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24 傲慢な令嬢

久々に投稿します。

かち かち かち かしゃ


 子爵令嬢、フィオナ・ロックウィルは新年の宴にも関らず、終始脳内で算盤を弾き続けた。周囲の会話には適当に相槌を打ち、自分からは話を切り出すこともなく、自分の中で勘定をしていく。実家の商売のこと、社交界で仕入れた情報、今の流行、貴族社会に身を置く彼女には考えなくてはいけないことがあまりにも多すぎる。


(さて、午前中の分なこれで良いとして、次は昨日のアレか)

 世の中、まずは金。それが自分の行き着いた真理だ。


 金は衣・食・住を満たし、暮しを心身共に支える。金が無ければ暮らせないし、もとより貴族などできるはずもない。ただ、金がまず大事と言う私を非難したくてしょうがないヤツ等もいる。


 別に金さえあればなんでも出来るなんて思っていない。金では買えない物もこの世には沢山ある。だが、それを理解した上で金は、“まず、最初”に必要なものだ。


 近頃、貴族社会に“祝福平和論”などという物が出回っているがアレは私の考えとはまったく違った。昨日、論者の中でも中核にいると言うご婦人の話を聞き、自分でもよく考えて結論を出した。


(アレは違う)


 最初こそ国の経済を成長させた産業祝福を原に考えられたとして興味を示したが、その内容は前国王の政策とはまるで異なる物だった。


 “祝福平和論”は人を想うことで発動する魔術、“祝福”を深め、人と人とが互いに尊重し合える社会、愛のある社会を作ることでより“祝福”の平均効力を高め、人々の暮らしに“祝福”をこれまで以上に浸透させることを目的としていた。


 “祝福”の源である“他者を想う気持”を高め、祝福使いの使う“祝福”の効力を国内全体で高める。魔術と言うインフラのリソース確保として、これは確かに正しい。人と人とが憎み合う社会では“祝福”など発動できない。また、“祝福”は今や国民ととって日常生活には欠かせない物となっている。できることなら、この先も安定して供給されてほしい。


 ただ、間違っている所があるとすれば、人の世が愛などの感情で回っていると信じている所だ。それだけでも“祝福平和論”を受け入れない理由になる。


 人の世は金によって作られ、金が人を結び、金が社会を支える。経済こそがこの世の理だ。

(残念ながら、愛で社会は作れないわ)


 太古の昔、まだ人々は貨幣を発明していなかった頃、人々は共通の価値を基準に交換を行い、社会を構築していた。ある地方では麦が、またある地域では豆が、とある島では米が人々を結びつけていた。


 原理は簡単だ。例えば、ある漁師が魚を釣ったとしよう。普段の食事は魚で賄っていたが冬を越すために温かい毛皮がほしかった。とはいえ、魚を釣る漁師には獣の毛皮を手に入れる術はない。だが、山の猟師達なら毛皮を持っている、

 猟師と漁師、互いに自分の生産している魚と毛皮を物々交換すれば漁師はほしかった毛皮が手に入る。だが、一つ問題がある。猟師達が魚に興味を示さなかった場合、漁師は交換ができない。

 そこで登場したのが万人に共通する価値だ。人々の重要な食料で、日持ちもする穀物ならば様々な人間の興味を引ける。

 漁師は一度、釣った魚を穀物と交換し、穀物を持って猟師に交換を持ちかければ良い。


 そして、交換に穀物を扱うことで大勢を結びつける社会が誕生した。

 それは後に金属で作られた貨幣が誕生することでより強固になり、人々は文明を築くに至った。


「なにを血迷ったか、この世の基本を無視するとは・・・」

 愛には確かに人を動かし、変える力がある。しかし、愛などその内に冷める。熱したり、冷めたりを繰り返す不確かな物を基準に社会など構成できるはずもない。熱が冷めたといって社会が歪むようなら人の世は混乱する。

 人々の間で混乱を招かないためにも、常に有り続ける、不変的な物を基礎に人の世は築かれていなくてはいけない。


 そして私はそれが金だと思う。

 ゆえに、統治者は経済の安定を優先し、民衆には労働が求められる。

 経済の混乱は恐ろしい、戦とは比べ物にならないほどの惨劇を世に生み出す。仮に戦乱の世か未曾有の経済危機のどちらかを選ぶ必要があるなら、私は戦乱の世を選ぶ。

 戦乱の世は確かに血生臭い。だがその分、世に対してある程度のコントロールが利いている。戦は戦場を中心に起き、権力者の采配によって終結する。そして市場では大金が動く。

 一方、経済危機は怖い。一度起きれば収拾は難しく、世には広く混乱が渦巻く。農民は土地を捨て、領地からは人と産物が消える。市場は物の出入りがなくなり、滞る。またその他の職種に就く者も職を失う。最後は税も滞り、統治システムはその機能を失う。それにより、社会が滅ぶ。

 戦場で死ぬ兵士など、どれほど多くとも精々数万が良い所。虐殺があったところで街がいくつか壊滅する程度だ。だが、経済危機は全てを無にし、その被害は飛び火を繰り返す。


 それだけはしてはいけない。それだけは絶対に許してはならない。

(そして、今、目の前に火種を見た・・・)


 しばらくは、目を離さないようにしなければいけない。

 なんだか嫌な予感がする。


 自身の内に不安を抱え、フィオナがパーティー会場に目をやると、一箇所だけ、異様な空気に満ち溢れた場所が目に飛び込んだ。

 “祝福平和論”が飛び交うカルト染みた空間に、フィオナにとしては寧ろ居心地良く思える濃密な淀み。

 それはフィオナ・ロックウィルが初めて悪役令嬢達を知った瞬間だった。後に彼女たちは誰よりもフィオナを理解し、心を通わせ、共に支えあえる同族となるなど、このときのフィオナには知る由もなかった。


「・・・鶴の羽を少しばかり毟ってから逃げ帰る、そういうのもアリでは?」


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