第63話 過去を思い出す覚悟
目の前にいたエリス先輩の、もう一つの人格は、
「……まぁいいわ」
そう吐き捨てるように言い残し、姿を消した。
静寂が落ちる。
「別に、エリスとは知り合いではなかった。俺たちが出会ったのは、魔王の研究所のような場所だった。俺たちは……アイツらの遊び道具にされたんだ」
メルは淡々と、しかしどこか抑えた声で語り始める。
「二重人格だった俺たちは、人格を引き離され、全く別の二人の自分となった。少し違うが……」
「……どういうことです?」
「エリスと俺は、全く別の研究をされた。俺は身体そのものから、違う自分が生まれた。エリスは、自分と全く同じ自分を作られた」
喉が鳴る。
「そして、ここから出る代わりに、一つの選択肢を課された」
「……選択肢?」
「自分に関する記憶を、周囲から消されるか。自分自身の記憶を消すか。俺は前者を選んだ。……きっと、それが一番辛いと分かっていたからだ」
「そんな……」
「だが、出たあと、自分の体に違和感があった。周囲から記憶を消されるどころか、透明化の能力に制御が効かなくなった。その日から、俺は“いない存在”になった」
言葉が、胸に突き刺さる。
「……」
「だが、校長は俺がいることを分かってくれた。俺を学園に入れてくれた。嬉しかった。でも、それは一瞬だった。周りは、誰一人として俺を見ないのだから」
「……じゃあ、なんで僕は……」
「分からない。だが、お前が俺を見てくれた。だから、お前に気付けた。俺は希望を持てた。……もう一人の自分に会いに行く、自信が」
「そういえば、メルさんの、もう一人の人は……」
「ここにはいないだろう。何故かな、夢で見ることがある。そいつを。その中に――アレン。お前がいた」
「……え?」
「お前は、すでに俺に会っている。姿は、全く異なるがな」
「僕が……もう一人のメルさんに……」
「トラシオン。それが、そいつの名前だ」
「……トラシオン!?」
あの魔王軍幹部――。
あいつが、メルさんのもう一つの人格。
――トラシオンを守れ。
ローダルスのその言葉が、脳裏に蘇る。
「恐らく、お前の友達やクラスメイト、俺のクラスメイトも連れていかれた」
「……え!?」
「場所は分かっている」
「そんな……」
「大丈夫だ。一緒に助けに行くぞ」
「……そこに、トラシオンもいるんですか?」
「いや、いない」
「え? エリス先輩のもう一人がいたのに?」
「あぁ。アイツは、仲間を作ろうとしない」
「……」
「だが、このまま二人で行ったところで、捕えられるだろう」
「先生達も、捕らえられてるんですか?」
「いや……あの人らは、多分、上にいる」
「え?」
「教師達は、生徒達を案内したあと、上の部屋で酔いつぶれている頃だ」
メルは呆れたように肩をすくめた。
「……」
「ちなみに、猶予はどのくらいありますか?」
「分からん。だが、お前を捕らえる為の人質だからな。すぐに殺したりはしないだろう」
「なら……戦ってはくれないですが、アテになる奴がいます」
「おぉ。どこにいる!」
「分かりません。だから、探します」
その瞬間。
「待っていましたよ」
窓の外に、影が揺れる。
「……ずっと見てたのか。ローダルス」
「えぇ。まぁ」
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「おい!!アイネ!サーレ!!レミア!!なんで皆倒れて...!!」
「君も大丈夫なの?」
「エリス先輩...。どうなってるんですか。」
「分からない。取り敢えず、協力して。アレンくんの友達なんでしょ。」
「分かりました。」
「うーん。あの不良っぽいのは僕に任せて。君はエリスさんを。久しぶりに闘えるからさ。邪魔...しないでね。」
「エリス先輩...どうやらアイツ俺を狙ってるみたいです。なんで、先に行ってください。僕が守ります。」
「...。分かった。みんなを頼むね!!」
「任せてください。」
アレン。どこ行っちまったんだよ。




