思え買い込め野望を込めて
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現在オレたちは座っている。
別に特別な意味は無い。シンプルに足が疲れたので休憩しているという具合だ。先ほど買った水着の袋を眺めつつ、オレは最近話題のキャッサバドリンクに口をつけた。餅のような寒天のような食感と歯ざわりが面白い。ミルクティーの味もそこそこに、オレは無数の玉に集中した。
「そんな集中して食べるもんでもないよこれ」
隣の楓は呆れ顔だ。しかし、わざわざ並んでまでよう分からんものを買い込む姿を嘲笑っていたオレにとって、これは慎重に吟味すべき味なのである。
悔しいが美味い。5分くらいしか並んでないし、これなら別に構わないかななんて思ってしまう。百聞は一見にしかず、食って始めて許せてしまった。
「……うぅむ。美味い」
「それならいいけどさ……いや、こんな集中してタピオカ飲む?」
「オレにとっては大事なんだよ。タピオカは飲まない主義だったんだから」
結構美味いと思っているのが悔しい。しかし美味いものは美味いので、オレは眉間にシワが寄るのを感じつつもストローを吸った。
そんなオレを他所に、紬や由佳は水着の話で盛り上がっていた。
「うーっ!去年は受験勉強で海行けなかったから楽しみだ〜!」
紬はメロンフロートを飲みつつ言った。タピオカは要らないらしい。
「だね〜。絶対来年行くって決めてたもん、私も」
どうやら由佳もその口らしい。オレは去年の自分の生活を思い返していた。
……「知らない天井だ」と素で言ったのを覚えている。
「空はどうだったのさ。去年とか、彼女とかいたの?」
「ぶっ!?」
楓は由佳たちの話を聞いてオレに振ってきた。彼女というワードにオレは咳き込んだが、勘違いしないで欲しい。そんな大それた真似はオレにはできなかった。
「いたことないわそんなの……。去年は……うん、勝山とバカやって、病院送りになってたよ」
「何してたの!?」
全員総立ちになる中で、オレは恥ずかしの「クーラー縛り格ゲー100連勝チャレンジ」の概要とそのあらましを語った。もうすっかり黒歴史である。
由佳や紬、皐月には笑い話だったらしいが、楓は本気で呆れたらしく、「はぁ……ほんっとしょーがないやつ……空もだけど」とお小言を頂いた。「もうしたらダメだよ」とも言われたが、もう二度としないと決めていたので安心だ。
「まあ……とりあえず海では倒れないように気をつけるよ」
2年連続で熱中症なんて嫌だ。勝山からなんと言われるかも分からない。
やつのことだ、確実にからかってくるだろう。断固阻止せねば、あわよくばやつをからかわねばなるまい。
そう思っていると、皐月が肩に手を置いてきた。振り向くと、何故か彼女は親指を立てている。
「……倒れたら、青山君呼ぶから。二人きりで、木陰に行って……ふふ――」
「――ぜっったい倒れないからな!!」
どうしてそう怪しい方向に話を持って行こうとするのか。しかしそんな桃色の言葉にあてられ、オレはしばらく頭を茹だらせるのだった。
……男的にはたまらない状況かもしれないが、オレがされるのはちょっと違う。いつの日か青山に抱きかかえられたのを思い出し、オレは少し乱心した。
ーーー
飲み物も飲み終わり、オレたちはふらふらと散策していた。ウィンドウショッピングというやつだ。今は由佳が買いもしないサングラスを眺めてはかけまくっている。皐月はまるでスパイ映画に出てきそうなデサインのものを買っていた。もしかすればあれを海にかけてくる気なのかもしれない。
オレも少し見て回るかと、店に足を踏み入れると、そういえばサンダルも無いなと思い至った。オレの前のを履けば、すぐさま靴擦れを起こすだろう。なにせ大きすぎるのだ。
幸いここはなんでも置いてある雑貨屋なので、野暮ったくなくてそれなりにかわいいサンダルが見つかった。
「ありゃ、空それ買うの?」
「うん。サンダルもサイズ合うのないの思い出してさ」
