46話 災厄の終焉
ルミナさんの指パッチンをする音が聞こえた。すると、まるで至近距離で花火が爆発したかのような爆音と共に、一瞬辺りが蒼い雷の眩い光に包まれた。
ルミナさんは事を終えるとぼくに言われた通りすぐに身を屈めた。……これが上手くいっていれば、敵は逃げ場が無く、雷の波動の餌食になっているはずだ。
「……やりましたかね……?」
ぼくは恐る恐るカウンターから顔だけを覗かせた。
周りはすごい黒い煙の量で敵がどうなったのか確認出来なかった。なんとか頑張って目を凝らしてみたが、その努力はあっけなく散った。
ぼくは断念して少々モヤモヤした気持ちをしながら顔を引っ込めた。そしてなんとなくルミナさんの方を見ると、ルミナさんは軽く唇を噛んで、少し苦悶の表情をしていた。それは、ぼくには痛みか何かを必死に堪えているように窺えた。
「ルミナさん、どうかし――」
気になって尋ねようと近づき、ふと、ルミナさんの手の方に目を向けると、ぼくは聞かずともルミナさんが何に我慢していたのかがハッキリと分かった。
ルミナさんの右の手の平は、親指と人差し指から小指球辺りにかけて切り裂かれており、トマトを握り潰したみたいに真っ赤に染まっていた。
流血を阻止するためか、左手は右の手首をがっちりと掴んでいた。
途端、ぼくはこれまでにないくらいの責任感と罪悪感に追われた。……ぼくのせいだ。ぼくが余計な作戦を持ち出したから、ルミナさんは大怪我をした。あの時、素直に大人しくしていて様子を見るべきだった。
「ルミナさん……」
「大丈夫! ……このくらいの怪我はもう慣れっこですよ! ヒロくんは何も悪くないですからね!!」
ルミナさんは少し濁無理矢理感のある笑顔でそう答えた。ぼくはまだ、何も言ってないのに……。ここまでの経験で、この先ぼくの言う言葉はルミナさんにはお見通しだったのだろう。
ぼくに気を使わせないように先に発言してつもりなのかもしれないが、それだと逆に悲しくなってくる。……せめてもの償いとして、ぼくがルミナさんの為に出来る事は…………何か……。
「そ、それに、もう敵の気配は消えましたし、これで作戦成功ですよ!」
「なっ……何言ってるんですか! 現にこうしてルミナさんが怪我をしてるじゃないですか! 早く処置をしないと……」
ぼくがカウンターを飛び出し、助けを呼ぼうと受託室の入口まで走ると、その階段の方から何重もの階段を上ってくる足音が聞こえた。
城の兵士達か……? 良かった……。
「ものすごい爆発音が聞こえたが、何かあったのか!? ……って、部屋中ボロボロじゃないか!」
そう言ったのは先程城の外でアレガミを拘束していた兵士だった。後ろに銀の甲冑で腰に剣を身に付けた兵士達をぞろぞろと引き連れている。
「あの……すみません……」
「ん? お前はさっきの召喚者じゃないか。ここで何があったのか詳しく説明してくれないか」
「それは後ほどきっちりお話します。それより、ケガ人がいるんです! そちらの方を優先してくれませんか?」
「何!? どこにいるんだ!」
「カウンターの裏で安静にしています……」
「よし、お前達! ケガ人を救護室まで運ぶんだ!」
『了解!』
今まで勘違いしていたが、この人はどうやらこの兵隊の隊長のようだ。一声でこんな大勢の兵を動かせるのだから。それならばかなり地位の高い人と思われる。ある程度実績があるのだから隊長になれているのでアレガミを一人で取り押さえられたのも納得だ。
「申し遅れた。私はアガンテス。土地調査兵の隊長を務めている」
「あっ……ご丁寧にありがとうございます。ぼくはヒロと言います」
「これからよろしく頼むぞ。召喚者」
「は、はい……」
名乗ったばかりなのにまだ召喚者呼ばわりされるとは……。まあ、仕方ないか……。間違ってはいないし。
「隊長! 負傷者は二名! 護衛兵所属隊長のルミナさんと任務受託総合管理人フィルマさんです! ルミナさんの方は包帯を巻いて止血すればなんとかなりそうですが、フィルマさんの方は右脚の骨折に大量出血、そして意識不明という重体ですぐにでも治療が必要です!」
「なに? 何故戦闘の中でもエリートであるその二人がやられているんだ? ……考えれば考えるほどややこしくなってくるな……。まあいい、とりあえず二人を救護室に運べ!」
『はっ!!』
カウンター付近に群がっていた兵士達がアガンテスさんの命令の元、四人の兵士がルミナさんとフィルマさんを担ぎ、残りの兵士達はそれをカーテンで隠すように囲み、やや急ぎ足で受託室を出ていった。
「おい、階段気をつけろよ! 担いでる側は足元が見えないんだ!」
「分かってるって! いちいち指図するなよ!」
「ええい、お前らきちんと運ばねぇか!!!」
などとよく分からない口論をしながら兵士達はしだいに遠ざかっていった。……なんだか、すごい兵隊だな。申し訳ないけれども、なんというかチームワークがほぼ感じられない。
「ははは……」
自然に笑いがこぼれてしまう。
「ゴホン! これは私の部下が大変見苦しい所をお見せした。複人数作業となるといつもああなんだ……」
「あ、いえ! 全然大丈夫ですよ!!」
気を使わせてしまったのか、少しうんざりしたような声だった。そして咄嗟に返答したぼくのセリフもちょっとバカにしてるような言い方になってしまった。
穴があったら入りたいというのはこの事か……。
「……それはそうと、私達も救護室へ向かうとしよう。その向かっている間に、ここであった出来事を教えてくれ」
「……はい。分かりました」
ぼくはアガンテスさんと救護室に行く途中、受託室であった出来事を、ぼくの語彙力と説明力を最大限まで活かして出来るだけ鮮明に、詳細に話した。
そのぼくの話を聞いたアガンテスさんは驚いたような表情をして、ただ一言、「そんな事あるがわけない」と呟いた。
ちょっと急ぎでの投稿なのでいつも以上に文章はゴタゴタな所があるかもしれません( ̄▽ ̄;)




