20 ある意味ようやくスタートライン
結果から言うと、この遺跡の防衛施設は3体の稼働機だけだった。もう一基。固定砲台のタレットがあったのだが、落盤によりお亡くなりになっていた。(もちろん、きちんと解体しました)
この遺跡は、数人の従業員を抱える程度の小さな会社だったようだ。何の会社かわからないが、いくつもの書類版が重なっている。調べればわかるだろうが、そんなことをするほど暇ではない。
2体の稼働機が守っていたのは倉庫だったらしい。倉庫の中の品は、加工前の皮の材料のようだ。その多くは長い年月で劣化しているが、使えるものがあるかもしれない。もっとも、大量にある上にすべて巨大なもので、騎士団の人員を使っても、持ち出すのに苦労するだろう。さらに、すべてを持ちだすとなるとさらに何往復も必要になる。
苦労に見合う価格になる事はないようなので、放置する。
ただ、それとは別に稼働機の整備用のパーツ。予備の小型マテリアルが1個見つかった。それと稼働機用の工具一式。
階段の上は事務室のようで、数個の机が並んでいた。
まあ、書類関係に興味はない上に、未使用の記入板は当然使い物になるわけもなく、机の中や、棚から使えそうな部品関係を、片っ端から集めてまとめて回収。
それと部屋の隅にあった棚から、旧時代の型の鉄の手斧が3本。防犯用か?
最後に事務室の奥。壊れたタレットの置かれた通路の先に、おそらく社長というか組合長というかそういった特別室があった。
中は事務室とは比べ物にならない位豪華だ。
棚に並んだ何かよくわからない置物。重いが、大きさの割には良い値段が付く。ゴルフコンペのトロフィーとか、そんな感じだと思うが、いつの時代も偉い人は派手なものが好きなようだ。
ドリスが壁にある一目見て豪華なタペストリーをはがして、上機嫌でまとめていく。
机の中と、ついでに壁にしつらえた金庫をこじ開けて、中から十七枚の旧時代の金貨(貨幣としての価値はないが貴金属としての価値がある)中型マテリアル1個。小型マテリアル3個。
ついでに、まだ使えそうな皮のコートを回収しておく。現代でも十分通用するような高級コートだ。良い値段になるだろう。
騎士団のところまで、三往復で荷物を運んでだが、こんなものだろう。
腰を据えて、倉庫の中を見てみたいが、そこまでの時間はないだろう。
「こんなもんだ。金貨20枚位にはなるだろう」
これでガラハドとドリスを【銀階級】にあげる事ができる。そうなれば、わざわざジャンク品を組合に持ち込む必要もなくなるし、施設を借りる事もできる。
後は、金とジャンクを集めて行けば、魔砲の強化もアプリの購入も可能になるはずだ。
「それじゃ。戻るか」
「…金貨16枚と、銀貨37枚か」
いやはや、大漁だと思ったけど、ほんとにすごい量になったな。さらに、タペストリーに衣装など、組合で引き取らないものを入れれば金貨20枚は超えるだろう。
まあ、山分けなので半分は騎士団に持っていかれる事になるが、それでも金貨10枚以上。さらに、二人も【銀階級】に昇格するわけだ。
所定の手続きを終えて、市民階級になった二人は感極まって抱き合っている。
組合内なのにである。
通報されろ!
それを、にやにやしながら見ていると。声をかけられた。
「セージ君」
見ると、受付のホリィさんだ。
…あの。不機嫌が大変よろしくないようではありませんか?
「あのね、この前なんて言ったか覚えている?」
「え?いや、あの、個人住宅ばかり漁るのは良くないと…」
「そっちじゃないの。無理はしないようにって言ったよね?」
「………はい」
いやね。無理じゃないのよ。いや、無理は無理だけど。これはそういう無理じゃないの。無茶の延長上にある無理ではなくて、リスクとリターンの上で…
「第一、まだ新人だから大丈夫っていったよね?なんで、いきなり探索規模を上げちゃうかな」
騎士団とつるんでいたから…とは言えない。ドワーフ社会は仕事の制度から、仕事の区分けがきっちりしている。自分の仕事は自分の仕事。他人の仕事は他人の仕事だ。
今回の件も『たまたま、騎士団と同じ方向に移動していたトレジャーハンターが、たまたま、騎士団の野営地の近くに見つけた遺跡を探索した』という流れだ。
ブラックではないグレーゾーンだが、ホワイトでない以上、あまり公言するのは良くない話だ。
「やむにやまれぬ事情がありまして…」
「ジー…」
もちろん、ロリに睨まれた所で変な感情に目覚めたりはしないが、多少でも後ろ暗い所があると、なんというか引け目というものを感じるわけである。
しばらくこっちを見ていたホリィさんは、やがてあきらめたようにため息を一つつく。
そして、ちらりと粘土で固められた左腕を見ると口を開く。
「まあ、その怪我だからしばらく探索はできないでしょう。3日後にまた組合に来なさい」
「はい?」
「勝手に探索に行かないと思いますが、お話があります。いいですね。3日後ですよ」
オレはそこまで言われるようなことをしたのでしょうか?
そう聞ければ、オレはもう少し幸せな人生を歩めたかもしれない。
幸せでない可能性も否定できないけど。
とりあえず、オレの答えは決まっていた。
「…はい」