コルクを模したスポンジの靴底に、カラフルな布製のベルトが付いたやつだ。サイズも丁度良い。それを携えてレジに向かうと、なんとサングラスを頭に引っ掛けた由佳と合流した。
どうやら珍しく選び抜いて買うらしい。
「なるほどね〜。かわいいじゃん、似合いそう」
「そう?なら良かった」
ちょっとオレは気を良くしてサンダルを手に入れた。
いつの間にやらオレは「かわいい」と言われて喜んでいるのだが、後ろめたくはならなかった。
オレだってもう女子なんだから、別に良いかな。良いよね。何しろみんなに「そっちにした方が楽」と言われたのだから。
「うへへ」
誰も見ていないので、オレは密かに笑った。
さて、サングラスをかけた不審者が2人増えたが、いよいよオレたちも荷物を持って歩き回るのに疲れてきていた。モールで遊ぶことを目的に来た訳でもないので、オレたちは夕方と昼間の間くらいの時間には電車に乗った。
好きなボードゲームの話をしていれば最寄りに着いたので、オレたちはだるくなってきた足を動かし帰途についた。 由佳の家にはオセロがあるらしい。何となく楽しみにしつつ歩いていると、由佳がオレ達の行く手を阻むように振り返った。
「――さて、じゃあ夜のお供でも買い込みますか」
由佳が道ばたのコンビニを指して言った。
「ポテチと、コーラ、これは譲れない」
サングラスにあてられてか、いつもより声を渋く低めている皐月が追従した。眼鏡を外してよく見えないというので、左手はしっかりと楓の服の裾を掴んでいる。
電車の中での不安など一切忘れ、オレたちはお菓子を買いにコンビニへとなだれ込んだ。今日一日でだいぶ歩いたので、きっとカロリーは相殺されるはずだ。
やいのやいのと店内を進む俺たちは、ファミリーサイズと書かれた抱えるほど大きなポテチや、親しみ深いチョコレート菓子などを買い込んでゆく。気分はすっかり遠足である。
「――うげー」
この中で一番美容や健康にうるさい楓がカロリー表示を見て舌を出している。彼女は野菜チップスなる謎のお菓子をカゴに入れていた。
「最近CMでやってるやつだっけ、それ。なんだっけ、野菜ップスだっけ」
「……それおいしい?」
皐月がそれを信じられないとばかりに凝視している。彼女は小食ながらジャンキーなものを好む。どこがとは言わないがだらしがないらしい。楓が言っていた。
「それなり。赤のラベルは美味しくないね。なんでトマトとかチップスにしちゃったんだろう」
他にもキュウリやピーマンチップスがあるらしい。陳列されたものが一つとしてはけていない袋を見ながら、オレはグミをかごに入れた。
「お菓子とかはこんなもんかな~。晩御飯は軽めで行くしね」
「ピザ頼むんだったよな。結構高いよなあピザって」
「まあ割ったら丁度よくなるっしょ」
「まーな。……ありゃ」
飲み物コーナーを見れば、由佳と紬が2リットルサイズのペットボトルのコーラやらサイダーやらを次々と取り出していた。一人何リットル飲む気なのだろうか。
「――あ、待ってこれも良くない?期間限定だって~」
「はいはい、もういいから買っちまおう。迷わなくていいからな」
「いいかな~?まあ飲めるよね、夜は長いし」
「そうそう、足りない方がまずいからな~」
紬があからさまに投げやりな口調であるので、きっと由佳が選ぶのを待つより買った方が楽と気付いたのだろう。お菓子より数が少ないという理由で飲み物を選ばせているのだが、次からは選ばせない方が良いのかもしれない。
結局飲み物を買いすぎて、飲み物の入った重たい袋を、オレと紬、楓と皐月のペアにそれぞれ由佳を加える形でローテーションを組んで輸送することになった。後悔先に立たずとはよく言ったものである。明日には筋肉痛になるんじゃないだろうか。
「いーい、もう二度と向こう見ずな買い物はしないこと」
「はいぃ……もうしません、もうしませんから私も休ませてください……」
「ダメ。戒めとして、ずっと持ってること」
「そんなあぁ……」
元凶である由佳が罰としてローテーションに入れてもらえないことは当然のことである。
段落落とすの忘れてて修正しました。




