもね。

 ま、いいや。2人の賛同も得られたし。

「ん。よし、決まり。……んじゃ、早速行くか」

「……今からか」

 俺、急いては事をし損ずる、よりは、思い立ったが吉日、が好きなタイプ。




 有翼馬については、城の図書館で読んだことがある。

 つまり、個性の強い魔力に引き寄せられる事。

 これはクリアだな。俺達以上に魔力が個性豊かなパーティはそうそういないんじゃない?

 それから、有翼馬は割と面食いであるらしい。美男美女しか背中に乗っけてくれないらしいよ。

 ま、これもクリア。俺は勿論、ヴェルクトもそこそこ整った容姿してるし、ディアーネは言わずもがなの美貌である。

 それからそれから、有翼馬を手懐けるには、何かプレゼントしてやるのがいいらしい。

 ……魔石であったり、珍しい魔草であったり。ドラゴンの肉で釣った、なんていう報告もあったね。

 これに関しては、ネビルム村のご近所産、名物死神草を使わせてもらおう。

 死神草は南の方でしか採れないからね。ここらの有翼馬なら大喜びなんじゃないかなー。




 オーリスから更に北に進んだあたりの森で、死神草をぶらぶらさせながら歩いていた所、近くの魔物がいっぱい寄ってきた。

 そうかそうか、お前らも死神草、好きか。やらんぞ。

 死神草につられて寄ってきた奴はそのまま俺がタッチして仕留める。

 手が回らない奴は、ディアーネが燃やす。ディアーネの完璧な制御によって、森には一切火が回らない。

 最初こそ、ディアーネが魔法を使う度に森が警戒している(ヴェルクト談)有様だったが、その内森も『この人なら大丈夫』という結論に達したらしく、ディアーネは森での火気取り扱いを森に許可されたらしかった。

 ……二日酔いヴェルクトもそこそこ奮闘した。

 気だるげな動作で、しかし割と正確に間合いを見計らって、魔物をざくざくやってくれた。

 ……まあ、いつもの正確で綺麗な殺し方じゃないけど、別に魔物から皮剥いで使う予定も無いし、特に問題は無い。




 そして一時間経過。有翼馬、見つからず。

「恥ずかしがり屋なのかな」

「もう少し歩いてみましょう。この辺りには居ないのかもしれないわ」




 そして二時間経過。有翼馬、見つからず。

「おい、ディアーネ。もっと存在感出せよ」

「あら、なら森を焼き払ってもよろしくて?」

「やめろ……」




 そして三時間経過。有翼馬、見つからず。

「あっ、なんか居る!」

「落ち着け、あれは枯れ木だ」




 そして四時間経過。有翼馬、見つからず。

「本当に居るのかな」

「お前が居ると言ったんだろう」




 そして五時間経過。もう見つかんないから宿に戻ることにした。


「……何がいけねーんだろ」

 結局、森を歩き回って釣れたのは魔物ばかりであった。

 餌か。餌が悪いのか。

 確かに、死神草って貴重な魔草だし、魔力も豊富だけど……普通の人が見たらびびる代物ではある。

 有翼馬は死神草が嫌いなのかもしれない。

 ……しかし、そうなると、他に餌にできそうなものってあっただろうか。

 宿に戻る道すがら、歩きながら鞄を漁ってみる。

 ……この森で採った魔草、低級ポーション、作りだめした二日酔いの薬、月虹草の花の砂糖漬け……うーん、ロドリー山脈産の魔石か、アイトリアから持ってきた魔石の装飾品か……あ、『守り石』もあるか。いや、これあげちゃうのはちょっと……。

 ……と、思いつつ、『守り石』を鞄から出してみた。

 すると、次の瞬間……ふわ。

「……あら」

「……居たな」

「しかもいっぱい」

 俺の手に触れたのは、ふわっふわした翼。

 勿論それは、待ちに待った有翼馬のものである。




 有翼馬たちは、俺が取り出した『守り石』めがけて飛んできたらしい。

 いやー、しかし、速いねこいつら。こいつらが飛んでくるところ、見えなかった。

 本気出したらこいつらは目にもとまらぬ速さで動けるらしい。

『守り石』をのぞき込んだり、鼻先でつついたりしながら、有翼馬たちはひたすら群れている。

 今までの五時間は何だったんだ、ってぐらい、群れている。こんなにいっぱい居るならもっと早く出て来いっつの。

 なんとなく腹が立ったので、『守り石』を高く掲げてやる。

 すると、有翼馬たちは首を伸ばして、『守り石』を見つめ続ける。

 ……面白くなってきたんで、ヴェルクトに肩車してもらって『守り石』を掲げてみる。

 すると、有翼馬たちは押し合いへし合いしながら、翼をパタパタやって伸びあがってこちらを見つめてくるのだ。

 よっぽど、『守り石』が気になるらしい。

 ……が、『守り石』は、切り札でもある。

 使えば優秀な素材になるし、エルスロアへ返せば、それで貸し1つにできるし。

 だから、俺としては『守り石』が貰えなくても俺達についてきてくれる、っつうお馬さんを募集したい。




「私はこの子にするわ」

 が、俺の悩みなんて全く知らん、というように、ディアーネはさっさと有翼馬を手懐けてしまった。

 漆黒のすらりとした有翼馬は、ディアーネに撫でられて気持ち良さそうにしている。

「え、ディアーネ、お前、何プレゼントしたのよ」

 ディアーネも魔石とか持ってたっけ?と思いつつ聞いてみれば……ディアーネは、優雅に有翼馬の背を撫でながら、こともなげに言いきった。

「私を背に乗せる権利を与えたわ」

 流石でございます、お嬢様。

 ……そーね。『守り石』を出して期待させちゃっておいて申し訳ないけれど、別に、何かプレゼントしないといけないってわけでも無いんだよな。

 ディアーネの様子を見て、ヴェルクトも有翼馬たちの中から気が合いそうな奴を探し始めた。

 よーし、俺も探そっと。




 ……それから5分ほどで、ヴェルクトの馬も決まった。

 葦毛の割とがっしりした馬で、その曇り空のような色がヴェルクトの髪になんとなく似ている。

 大人しい気質らしく、早速ヴェルクトを背に乗せてゆったり歩いている。

 有翼馬の方はヴェルクトの魔力を気に入ったらしいし、ヴェルクトも馬を気に入ったみたいだから、ま、いいと思う。

 ……が、問題は俺だった。

「シエル、まだ決まらないの?」

 俺は未だ、馬を決められなかった。

 何故か。理由は簡単である。

 このお馬さん達、魔力が無いと見向きもしてくれない!

 ……馬刺しにすっぞオラァ!


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