二、沙希との関係 その2
旅行の細かいところを計画するのは私の役割となり、
私が寺社や仏像を案内するのも変わることがなかった。
お寺で仏像などの私の説明を聞いているときの沙希の顔は
とても素直な表情だったので
その時は思わず彼女の顔を見つめることもあった。
そんなときの彼女のはにかんだような笑顔は
いまでも愛おしく思うことがある。
彼女と別れてからもうだいぶ経ってしまったが
彼女のことを思い出すとき
大切な相手を失ってしまったと思うのであるが、
当時は黙っていても向こうから声をかけてくる
都合のいい女と思っていたのかもしれない。
いや自分の本当の気持ちを覗こうとしなかったのだと思う。
当時の私は1年間付き合った女性と別れたことの痛みが
まだ生々しくて
もう本気になって女性を愛することは
止めようと思っていたのだ。
つまり恋愛に憶病になっていたのである。
体の交わりについても沙希のほうが積極的であったが
自分も結構楽しんでいたと思う。
彼女とそうなって1年くらいたった時に
あなたは避妊をしなくてもいいと彼女が言ってから
それは彼女のほうですることだと了解して、
私は避妊をしなくなったが、
あるとき彼女は真剣な顔をして言った。
「あなたとこういうことになってから
夫とは寝ていませんから」
私は彼女の真意が良く分からずに、
それに対して私は何も答えなかったが、
あとから考えると
それは妊娠したら私の子どもだということを
言いたかったのかもしれない。
また別な時にふと沙希が
「もし子どもが出来たら一緒になってくれますか」
とも言ったことがある。
彼女には同い年の夫と二人の娘がいたし、
その年代の女性が出産を考えているとは
夢にも考えていなかった私を
慌てさせたこともあったことを思い出す。




