23 二度目の挑戦
久々に投稿します、かなり間が空きましたがまだまだ書く予定です。
藁人形を作る者達に言葉はいらない。
ただ、自らが作った藁人形を相手に手渡すだけで自分を伝えることができる。そこには嘘偽りはなく、ときに言葉よりも正しく意思の疎通ができる。
欠点があるとすれば、藁人形は正直過ぎることだろう。嘘がつけないことから、本人も知らないこと、気づいていないことまで相手に伝えてしまうからだ。
そのため、藁人形の交換は神聖なものとされる。他人に強要することは許されず、また交換するにも慎重に成らなくてはならない。人は他人のことを不用意に知るべきでなければ、考えなしに自分をひけらかすものでもない。
シャーリーがシュェリーの藁人形を受け取ったとき、シャーリーは労わるように呟いた。
「お疲れ様です」
シュェリーの藁人形は形の良い、綺麗な藁人形だ。要所要所をしっかりと縛り、藁束の緩みもない。しかし、草臥れている。別に藁人形が古いわけではない、おそらく藁の選別が上手くいかなかったのだろう。藁選びは藁人形を作る工程の中でも特に目を使い、判断力も要する。そのため、作り手の精神状況が反映されやすい。
だから分かる、彼女は心から疲れているのだと。
シュェリーについてはゲームを通して知識で知っている。なにがあったのかも凡そ察しがつく。しかしそれで彼女の全てが分かるわけではない。魂の投影である藁人形を見て、初めて知識が理解に至る。
そこから先は語る言葉がなかった。安易に“分かる”などと言っても意味はないだろうし、それで彼女になにかできるわけでもない。自分のできることは藁人形を手渡した時に全て終わっている。
「シャーリー殿・・・いいえ、シャーリー様、数々のご無礼をお許しください。貴女を試そうとした私が愚かでした。
私の見立てが正しければ、貴女は一度敗れている。でも、貴女は今も戦っている。
降り積もった雪のように凍えようとも、強い逆風に吹かれようとも、しなやかな一本の木の如く、折れることなく立ち続けている」
「シュェリー殿、それは貴女も同じこと。私だけが特別なわけではありません」
「いいえ、私はすでに折れてしまいました。その藁人形のように若くして身も心も草臥れているんです」
「しっかりなさい、シュェリー・ワン!」
シャーリーの一言はシュェリー以外にも、その周りにいた二人にまで届いた。
「・・・しっかりなさい、貴女は悔しくないのですか?恨めしいと思ったことはないのですか?今の自分に満足しているのですか?お菓子を食べたいとケーキの山を見つめていた、さっきまでの貴女は何所にいったんですか」
悪役令嬢とは因果な役回りだ。横暴、我侭、馬鹿、三拍子揃ったどうしょうもない女、それが悪役令嬢の第一印象だ。ヒロインのことを妨害するために悪質な嫌がらせや虐めをして、最後には囲まれてフルボッコにされる。それが定番だ。
しかしその一方で悪役令嬢には別の見方がある。横暴や我侭なのはよくあるが、スペックは高く、影では努力を重ねている。手段を選ばないのも、権力者や特権階級の高位に生まれた女として自由がなく、石に噛り付くつもりで自分の欲しい物を求めなければなにも手に入らないと知っていたからだ。
シャーリー・フットがそうであったように、悪役令嬢は皆、ただの少女なのだ。身に余る自由は求めずとも、少女らしい夢の一つぐらいあって当然だ。なにより、彼女達からすれば、なんでも持っているようなヒロインの存在は嫉妬の対象でしかない。ゆえに彼女達は悪魔になってでも戦う。だからこそ強く、ヒロインも多人数で袋叩きにする以外に悪役令嬢を倒す手段がなかった。
「私達は負けたのかもしれません、私達を破った存在にはもしかしたら勝てない運命なのかもしれません。
ですが、負けるならせめて・・・鶴の羽を少しばかり毟ってから逃げ帰る、そういうのもアリでは?」
シャーリーが悪役らしい、何かを貪欲に欲する笑みを浮かべると、それに釣られるように三人の悪役令嬢達も笑った。四人の間で悪い笑みが零れたころには、もはや誰も四人の邪魔をしようとする者がいなくなっていた。
「シャーリー様、デュポール・フォンと申します。可能であれば、貴女のお話をもっと聞きたいと思います」
「初めまして、セリーヌ・ブルーワです。私にも聞かせていただけないでしょうか」
デュポール・フォン、ゲーム“MY・DEAR”に登場する女装の悪役だ。王女であるヒロインのためにクーデターを起こし、一国の“女王”として君臨するも最後はヒロインとその仲間達の手によって国を追われた。
セリーヌ・ブルーワ、ゲーム“最後のデザート”に登場するヒロインのライバル的存在だ。貴族の令嬢であるが料理の達人にして、並の男よりも力も体力もある大柄な女性だ。卑怯なことを嫌う正々堂々とした人物であったが、最後はヒロイン一派に媚びようとする父親の手で修道院に軟禁される。
二人共、負けを経験したことのある人物だ。その内容はシャーリーやシュェリーにも並ぶ。
そんな四人が肩を並べて敵陣のど真ん中にいる、なんとも愉快な話だ。