16 鉄兜と契約
フミッ!
まず、最初に言おう。何度でも言おう。
オレはロリコンではない。オレはロリコンではない。
だからロリなドワーフ相手に、縛られて這いつくばって頭を踏まれても興奮しない。「ブヒィ」などといったりはしない!
カザル=ボーダーの町の、あまり上等ではない一角に来ている。
わざわざ銀貨数十枚支払って、シダ酒を一樽買ってココに来た。
理由は簡単。
『お詫び』
である。
前に騎士団付け回して遺跡までの道を調べた、あの騎士団だ。迷惑をかけた以上、お詫びをしておくのは悪い事ではない。
当たり前だが、扱いは友好的ではなかった。
曲がりなりにも命の危険のある討伐時に、余計な事をした部外者だ。好意的になれる要素はない。
しかも相手が悪い。
”鉄兜”のリース
ガラハドから、騎士団について聞いている。女傑リース率いる騎士団。下級の騎士団中でも1,2を争う高い実力を誇る戦闘集団だ
未亡人リースは、元々前騎士団長の奥さんで、戦闘中に死んだ旦那の仇を討ち取り、その功績で騎士団を引き継いだ正しく女傑。
ガラハド自身が、うつろな目で「あれは鬼だ」と言うほどの存在だ。
騎士団といっても、氏族に許可をもらった武装集団であり、立派な職業だ。騎士団長というのは、認められた職業だ。
そして、奴隷が市民になれる数少ない機会の一つでもある。
騎士団に所属し100年も真面目に勤め上げれば、騎士団長の推薦の下で新しい騎士団を立ち上げることができる。(もちろん氏族が認めればだが)
騎士団長は氏族の認める市民となる為、多くの奴隷階級が騎士団に所属し、危険の中で暮らしている。とはいえ、市民になったとしても危険が減るわけではない。生涯騎士団長であり前線の兵士だ。
オレがこの道を選ばなかった理由は簡単だ。
金だ。
前にも言ったが騎士団はボランティアだ。有力な後援者が付けばいいが、基本的に騎士団の収入は、敵を倒した際にもらえる報奨金だけだ。さらに、そこから団員の生活費。武具の用意に修繕。けが人の治療。
最下級の騎士団が、正規品ではなく粘土の鎧や、青銅の武器で頑張っている理由をみれば、オレの願いである人造人間ヒューリ―を手に入れる事は不可能と言っていい。
「で、何が狙いだ?」
ドワーフなのでどう見てもロリ。だが、金属で補強された鎧を着て、目まで覆う鉄の角兜をかぶり、嗜虐的な笑みを浮かべつつ、オレの頭を踏みながら聞く。
おかしい。お詫びに来た以上、好意的ではないとはいえ、いきなり捕まって縛られて、転がされた挙句、騎士団長に頭を踏まれるような事ではなかったはずだ。
オレの知らない間に、お詫びの定義が変わったのか?
「いや、いやいやホント。九分九厘お詫びの品っすよ」
「ほう。じゃあ、残りの一厘は?」
ああん。
…自分の心に正直なオレに乾杯。
まあ、確かに、お詫びだけではないですよ。でも、基本はお詫びですよ。ただ、打算的な考えもありましたが、あくまでも”あればいいかな~”程度のものでして…
「言い訳はいいから言え」
「…はい」
オレの頭から足をどけて、部屋に置かれた椅子に戻ると、促すように手を振る。
オレの思惑はこうだ。
騎士団は定期的にカザル=ボーダーの外で討伐に出ている。当然、その途中で旧時代の遺跡を見つけることもあるだろう。
その情報を手に入れれば、コド=ハラクシャス遺跡よりも近い場所で探索する事ができる。
片道でも2日近い距離にあるコド=ハラクシャス遺跡群だ。道がわかったとはいえ、途中で敵と遭遇する可能性も高い。道が崩落して迂回路を探すことも起こるはずだ。
近場で同じことができるなら、そのリスクはずっと少なくなる。
「…たしかに、心当たりがないわけじゃない。で、それにいくら出すっていうんだ?」
「金はない」
先の探索の収入でも金が4枚。全額出すなんて馬鹿な事はしない。
「だが、こうする事はできる。探索した後の遺物を換金して山分け。こっちだって、ガセネタをつかまされるわけにはいかない。オレ達が失敗したらあんたもマル損。だが、うまくいけばゼロじゃない」
見上げるようにリース騎士団長を見ながらしゃべる。
「今まで、遺跡を見つけてどれけ稼げた?トレジャーハンターにはした金で売るだけか?別にあんたらの足を引っ張るわけじゃない。自分の食い扶持くらいは自分で出す」
あ、そうだ。ほかにもいろいろつけちゃえ。
「あんたらはオレ達と一緒に、討伐へ向かう。いつも通りだ。遺跡があればオレ達が探索する。討伐時はおとなしくするし、邪魔もしない。場所だってあんたらが知っているんだ。オレ達がどうこうできる話じゃないだろ?」
ついでに、遺跡までの護衛もお願いしちゃおう。カラク=ボーダーの外は危険な場所だ。近かろうと、遠かろうと危険はある。騎士団なら、それら危険への対処はお手の物だ。
「分け前は?」
相変わらず、縛られて転がされての状態だ。そろそろ縄を解いてほしいのですが…
とりあえず、縛られたままだが、体を起こす。
「どこまで手伝えるかによる」
「遺跡までは案内しよう。だが、遺跡を調べるのはお前達だ」
「騎士団は手伝ってくれないのか?」
「当たり前だ、遺跡荒らしはアタシらの仕事じゃない。アタシらだって、討伐に手を貸せなんてことは言わん」
「3割」
「半分だ」
「暴利な!」
「これは詫びなんだろ。それに、遺跡の情報だけ持って行かれても困るしね」
…ああ、その手があったのか。遺跡に行くだけ行って、適当に漁った後、さもそこまでといわんばかりに回収して、遺跡の情報を手に入れて、そのあと改めて本格的に漁る。
まあ、バレたら命の終了だ。騎士団の数とこっちの数じゃ、結果は日の目を見るより明らかだ。
そういう意味でも、帰って換金するメリットが出る程度の戦利品が必要になるわけだ。
だが、それでも半分は多すぎる。
「4割」
「5割」
「4割5分」
「5割」
この女ブレねぇぇぇぇぇ!!!
