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お助け『魔女』になりまして  作者: ふつうのひと
7/31

07


桃園斗也がトウカになり、後輩の南條麗華のもとに転がり込んだ次の日。


彼女の車でトウカの実家に向かって走っていた。


「先輩、本当にその服でよかったんですか?」

「別に問題ないだろ?」

「この寒空の下、長袖とは言えワンピース1枚の女の子っていうのは見てる方が寒いんですけど」

「別に俺自身は寒くないからなぁ」

「その謎の白い靴も不思議ですよね。布にしか見えないのに足を包むと形が崩れなくなるなんて」

「まあ、魔女の上司が与えたものだからな。原理を考えるだけ無駄だろう」


最初は変化してまともな服装で行くという案が強かったのだが、南條の勧めてくる服が軒並み女の子しすぎており、ただの長袖ジャンパーにジーパン姿にしたら人格否定までされる始末。

面倒になったトウカは最初の白いワンピースに白い靴のまま出ることにした。


下着は南條のものを借りている。


「寒かったらすぐに変身するか言ってくださいね?今でさえ私に対する視線が酷そうなんで」

「へーきだって。下から風が入ってきても寒くないんだからこれで問題ないよ」

「・・・それも魔女だからですか?」

「たぶん」


人間から魔女になったトウカは姿形は人間と一緒だが、中身はまったく違う。

例えレントゲンを撮っても人間にしか見えないだろうが、その性能が違うのだ。

今の彼女は-50℃の雪原に裸で立っていてもくしゃみ一つしないし、50℃の炎天下に放り込まれても火傷しなければ汗もかかないように出来る。(精神的に寒いと思ってくしゃみをすることはある)


睡眠に関しても変わっており、眠る事は可能だが明晰夢にするか完全に意識を落とすかを自分で選ぶことが出来、更に寝起きの良さも以前の体からは考えられないほど良い。


前日のお風呂では普通の人間と変わらないなと思ったトウカも、そういった面で人間では無くなったと実感するのだった。


『50m先、左です』


「先輩の実家って千葉でしたっけ」

「千葉と埼玉と東京の狭間みたいな場所」

「県境の混沌みたいですね」

「まあ、実際には東京と千葉の間って言った方が良いかな。少しだけだけど東京の方が近かったし」

「へー。なんでこっちに来たんですか?」

「んー、大学を東京にしたのは、まあ秋葉とかに通ってみたかったから。仕事は・・・特に戻る必要性も感じなかったからかなぁ。電車で1時間くらいで帰れる場所だったし」

「流れってやつですか。それが今ではこんな姿になってしまって・・・ご両親の涙が想像出来ます」

「冗談にならないからヤメロ。たぶん今頃ガチで泣いてるぞ」

「あ、すみません。ちょっと運転に気取られてライン間違えました」

「ま、良いよ。俺自身も親不孝と言うべきか親孝行と言うべきか分かんないし」

「親より先に死ぬのを親不孝と呼びますけど、蘇ることを親孝行と呼ぶかは分かりませんよねぇ」


『間もなく、右折です』


「あ、ちょっとコンビニ寄って」


途中でコンビニに寄って斗也の妹が好きだったというスイーツを買い、千葉の実家に到着した。

1年ぶりの見慣れた実家の姿は、あまり感じた事の無い印象を抱かせた。


「身長が変わると受ける印象も変わるな・・・」

「本当に車表に置いていいんですか?切符切られませんよね?」

「だいじょーぶだって(たぶん)」

「・・・で。どっちがインターフォン鳴らすんですか?」

「まずはそっちが頼む。俺の知り合いだって言えば家の中にくらい入れてもらえるだろう」

「先輩のことは」

「一旦預かってる姪とかで」


妙に気楽な姿勢であるトウカに(何で私の方が緊張してるんですか・・・?)と怪訝な目を向けたくなる南條だったが、さっさと主役交代をするために髪を整えてからインターフォンを押した。


