世話をしないと、炎は燃えない。 〜Ghost Lighter〜
時間は、二色 美端が応急手当を終え、新しい能力に目覚め始めた兆しが見えた...
ところから、少し前に戻る。
丘六 緋羽夢は、
沼 三二と話していて
(コイツには敬語使わなくていいな、てか使わない方がいいヤツだ)
と早々に判断していた。
「本当に、お酒コーナー...行くんかぁ?」
「そんなに渋らないでくださいって〜。ワタシ16なんで、お酒飲まないですよ。『酒飲みたいから』みたいな酒カスの動機じゃないですって。それに!言ったでしょ?ワタシの"安全地帯"は、鼻も勘も、そして運まで良くなるって〜」
「そんなぁ、今日のラッキーアイテムじゃないんだからさぁ」
ちなみに丘六 緋羽夢は基本的に占いを信じていない。運勢とかも"ただの言い掛かり"程度だと思っている。高校生時代、恋の星座占いを見てドギマギしてる同級生に対して、
「そのアドバイス、誰にでも有効じゃない?こんなの当たり前のことを"アナタだけ〜"って言ってるだけじゃん」
と言って以来、遊びに誘われなくなった。悪いことしたなと思いつつ、気楽でいいので、反省はしていない。
「じゃあ、何も無かったらコレあげますよ!楽しいですよ〜」
そう言って得体の知れないお菓子を出す。恐らくグミだろう、外国の。何故かカメムシのような形状をしている。
しかも、イヤに鮮やかなエメラルドグリーンをベースに、マダラに蛍光イエローが入る配色で食欲が落ちる。
「いやいやいやいや、なにその色?ヒ素でも入ってんの?」
「そんなに酷いんですか?コレの見た目?ワタシ、視力弱いからよくわかんないですよね〜」
「いや、だとしてもその形状はナシでしょ」
「味がいけるなら、気にしないですね〜。見た目は」
「う、美味いの?ソレ?」
「めっちゃパクチー効いてて楽しいですね!パチパチもします!それと、後味が苦い!」
「さっきからするパチパチ音と、パクチー臭はおめぇか!!」
「ハハハハハ!!」
「え、なんて商品名なの?絶対に買わないように回避するわ」
「"バグバグ!パクチーバグ!"って商品名ですよ〜。儘世さんイチオシのグミです」
「え、まって?"バグバグ"...そのネーミングセンス、ソレ、まさか国産?」
「そうですね〜。さすが我が国が作ったというか、ブラックライト当てるとめっちゃ光って面白いんですよ〜!今持ってないんでできないんですけど」
「そりゃ良かったわ...」
沼 三二が持っていたパッケージを見せる。本当に母国語で書いてある。
『ビタミンB2含有量 グミNo.1!』
と書かれており、蛍光イエローの部分がビッカビカに光った様子の画像が貼られている。全体的に光るのではなく、マダラに光るあたり、余計に食欲が落ちる。
どうやら、エメラルドグリーンの部分がパクチー味で、ブラックライトで光る部分にビタミンB2が含まれており苦いようだ。その2つが混ざるとパチパチするらしい。
「一つ一つ、妙に色味が違ってて、その分味も変わるし、パチパチ具合も変わるから、食べてて楽しいですよ〜」
「マジで初めて見たわ...」
「いやー大量生産できないのか、見る機会も少ないし、高いんですよね〜。本当にこういうデパートにやっとあるぐらい」
「いっぱいあったら困るわ」
「その点では、最後の審判でいい事もありましたね!このデパートに来たことで、無料で沢山取れます!」
「最後の審判のせいで、沢山の娯楽が無くなったけどな」
「そうなんですよ!だからこそ、こういう食の娯楽を楽しまないと!グミは腐れないから、ずっと楽しめます!」
「ん?そういえば確かに娯楽は食しかないよな...で、マトモな食にありつける場所って、今は」
「お茶会しかないですね!あそこで愛子さんがくれるお菓子がいちばん新鮮です!」
「やっぱりそうだよな...」
「でも、愛子さんはこの手のお菓子出してくれません!」
「そうであってくれ」
丘六 緋羽夢と沼 三二はそう談笑しながら、酒類コーナーに辿り着く。
「そういえば、来て気がついたけど、酒もグミみたいにそれなりに持つほうだよな?」
「そうなんですか?飲まないからわかんないですけど」
「ソウぞ。持つから大航海時代にラム酒を船に積んでた訳だし」
この緊急避難場所を兼ねた大型デパート『2 HEAVEN』は太陽光と風力による自家発電を行っている。最後の審判の影響により、太陽光は従来の70〜60%に落ち込んでいるので太陽光、風力共に発電量もその分下がっている。その為、このデパートの全ての設備に電力を回せるわけではない。
しかし、流石は緊急避難場所を兼ねた大型デパート。異常事態を想定して、電力は常に最適化された配線になるようになっている。足の早い食品等に必須の冷房関係には見切りをつけ、保存食になる食品等の維持に電力を回すような設計になっている。
これにより低電力で、長い避難期間に対応できるようになっている。その肝心な避難する住民は天使によって真っ先に殺害されている訳だが。
