第53話 火は、炎は嫌いだ。
私は――火が嫌いだ。
幼かった。
私の家は裕福だった。
いわゆる、貴族のような立場だった。
そして、反乱が起きた。
家は燃やされた。
炎に包まれ、崩れていく屋敷。
父は――目の前で殺された。
母は私を抱え、必死に逃げた。
だが、追っ手はすぐそこまで迫っていた。
母は小屋に私を隠し、
そのまま――殺された。
七歳にして、私は両親を失った。
……私が、何をした?
父が何をした?
母が何をした?
殺されるほどの罪だったのか?
分からなかった。
私は子供だったから。
父の言うことは、いつも正しかったから。
これから、私はどうすればいい?
追っ手の足音が遠ざかる。
私は小屋から飛び出し、
そのまま国を出た。
⸻
何日経ったのか分からない。
腹が減った。
ふと、記憶が蘇る。
母の料理。
父と笑い合った日々。
「もう一度……食べたい」
「もう一度……遊びたい」
「もう一度……会いたい」
でも、どれも叶わない。
逃げる途中、
親と手を繋いで笑う、同じ歳くらいの子供を見た。
私だって――したかった。
どこかで聞いた話を思い出す。
父は国民を守るため、
貧しい者に食べ物や金を与えていたらしい。
だが、それを“不平等だ”と言う者もいた。
「やるなら全員に渡せ」
「偽善だ」
「自分の評価を上げたいだけだ」
それでも父はやめなかった。
そして――それが反乱の火種になった。
父は悪いのか?
あんなに優しい父が?
何が分かる。
お前たちに。
全員、いつか――殺してやる。
⸻
「……大丈夫?」
声がした。
「何してるの? ボロボロだよ?」
誰だ。
「待ってて!」
見つかった。
逃げないと。
だが、体は限界だった。
私はそのまま倒れた。
⸻
目を開けると、天井があった。
……どこだ。
まずい。殺される。
体は動かない。
「動かないの!? これ食べて!」
少女がパンを差し出してきた。
何日ぶりの食事か分からない。
危険だと分かっていても、
私はそれを食べた。
「どう? 美味しい?」
言葉が出ない。
気づけば涙が溢れていた。
「……美味しくない。けど……美味しい」
「ええぇ!?」
「……ありがとう」
少女は満面の笑みで言った。
「いいよ!」
扉が開く音。
「ただいまー、ノア」
やばい。誰か来た。
「パパー! おかえり!」
男が部屋へ入ってくる。
「ん? 男の子?」
その男は、私を見て固まった。
「君は……」
殺される。
私は目を閉じた。
「カルマ王の王子……クライン様!?」
息を呑む音。
終わった――そう思った。
だが。
「いつも……ありがとうございます」
え?
「あなたの父上のおかげで、私たちは今こうして生きているのです」
「……父が?」
「この家も、あの方が建ててくださった。
食べ物も、仕事も、守ってくださった」
涙が止まらなかった。
「なぜ王子が、ここに……」
「父と母は……殺されました。反乱で」
男は絶句した。
「そんな……」
そして、私を抱きしめた。
「よく生き延びたね」
温かかった。
「私が守ろう。ここで暮らしなさい」
「……なぜ、助ける」
「当たり前です。
あなたの父がしてくれたことを、私は返したい」
「……」
「いや――あの方のようになりたいのです」
その日。
私は人生で一番、泣いた。




