黒狐のヤクモ
第九章
終焉認定
会議は、終わっていた。
だが誰も席を立てなかった。
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円環議場。
五大国代表。
世界最強格。
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その全員が、
沈黙している。
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都市機能は復旧した。
浮遊術式も戻った。
崩壊区画も封鎖が始まっている。
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それでも。
議場空気だけが、
まだ重かった。
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ゼロが残した“何か”が、
空間へ沈殿しているようだった。
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グラウスが、
拳を握る。
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「……ふざけた話だ」
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低い声。
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「あれ一人で、
国家どころか世界が終わる」
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誰も否定しない。
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ミカエルが静かに言う。
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「終わらせる気があれば、
ですが」
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「違うのか?」
グラウスが睨む。
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ミカエルは少し考えた。
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「彼は途中で止めた」
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都市落下。
炉心暴走。
崩壊。
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全部。
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ゼロなら、
放置できた。
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いや。
むしろ、
放置した方が自然だった。
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なのに。
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彼は途中で、
都市を戻した。
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レヴィアが低く笑う。
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「だから余計に気味が悪い」
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深海王の瞳が細まる。
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「何を基準に、
壊し、止める」
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「それが分からん」
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アステリアは、
まだ呼吸が乱れていた。
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未来視反動。
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だがそれ以上に。
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見てしまった。
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“あれ”を。
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彼女はまだ、
ゼロの瞳を思い出していた。
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感情がない。
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違う。
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感情が、
摩耗している。
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何かを、
あまりにも長く見すぎた目。
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アステリアは、
無意識に呟く。
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「……疲れていた」
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グラウスが眉をひそめる。
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「何?」
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「ゼロです」
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議場が静まる。
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アステリアは、
自分でも理解できていなかった。
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何故そんなことを思ったのか。
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だが。
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ゼロの目には、
怒りよりも。
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絶望よりも。
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“倦怠”
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があった。
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まるで。
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全部もう、
見飽きているような。
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ヤクモだけが、
静かに酒を飲んでいた。
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レンカは、
もうこの男が怖かった。
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軽い。
ふざけている。
適当。
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なのに。
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ゼロを前にしても、
一度も動揺しない。
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むしろ。
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“知っている”
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ようだった。
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その時。
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ミカエルが、
静かに議場中央へ立った。
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聖皇。
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世界人口四十億以上が、
救世主と崇める男。
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彼は、
全員を見渡した。
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「確認します」
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静かな声。
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「本日をもって、
終焉の覇者ゼロを」
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一瞬。
沈黙。
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そして。
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「世界共通脅威認定対象とします」
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議場空気が変わる。
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世界共通脅威。
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それは。
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国家単位では対処不能。
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文明規模危険存在へ与えられる、
最高危険認定。
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歴史上。
認定された存在は、
わずか三例。
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《黒竜災厄》。
《大侵食》。
《白夜落下》。
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いずれも、
国家消滅級災害。
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そこへ。
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一人の人間が追加された。
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グラウスが立ち上がる。
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「賛成だ」
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炎帝の熱量が揺れる。
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「あれは放置できん」
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レヴィアも続く。
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「海も同意見だ」
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アステリアは、
少しだけ黙った。
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未来視が見えない。
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ゼロに対して、
何を選べば正しいか分からない。
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だが。
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彼女は思い出す。
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あの目。
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終わり続けた何かを、
見続けた目。
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アステリアは、
静かに頷いた。
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「……承認します」
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最後。
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全員の視線が、
ヤクモへ向いた。
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シオン封魔国。
黒狐。
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ヤクモは酒瓶を傾ける。
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「んー」
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考えるふり。
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レンカは胃が痛かった。
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この空気で、
ふざけられるのは異常だ。
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ヤクモは少し考えた後。
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「まぁ、
危ないのは事実だしねぇ」
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軽く言った。
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「賛成で」
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世界最強達が、
ゼロを“世界脅威”として認定した。
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その瞬間。
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議場外。
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アーカディア上空。
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遥か空の彼方で。
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一瞬だけ。
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黒い影が、
こちらを見た気がした。




