静寂
最終章
それでも世界は続く
一年後。
世界は、続いていた。
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ヴァルグラン帝国北部。
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かつて、
空が裂けた場所。
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そこには今。
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巨大な慰霊碑が建っている。
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名前はない。
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ただ。
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黒い石碑へ、
一文だけ刻まれていた。
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《世界を終わらせなかった者へ》
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誰が作ったのか。
正式記録は残っていない。
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だが。
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世界中から、
人が訪れていた。
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帝国兵。
神聖国の巡礼者。
海洋連邦の船乗り。
シオンの旅人。
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皆。
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何かを感じていた。
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世界は、
一度終わりかけた。
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そして。
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誰かが、
止めた。
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その事実だけを。
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アーカディア。
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崩壊しかけた空中都市は、
完全復旧していた。
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市場には人が戻り。
子供達が笑い。
飛行艇が空を走る。
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いつも通り。
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人類は、
また生きている。
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争いもある。
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国家間摩擦。
資源問題。
小競り合い。
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何も変わっていない。
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だが。
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少しだけ。
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本当に少しだけ。
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世界は、
前より優しくなっていた。
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理由を説明できる人間は、
誰もいない。
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それでも。
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人々は、
空を見上げるようになった。
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星を見るようになった。
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そして。
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“世界が続いていること”を、
少しだけ大事にするようになった。
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アーカディア中央区。
空中庭園。
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レンカは、
手すりへ寄りかかっていた。
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風が吹く。
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夜空。
星。
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綺麗だった。
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「また来てるんですか」
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後ろから声。
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ヤクモ。
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相変わらず、
酒瓶を持っている。
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レンカは、
少し笑った。
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「筆頭こそ」
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「習慣みたいなもんだよ」
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ヤクモは、
隣へ座る。
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昔と同じ場所。
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でも。
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決定的に違う。
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ゼロがいない。
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レンカが、
静かに聞く。
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「……寂しいですか」
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ヤクモは、
少し黙った。
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そして。
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「まぁねぇ」
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小さく笑う。
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「腐れ縁だったし」
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軽い言い方。
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でも。
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その目だけ、
少し遠かった。
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レンカは、
空を見る。
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「ゼロって、
最後……
幸せだったと思いますか」
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長い沈黙。
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ヤクモは、
星を見る。
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本当に長い時間を、
見送ってきた目で。
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やがて。
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「どうだろうね」
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小さく笑う。
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「でもまぁ」
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そこで。
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ヤクモが、
ほんの少しだけ柔らかく笑った。
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「最後は、
ちゃんと人間っぽかったよ」
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風が吹く。
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星が流れる。
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レンカは、
何故か泣きそうになった。
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世界は続く。
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また争う。
また間違える。
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それでも。
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誰かが笑う。
誰かが未来を信じる。
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そして。
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その全部を。
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きっと。
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どこかで、
ゼロは見ている。
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そんな気がした。
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夜空の向こう。
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無数の星が、
静かに瞬いていた。
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――完――