この酒類コーナーも、その電力が割り振られている場所であり、"キンッキンッ"に冷えてはいないが、貯蔵するには充分な換気と温度調節が維持されていた。
「ま、私も酒飲じゃないから、詳しくないんだけどね。歴史の授業で習ったぐらいしか知識ないわ」
「下戸なんですか〜?」
「ん〜、いや、まぁ?と言うよりねぇ」
丘六 緋羽夢が妙にはぐらかそうとした、その時、
「冷えた酒はないのぉ...?大人のフリで酒飲んでんじゃないの、よ!コッチは!こんなんで、酔える訳ないじゃん...よぉ!」
そう言いながら、焼酎瓶に抱きつくナース服の女性が向こう側で見えた。
「私、酔っ払い苦手なんよね...」
***
蜃 咲羅 22歳は、医大生であった。
名門大学に入れたのは良かった。やはり、名医を何人も育てているだけあっていい環境である。
しかし、指導がその分"ネチっこい"。数分の遅刻や誤字脱字も許すことはない。その度に「これでまた一人死んだ」とネチネチ言われる。期限を守れなかったり、延ばそうとした時には、死神が漂うような空気を教室中の皆で味わう羽目になる。
「人の振り見て我が振り直せ」が基本の教育スタイルなので、自分のミスでなくとも同じ空間で指導される。「他人が指導されている時でも、自分事のように聞け」と何度も言われた。
20歳になり飲酒という逃亡手段が解禁されて、ソコに転がり込んだ。そして、底が迷宮だった。
日の入りを酒と過ごし、日の出を酒と迎える。そんな日々を迎えていたら、単位を落とした。そんな時に最後の審判が起きた。
***
場面は丘六 緋羽夢が沼 三二の指示で、酒類コーナーに来たところから再開。
「え?え、え?ヒ、他人?」
焼酎瓶に縋り付いた女性が、軽いパニックになっている。
「スゥ〜...その、沼さん?」
「ね!ワタシの言った通りじゃないですか!?構え太刀さん!」
「え?何が?」
「運が良くなるって!」
「コレってアタリか?」
2人の目の前に居る焼酎瓶を抱いている女性。
髪は、栗色。橙色がインナーに入っている。その髪を一つの三つ編みにして後ろに流している。
服装は、赤い縁のある眼鏡。それなりに丈の短いナース服をゴスロリアレンジ。ちゃんとナースの帽子もある。
眼が印象的で、橙色の虹彩に瞳孔がハート型。それを揺らめくような赤で縁どっている。
声は酒焼け声のように少しガラついている。
全体的に炎を思わせる出で立ちで、一発で不確定要素とわかる。
「な、なんですか!?アタリって!?」
耳が真っ赤になっている。酔っただけではないだろう。焼酎瓶を後ろに隠している。
「なぁ、本当にアレ使えんのか?」
「きっとそうですって。運ってのは信じてないとダメですよ」
「いやぁ、でもなぁ。酒飲は"使いにくい"ことが多いからなぁ」
「愛子さんからの任務的にも、連れて行った方が...」
「それはそうなんだけどさ...」
小声で話すふたり。
丘六 緋羽夢としては、お茶会に居る3人を敵に回すことはしたくない。寧ろ、出来れば高評価を獲得しておいた方がいいと、彼女の冴え渡る勘が言っていた。
「な、なんなんですか!?本当に!」
「あー、えっと...私達も、そのトキラメクルというか...」
「簡単に言うと!仲間になって、助けて欲しいって訳デスッ!!」
ウィンクしながら左手でサムズアップする沼 三二。
(バカって話進め易くて楽だな)
それが丘六 緋羽夢の率直な感想だった。
「な、仲間?」
「そうなんですよー。ワタシ達の仲間が、今大怪我してて。タブン」
「ケガ!?え?多分ってどういうことなの!?」
流石に、丘六 緋羽夢が説明に入る。
「いや、多分じゃなくて、大怪我してます。この子、音だけ聞いてたから見てないんですよ」
「け、怪我ってどれぐらい?」
「遠目からだから、詳しいのはわかんないんですけど。太ももを撃ち抜かれて」
「撃ち抜かれて!?銃傷!?」
焼酎瓶をかかえてる女性が驚く。
「そうなんです!そこで、お姉さんにお願いしたいんですヨ!」
「な、なんで、私!?」
「だって!ナース服着てるじゃないですか〜。回復職なのわかってますよ〜?」
そこに沼 三二が畳み掛けてきた。
「え?そんな安直な理由なん???」
一方、丘六 緋羽夢は逆に脳内整理が追いつかなくなってきた。
まさか、そんな理由だとは。
「だから言ってるじゃないですか〜。ワタシの安全地帯は、勘と運も良くなるって!アタリですよ!」
「え、えぇ?」
焼酎瓶を抱えた女性はずっと混乱している。
「あ!まずは自己紹介からですね!ワタシは沼 三二です!トキラメクルネームは"俗物"です!で、こっちが構え太刀」
「お、丘六 緋羽夢です?」
流れで自己紹介する丘六 緋羽夢。
「ヒウムさんって名前だったんですねー。お姉さんは?」
「蜃 咲羅です。不知火です」
流れに流され、つい自己紹介してしまった。
「おい待て、知らなかったのか私の名前。だからずっと構え太刀の方で呼んでたのか」
「そんなことは置いといて!さ!行きましょう!怪我人の元へ!」
そう言って、沼 三二は強引に話を進め、蜃 咲羅を二色 美端の元へ連れてきたのであった。




