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RoughJewel ──ラフジュエル──  作者: norn
デート編 シェナ√

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Select4’:待っている


【選択肢】


▶︎待っている



※共通シナリオも含まれています。


 


(確かに彼の言うとおり、私が一緒に行っても足でまといになるだけね……。だったら私は荷物を持って待っていた方がいいのかも)


「分かったわ、待っているわね」


「あぁ、頼む」


 人の往来の邪魔にならないよう、路地に入りシェナを待つ。

 シェナと別れてからしばらくすると、観光客と思われる2人組の男性が声をかけてきた。


「ねぇきみ、少し良いかな?」


 服装を見るに、彼らは貴族だろうか。


「何か?」


「きみも身なりがいいし貴族なんだろう? ボクたちもなんだ!」


「……そう」


 胸を張り主張されたところで、一体何だと言うのか。


「きみ、さっき獣人と一緒にいたよね。そこで相談なんだけど……実はボクたち()愛玩用の獣人奴隷を飼いたいと思っているんだ! あー、この際メスでなくても、きみの連れていたようなオスでも構わないから、適当な獣人を紹介してくれないだろうか!」


「………っ」


 あまりの衝撃に言葉が出なかった。


(この人たちは一体何を言っているの?)


 まるで獣人をペットや家畜のように語る彼らに絶句していると、男たちはさらに続ける。


「ああ! もちろん金は支払うよ。なんならボクたちは亜人の奴隷を紹介することもできる。この条件でどうだろうか!」


 そもそも獣人や亜人の個人取引は違法とされているし、奴隷のような個人の同意を得ない一方的な契約はご法度である。

 だが今はそんな法の話よりも、シェナを侮辱されたことが何より頭にきていた。


シェナ(かれ)は私の友人よ。奴隷なんかじゃないわ」


 悲しいことに、この国にはまだ他種族を差別するような感覚が根付いている。

 彼らは人間という種族がこの世界で一番偉いのだと勘違いしているのだ。

 その誤った感覚を正そうと、ルデンのような影響力のある人たちが力を尽くしてくれている。

 しかし、それでもまだ、このような考え方をする人間の方が多くいるのが現状だった。


「え、友人?」


 私の言葉を聞いた男たちは、次の瞬間盛大に吹き出した。


「「ブッ、ハハハハッ!」」


「きみっ、冗談が上手いね!? 奴隷と友達だなんて!」


 腹を抱えて笑う男たちを、冷ややかな目で見た。


(……たぶん、彼らのような者は相手にしない方がいい。黙ってここを去るのが正解。分かってる、分かっているけれど────)


「私の大切な友人を侮辱したこと、取り消して。取り消したらとっとと目の前から消えて」


「あ、もしかしてあの獣人と友達ごっこの最中だったのかな? へぇ、そんな遊び方もあるのかぁ! だがきみももう少しオトナの遊びを覚えた方がいいんじゃないか? 彼もきみを悦ばせるために買われたんだろうからさ」


「……………………」


 もういっそ彼らを殺してしまえば、その口二度と聞けなくなるだろうというところまで考えを巡らせ、頭を振る。


(流石にこれは極端な考え方ね。冷静にならなくちゃ……私がやったら本当に殺しかねないもの)


 せめてもの救いは、彼がこの場にいないこと。


(こんな言葉の数々、実際に聞いたら誰だって傷付くもの。私はシェナに傷付いてほしくない)


「で、どうなの? 売ってくれるの?」


「…………」


 こいつら……まだ言うのか。


(最初から無視するのが一番だったわ。はぁ……なんで言い返しちゃったのかしら)


「聞いてんの?」


「…………」


(あー、早くどこかへ行ってくれないかしら。私がこの路地を出るのが1番早いのだけれど、せっかく買った食材たちを置いていく訳にはいかないし……)


 一人で全ての荷物を持ち運ぶのは厳しい重さだ。

 これをシェナは一人で抱えていたのだから、やはり申し訳なく思う。

 同行してくれたことに感謝しなければならない。


 そんな事を考えながら男たちの言葉を無視し続けていると、そのことに腹を立てたのか、男の一人があからさまに不機嫌になり態度を変えてきた。


「おい、さっきからその態度は何だ? こっちが下手(したて)に出てやってるからって調子に乗りやがって」


(下手(したて)……? この方々、常に高圧的な態度を取っていたと思うのだけれど一体いつの話をしているのかしら)


 尚も変わらぬ私の態度に、ついに声を荒らげた男が詰め寄ってきた。


「チッ、こいつ!」


 ぐいっと手首を捻り上げられる。


(痛っ……)


 急な動作に少し反応が遅れ、顔を歪めた。


(面倒なことになったわ……。ここで魔法を使ってもいいのだけれど、うっかり殺してしまいそうで────)


「はっ、表情ひとつ変えないなんて、まるで人形だな。なぁ、少し遊んでやろうぜ? 顔は美人だし楽しめるだろ」


「そうだな、おい、声は出すなよ」


「一応聞くけど、貴族相手にそれはまずいんじゃないの? あなたたちも一応貴族なんでしょう?」


 行動も態度も貴族とは程遠い、まるで賊のようだけれど。


「なんだ、怖くなったのか? フン、親父に言えばこんなのすぐ揉み消してくれるんでね」


(うわ……最悪だわ。これだから貴族は嫌い)


