12 大通りと枯れた遺跡
騎士団から離れて数時間後。大きな地下道に出た。
道幅は20m近くあるだろう。天井も高い。ところどころに落盤の後があり、天井を支えていた柱が倒れていたりする。
少し離れたところに案内板を見つける。
見に行きたいが、いくつか問題がある。
一つは大通りのせいか、曲がりくねった坑道ではなく直線だ。見通しはがよい。
あくまで、視点の高いここからならばだ。
そして、目下問題第一。
下りの階段がない。
正確には下りの階段があった。だな。何か、硬くて巨大なものがぶつかったような跡があります。ここら一体の壁は削れている。
「はい。ロープ」
ドリスが、荷物からロープを取り出す。当たり前ですが坑道移動の必需品です。平原と違い、三次元に道ができているので、上る下るは必須となります。
そして、見に行くのは当然オレ。
なにせ、他の二人は旧時代の文字が読めない。オレだけがある程度は読めるのだ。
周囲を警戒しつつ地下道に降りる。周囲に生き物らしきものは…天井近くに、黒い甲虫が十数匹固まって止まっている程度か。でもあの虫どう見ても一匹50㎝くらいある。
まあ、基本的に無害だろう。
崩れた落盤の破片や残骸から顔を出して左右を見るが、障害物だらけで見通しが悪い。振り返って二人を見るが、高い場所から左右を警戒する二人からの警告はない。
周囲を警戒しつつ案内板へ。
壁に彫り込まれた案内板は、かなりすり減っていた。浮彫された案内板自体もところどころ崩れており判別不能な個所もある。彫り込まれた文字も、崩れていたりと判別が難しい。
そうでなくても、ドワーフの地名は長く、よく似た名前や綴りもあり、読解を間違えて違う方向に進めば、オレ達は迷子だ。
…この先に交差路があって、左に行くとカル…いや、ガラドか?こっちじゃないって事か?
「ぬう…」
大きな道の進行方向だけではなく、小さな道の案内まで入っているせいで判別が難しい。
たしか、マテリアルギルドで見たカタログの中に、写真を取るアプリがあったな。ここで写真に収めて安全なところで調べれば、危険な事をしないで済むか。
値段いくらだったかな。
いやいや、今はそんなことではなく解析を…
「セージ!!」
突然の声に振り返る。ガラハドとドリスが道路の片方を指さしている。同時に、自分でも感じる微かな振動。
戻る時間はなさそうだ。左右を見回すと、10mほど先に行動の入り口が見える。当然中に入った事のない道だ。
背に腹は代えられない、その坑道に飛び込む。振動はどんどんと大きくなってくる。
ズンッ!ズンッ!
一定のリズムで振動が近づいてくる。坑道の奥に進み、角を曲がったところで壁に背を付けて息をひそめる。
ズンッ!…
なぜ、近くで止まる。気が付かれたのか?ドキドキする心臓を抑えつつ。そのままじっとする。
…ズンッ!ズンッ!
再び足音が再開し、その音はどんどんと小さくなっていく。
「…ふう」
音が完全に聞こえなくなってさらにしばらく待ってから、そっと顔を出す。慎重に大通りをのぞいてみるが、何かいる形跡はない。
ピュー!
鋭く口笛を吹くと、ガラハドたちも坑道から顔を出す。左右を見て、オレにオーケイサインを出す。どうやら、その足音の主はいなくなったようだ。
こっちも心配ないという風に手をふって、再び案内板の解析をする。
これが「ハ」と「シャス」の文字。間が壊れていて読めなかったが、ハラクシャスになるのか?そうなると、この前の文字はコドと読むのか。なるほど。
この下にある数字が距離か…そう遠くはないな。
それから、一日ほどで整備された床が増えて、太い道が増えてきた。基本的に太い道の近くには大きな施設があるのだが、オレたちの目的はそこではない。
カザル=ボーダーが、旧時代の遺跡の再利用をしている。だからか、旧時代のドワーフの街の構造も、そう今のドワーフの都市とそんなに変わらない。
ドワーフの住居的は、放射状に広がるわけではなく、アリの巣のように個人住宅の集合地区ができる構造だ。地層的に住居に適した地層、施設に適した地層といった条件がある為、そうならざるを得ない。
問題は、オレ達が遺跡の地図を持っていないところだ。
アプリに簡易地図を入れれば、この場所や周囲を確認できるのだが、概略しか乗っていない一番安い地図でも銀貨80枚。結構いい値段だ。
今の所、手あたり次第に漁るしかないのだが、あまり効率的な方法ともいえない。
「駄目ね・・・」
手近な所にある住居の一つに入り、中を調べる。稼動機もおらず、ついでにめずらしいものもなかった。
「タペストリーも碌な物が残っていないわ」
ドリスが、ボロボロになった布クズを、床に捨てる。
まあ、よくある話ですでに探索済みの場所ということだ。大量のゴミと残骸。金属系の物は根こそぎ持っていかれているし、原形をとどめている家具は、本当に原形をとどめているだけだ。
コド=ハラクシャス遺跡に到着したオレ達だが、住宅地に着いただけだ。とりあえず、調べて見たがこの住宅地の中は漁られた後のようだ。
半日かけて調べたが、手に入れたのは金属製のスプーンと、安物の陶器の皿を五枚。
完璧に赤字だ
「セージどうする?」
とりあえず、状況からすると赤字だ。
「戻ろう」
「いいのか?」
「金はまだある。帰り道を調べて遺跡群への道を確実にしてからだ」
前回の探索で得た金はもう半分以下になっている。次の探索で成果を出さないと、また禁止地域の先を漁る必要が出るだろう。
とはいえ、まずは道だ。遺跡群まで楽に行けるようになれば、それだけ奥を探索できる。食料の余裕があるうちに戻る。
当たり前だが、安全第一だ。
今回の遺跡への道は騎士団の討伐についていったため、直線距離というわけではない。一応、遺跡への大まかな道も分かった。その道を出来るだけショートカット出来るように調べるだけで、今回の探索は無駄にはならない。
まあ、その分トラブルも増えるわけだ。
「クソッたれ・・・」
カザル=ボーダーの城門前で、3人で腰を落として休憩する。
ガラハドの左腕には包帯が巻かれている。
帰り道は想定していた以上の時間がかかった。もちろん、新しい道を探しながらだったからだ。獣人の縄張りを迂回し、少しずつ安全な道を見つけていたのだが、その途中で、ホールドビートル(穴虫)に襲われたのだ。
ホールドビートルはクワガタみたいな大きなはさみを持った甲虫で、はさみで獲物をはさんで絞め殺す。クワガタなのに肉食だ。意味分からないよファンタジー…
ガラハドの盾と鎧が一部砕けたが、飛び込んだドリスが鉄の斧でハサミをブチ折った為、大事は至らなかった。
問題は、このホールドビートルは酸性の液を飛ばす能力を持っていて(これで穴を掘ったりするらしい)、挟み込まれた時に、それを左腕に浴びてガラハドが怪我をした。ドリスの用意した薬で対応できたが、2,3日は様子を見る必要があるだろう。
とりあえず、無事に戻る事は出来た。大雑把にだが遺跡への道もわかった。とりあえず、ガラハドの傷の様子と、次の探索の用意をして今日は休もう。




