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お助け『魔女』になりまして  作者: ふつうのひと
9/31

09


朝、アラームが鳴ることのない日曜日に心置きなく眠っていた南條麗華の部屋に、一人のメイドが静かに入室した。


プリムで軽く抑えられているだけの金髪は一切の歪み無く、統率を乱すものは一本もいない。


まったく気配を揺らさずに部屋の主に近づくその姿は最早、暗殺者にも見えてしまう。


しかし彼女はメイド。顔に僅かな呆れを漏らしていても、今は立派なメイドなのだ。


ベッドの傍に立った彼女は少しの間を挟んでから、声を発した。


「お嬢様、おはようございます」


意識がわずかに浮上しているタイミングで掛けられたその声に、主は目を開けた。


「んっ、んんー・・・はぇ、ふふっ」


メイドを視界に入れた一瞬の戸惑いの後に昨夜の事を思い出し、お嬢様っぽい振る舞いを繕う南條。

髪が多少乱れていようが、優雅に笑っておけば優雅なお嬢様になれるのだ。


「モーニングティーの準備は出来ておりますが、いかがなさいますか?」

「そうね・・・流石にベッドから出て飲みましょうか。運んで頂戴」

「───かしこまりました。失礼いたします」


何を言ってるんだコイツ、という感情など微塵も表に出すこと無く”間”で表現し、寝間着のお嬢様をお姫様抱っこで持ち上げてテーブルまで運ぶ。


体の大きさ上安定性に欠けるだろうと対落下体勢気味だったが、意外と安定感抜群で心の中で百点満点を与える。


テーブルに着いてからはいよいよ夜通し練習したことの成果発表だ。


アール何とかという茶葉をネットで教わった通りの方法で蒸し、そして、右手を限界まで高く掲げて上空から地上の左手のティーカップに向けて香ばしい茶を降らせた。


もしかしたら出来るかもと明晰夢の中で念じてみたらティーセットが出たので、上手く出来るまでずっと練習したかいがあったのである。

技名は、『貴族の天空落とし』だ。


「おぉ・・・こほん。上達しましたね、トウカ。主として誇らしい気持ちです」

「ありがとうございます、お嬢様」


茶葉の値段以外は完璧な方法で入れられた紅茶は朝の鈍い舌でも明確に分かるほど美味しかった。

天高くから注ぐことでここまで香りが広がるのか!と内心驚嘆する南條である。


朝のティータイムを終えた主は朝食に入り、少し焦げ目が見えなくも無いフレンチトーストをナイフとフォークで頂く。

従者であるトウカはその間に髪を梳かす事になった。


「〜~♪、いたっ!?」

「あっ、すまん」


トウカ痛恨のミス。お嬢様の絡まった髪に櫛を引っ掛けてしまった。それに対してつい素で謝ってしまったことでそれまでの優雅(笑)な空気は霧散した。


「・・・はぁ。貴族ごっこもここまでですね。言ったじゃないですか先輩、髪を梳く時には軽く指で道を作ってからゆっくりとやるんだって」

「・・・いや、なんかどんどん面倒になってきて」

「これくらい出来なくてどうして世界を救えますか!?」

「メイド技能は絶対関係ねーよ!!」



前日の夜に南條は言った。

「明日、私を本物のメイドのように起こしてください」

と。


それに対してトウカは怪訝な表情を返したのだが、南條は諦めなかった。


「せっかくの日曜日、少し特別な一日を過ごしたいじゃないですか!」

「そこから出た言葉がそれか?」

「とりあえず洋風メイドが良いので金髪碧眼ですよ。朝ご飯もそれっぽいもので」

「えぇ・・・」

「早起きキツくないんですよね?これからうちで居候するんですよね?毎日とは言いませんけどたまに可愛い後輩の我が儘を聞くくらいは必要じゃありません?」


そうトウカに詰め寄る南條。

己の欲望に従順ではあったが、最低限の良心は残していた。

やらなければ居候させない、なんて事は言わないのである。


「・・・洋風っぽい朝ご飯ってただのトーストだろ?」

「それだと会社に行く時みたいなんで、フレンチトーストとかでお願いします。紅茶付きで」

「だから買い物籠に蜂蜜と茶葉入れてたのか」

「自炊してたならそれくらいは簡単ですよね?紅茶は、まあ出来る範囲で良いですから。細かいクオリティは一旦置いて、雰囲気重視でお願いします!」

「・・・はぁ、りょーかい」



こうして、ネットの海からこれまで調べたこともない色々な動画を発掘したトウカは、メイド喫茶の店員よりは少しだけ洗練されているかもしれないニワカメイドになったのである。


その容姿も相まって現代社会での価値は非常に高いだろう。

ごっこ遊びが終わりだと告げられた事でさっさと黒髪黒目メイドに戻ったが。


「でも雰囲気は十分だっただろ?」

「そうですね。先輩くらいの子供にお姫様抱っこされて椅子に座らされるのは我ながら恥ずかしかったですけど」

「じゃあ言うなよ」

「いやー、ベッドからお嬢様っぽく出る方法が思いつかなくて・・・」

「箱入りお嬢様でもベッドからは普通に自力で出ると思うけどな」

「まあまあ、先輩も食べましょうよ。結構美味しく出来てますよ、フレンチトースト」

「はぁ。調子が良いお嬢様だよ・・・」


ネットで見つけて初めて作った物としては上出来な料理を食べた後は、身支度をしてからトウカの買い物に出掛けた。


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