「それじゃ、ボクから────」


 男の手が私に伸びてくる。

 さすがの私もこの先を許すつもりはない。

 最悪正当防衛が通ると信じ、魔法を発動させようとしたその時─────。


「ぐっぁ─────」


 私に向かって手を伸ばしていた男が、目の前から消えた。消えた……というか、吹き飛んだ。

 刹那、という表現が的確だろうか。目に見えない速さだった。

 どうしてそんなことが起こったのか考えるより先に、捻り上げられていた手が開放される。


(きたね)ぇ手で触れるな、人間」


「ガハッ」


「シ、シェナ!?」


 シェナは片手で覆うように男の顔を掴んでいる。

 彼の手には血管が浮き出ていて、その力の強さが窺えた。


「テメェら何しようとしてた? テメェらみてぇなクズが汚していい女じゃねぇんだよ」


「ぁ、ぐ、うぁ」


 男は声にもならないようで、ただ(うめ)いている。

 それもそのはずだ、男の顔からミシミシという小さな音が聞こえるほどなのだから。


(まずい! 私が殺るのと彼が殺るのとじゃ話が変わってくる……!)


「シェナ! もういいわ!」


 シェナの背中に抱きつき呼びかける。


「……よくねぇ」


「怒ってくれてありがとう。私は何もされていないから、とりあえず手を離して?」


 シェナは不満そうに、男を壁の方に投げ捨てた。


「……ぐ、ゴホッゴホッ……っこの、ボ、ボクを誰だと思って……ゴホッゴホッ」


「案外元気そうだぞ、コイツ。許すのかよ、こんなクズ……」


「誰が許すと言ったの?」


「……?」


 私は水魔法で男たちの頭上に大きめの水の球を作る。

 私が軽く指を下になぞると、それはバシャンっと勢いよく男たちに落ち、彼らは見事ずぶ濡れになった。


「私、まださっきの事怒っているの。取り消してくれるかしら?」


「ゴホッゴホッ、さ、さっき!?」


 何の事だと騒ぐ彼らにもう1つ水球を落とす。


「あら、もう忘れてしまったの? 私が取り消してとお願いしたアレよ」


 あえて内容を伏せて言う私に、男は一瞬考えを巡らせたが、ちゃんと察してくれたようだった。


「ッチ、なんだよ、あれくらいで!」


 まだ懲りないの?と手をかざし魔法を発動させようとすると、男は慌てて立ち上がった。


「わ、わかったよ、取り消すッ! こ、これで満足か! 親父にいいつけてやる……覚えてろ! おい、行くぞ……っ!」


「ぁぐ、あ、ああ……」


 一番最初に吹き飛ばされた男も、フラフラと余裕がなさそうに立ち上がった。

 捨て台詞を吐き捨てた彼らは、間抜けにも脚を震わせながら逃げていった。


「はぁ……」


(こんな目に合っているのに、全然悪いと思っていないわね。……ああ、彼らの言葉を思い出したらイライラしてきた)


「……」


 振り返ると、少し驚いたような表情を浮かべたシェナと目が合った。


「シェナ、助けてくれてありがとう」


「……いや。それよりあんた、アイツらに〝取り消せ〟って言ってたよな。それって俺に向けられた言葉を、だろ」


 わざわざ内容を伏せたというのに、シェナが気づいていたことに驚いた。


「え……どこから聞いていたの?」


(そういえばやけにタイミングの良い登場だったけれど……)


「男どもがあんたに声をかけるところから」


「さ、最初からじゃない……」


 あの段階で、彼はすでに戻ってきていたようだ。


「あんた、なんで俺のためにあそこまで怒ってくれたんだ……。適当に話合わせた方が早く済むだろーに」


「適当に……話を合わせる?」


 彼がそんなことを言うなんて。

 つい、ムッとしてしまう。


「そんなの、嘘でもできるわけないじゃない! 友人のことを悪く言う彼らの言葉を、一時(いっとき)でも肯定するなんて……死んでも嫌」


「ベリル……」


「それと、貴方のためじゃなくて私の気持ちの問題だから。私が彼らの言葉にイラッとしたの。あーもう! 思い出すだけで腹が立つわ! もう1発水球落としてやればよかった!!」


 ガルルルと唸るような勢いで彼らの去って行った方向を睨んでいると、急に頭をワシャワシャと無遠慮に撫でられた。


「ちょっ、な、何するの!?」


 抗議しようとシェナの方を見ようとすると、彼の手が私の視界を遮る。


「……見んな」


「???」


「あんたが俺のためにそんな顔をしてくれるの、すげぇ嬉しい。ありがとな」


 彼は再び、しかし今度は優しくポンポンと私の頭に手を置いた。


「早く戻らねぇと、あいつらが怒るな」


(はっ、荷物……は濡れてない、よかった……)


「行こうぜ」


 不意に見た彼の表情は、とても柔らかく優しかった。


 この時の表情は、たぶん、一生忘れない。

 私まで、心が暖かくなった。



 ───────────────────

 ※


 買い出しを終えた私たちは、皆が待つ海岸へと急いだ。





シェナ 好感度+30



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