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三、奈良の最初の旅 その1

沙希と最初の奈良の旅は東大寺の戒壇院からであった。

それというのも

私が彼女に最初に仏像の美しさを話したのは

戒壇院の四天王と秋篠寺の伎芸天であったからである。

ホテルから奈良公園を抜けて

人出の多い東大寺の大仏殿を横目に

西に向かうと戒壇院があるが

この辺になると急に人が少なくなる。

戒壇院の中はちょうどだれもいなかったので

私は彼女に四天王の説明を始めた。

そして広目天の前に立って言った。

「四天王は如来のおられるところを守護するのが役割で、

みな武器を持っているけれども

この広目天だけは武器でなく巻物と筆を持ってるよね。

そして眉間の皺に憂いをにじませている。」

と話しかける。

彼女はいちいちうなずいて

じっと像を見つめていたかと思うと、

小声で言った。

「わたし、この広目天様に恋をしそうです」

私は広目天に嫉妬したのである。


戒壇院を出て、近鉄奈良駅から近鉄線に乗り、

西大寺で乗り換えて平城駅で降りすると

すぐに競輪場が見えてくる。

競輪場の横を通るともうそこは秋篠寺である。

山門をくぐり、苔の美しい庭を抜けると

なんともこじんまりとした

しかし端正な本堂が目に飛び込んでくる。

本堂の中はほの暗く入口のそばに

伎芸天はすっくりと立っておられる。

伎芸天の前で私は沙希に小声で囁いた。

「美しいでしょう。僕はこの仏様に恋したんだ。」

彼女は頷いてじっと見つめているだけである。

私はその横顔も美しいと思った。

私はさらに

「この仏様の頭部は天平時代のものだけれど、

首から下は後の鎌倉時代のものですよ」

と説明したが、

彼女は頷いたまま像を見つめたたままであった。

伎芸天は美しいお顔をわずかに傾けたままであった。


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