トウカが気楽そうに見えたのは、寝ている間に覚悟を決めたからである。


ピンポーン


「・・・・・・」

『はい、どちら様でしょうか?』

「朝早くに申し訳ございません。こちら桃園斗也さんのご自宅でよろしいでしょうか?」

『・・・はい。どのようなご用事で?』

「桃園先輩と同じ大学に通い、仲良くさせていただいていた者なのですが桃園先輩から預かっていたモノがありお届けに参りました」


トウカと南條はここに着くまで特に打合せをせずに来ている。つまり、南條が喋っていることは全てアドリブであり、預かっていたモノとはトウカの事である。


『兄さんの・・・。お名前をお伺いしても』

「南條麗華です」


名前を告げるとインターフォンが切れる。

そして少し待つと、家の扉が開いた。

そこから出てきた女性は少し目が赤くなっており、トウカはそれを見て申し訳なく思う。


「中へどうぞ」

「ありがとうございます」

「おじゃまします」

「?あの、そちらの子は・・・」

「すみません、この子も関係することでして・・・」

「えっ?」


女性はトウカが桃園斗也からの預かりものに関係すると言われて最悪のパターンを思いつくが、一旦それを棚に上げて二人とも中に入れることにした。

トウカは(あ、こいつさっさと主導権を手放すつもりだな)と後輩の動きを察した。


南條はさっさと茶番を終わらせたかったのである。


「藍子、そちらは・・・」

「うん、兄さんの後輩で、南條さんだって」

「そうか。ようこそ、南條さん」


リビングに入るとそこは暗く、どんよりとした空気で沈んでいた。

母親はテーブルに座って顔を覆っており、父親が何とか空元気で南條を迎え入れる。


休日の朝早くに電話で息子が死んだかもしれないと呼び出され、慌てて行ったらそこには胸を大きく貫かれた息子の死体。

あまりのショックに母親は意識を失い、父親もどうにか立つ事が出来ていたレベルだった。

そこから娘を呼び、事実を告げたのが1時間前の事だった。


「初めまして、南條麗華と申します」

「その、南條さん。息子は・・・」

「はい、存じております。昨夜亡くなられた事も」

「っ!?何故、知っているの!?まだ警察は発表していないって!もしかして何か知っているの!?息子があんな死に方をした理由を!!!!」

「落ち着いて!落ち着いてお母さん!!」


死因が胸を穿たれた事による出血多量だという事以外一切不明の事件。犯人の手がかりは一切無く、何に穿たれればそうなるのかも分からないということで事件なのか事故なのかもはっきりしないと言われていた。

そんな中に事情を知っているかも知れない人物が現れたことに、母親は縋りつくしかなかった。


「南條さん、あなたは何を知っていて」

「では先輩。さっさと明かしてあげましょう」

「・・・もうちょっと明かしやすい空気とか」

「その発言は息子として犯罪ですよ」

「はい」


突然ラフな喋り方になったと思ったら彼女の背中に隠れていた子供を前に出す南條麗華。

何を言っているんだと父親がいぶかしんでいると、突然フランクに話しかけれた。


「父さん、今年はまだ、ビール飲めてないよね?」

「っ!!突然、なに、を」

「母さんに健康診断で怒られてノンアルコールビールに変えてから気に入るやつは見つかった?」

「────────」


まったく違う容姿に被る、昨年始に見た息子の顔。


「ほい、藍子。お前が昔好きだった奴。確かこれで良かっただろ?」

「な、なにを、シュークリーム・・・」

「ここ最近は誕生日ケーキくらいしか買ってないから他のは知らん」

「まさか───」


その適当さに感じる、ショートケーキが好きだって言ってるのに在庫が無かったからと言ってチョコケーキをホールで買ってくる馬鹿な兄の姿。


「・・・まさか、」

「えー、遅ればせながら年始のご挨拶に来ました。あけましておめでとうございます、母さん。色々あった桃園斗也です」

「「斗也!!!!」」「兄さん!!?」


両親がトウカの元に殺到しトウカは潰れる。号泣する父母。それを見ながら涙を流す藍子。

そして、一歩後ろに下がってスマホで感動のシーンを撮影している南條。その目には1条の滴がキラリ。


その動画データは、子供が愛されているのって素敵ですよね♡と後でトウカを弄るために使うつもりでいる。

感動の再会だから許される行為である。


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