頑固なドワーフに値段交渉なんて、するのが間違っているともいえる。しかも相手は商売人ではなく職業軍人。つまり、自分の腕で食っている“職人”だ。
妥協とはもっとも縁の遠い存在でもある。
「わかった5割でいい。だが、騎士団から人をつけてくれ」
「あん?」
「いいのか?オレ達が高価な遺物を一つ二つポケットに滑り込ませても。あんた達は遺物の価値を見分けられるのか?」
「…」
リースの口がへの字に曲がる。
ケケケケケ。死なばもろともだ。巻き込んでやる。
リーフが椅子から降りて近づいてくる。腰に手をやって、見下ろすようにオレの目をじっと覗き込んで口を開く。
「いいだろう。契約成立だ」
そういうと胸を突きだす。
おお、ロリだけどデカイ!?
違った。
胸を突きだすという事は、体をそったという事。
そして、鉄兜がハンマー代わりにオレの脳天に振ってきた。
*********
面白いおもちゃがやって来た。
デカイ事を言う割に抜けている。さらに甘ちゃんだ。
ちょっと手荒に突っつけば、いたずらを白状するようにしゃべりだす。
それだけなら、殴り飛ばして追い出すのだが、それだけじゃない。いたずらの内容を話すその顔だ。
ああ、気に入らない。
話の内容がじゃない。遺跡の話なんて、コッチからすれば余禄みたいなものだ。情報を売ったってはした金。当たりハズレ付の情報だ。ただし、後腐れナシの条件なのは、買った相手も了解している。そんな関係に、信頼もクソもない。
気に入らないのは話の内容じゃない。
ワクワクしながら話すその目。その顔。
部下に聞かせなくてよかった。こいつは天然のタラシだ。こいつの話を聞いたら、部下を数人か持って行かれちまう。
デカイ話も、そして甘ちゃんである事すら武器にしている。しかも、天然だ。無自覚でその事に自分でも気が付いていない。
命を賭けてもいい。人生を預けてもいいと思ってしまう。その話だけのデカイ皿の上に、自分を乗っけてしまう。
危ない。危ない。
一度タラシこまれた経験というのは得難いものだ。思い出すたびに悶絶するような、一生の不覚だったが、同時に一生ものだ。
おかげで、対処法は熟知している。
こういった奴の扱いはお手のものさ。
気絶したガキの足をつかんで 引き摺りながらドアを開ける。
そこは宴会場だ。お詫びの品として持ち込まれた酒を飲みながら、騎士団のドワーフ達が騒いでいる。いつもの薄めた安酒ではない。めったに飲めない酒だ。それを心置きなく飲めるとなれば、部下たちが喜ぶのはよくわかる。
気絶したガキを宴会場に放る。
「おい、こいつを裸にひん剥いて、そこで酒漬けにしてやんな」
「「了解しました。団長殿!!」」
上下関係をはっきりさせる。
こういった奴の扱いはお手のものさ。
なにせ、死んだ旦那とそっくりだからね。
*********
『エルドアの宿屋』の一室。
布団をかぶってシクシク泣く仲間を、憐れみのこもった目で、ガラハドとドリスが見ていた。
鉄兜のリースを知る二人からすれば、何があったか十分理解できるのだ。
「うまくいっちゃんたんだね…」
「ああ、うまくいっちゃったんだな…」
こういう時どうするか、二人は知っていた。
そっとしておこう。
「ダメだったら、ぶっ飛ばされるくらいで済んだのにな…」




