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「ただいま~」
「お帰り。お湯沸いてるよ」
「よしっ!今日の献立はなんですか?」
「コンビニのおでん」
「・・・先輩、おでんとご飯一緒に食べる人?」
「え、南條は食べないの?」
「まあ・・・試すだけ試してみます」
帰宅して早々に同居人との食文化の違いに当たった南條だったが、お風呂と食事を用意して貰っている身としてはとりあえず試してみることにした。
その同居人は家主の反応から他のおかずもあった方が良いなと判断して比較的簡単に作れるおかずを作りながらスーツやカバンの清掃を行う。
南條家において分身するメイドは既に気にするものではなくなっていた。
「ふぅ・・・寒い外からの暖かいお風呂直行は最高ですねぇ」
「そうだな。私はもうあんまり感じられないけど」
「北海道とかシベリアくらいまで行けば味わえるんじゃないですか?」
「そのために北海道とかロシアまで行くとか、贅沢というか馬鹿のやることでしょ」
「でも今年は暖冬らしいですから試してみるのもいいと思いますよ?性能実験的な」
「・・・まあ、気が向いて思い出したらな」
「こりゃ忘れたまんまですね〜」
洗面台にて分身桃香に髪を乾かしてもらった南條はダイニングに向かう。
そこには食卓の準備を終えてちょうど座る桃香がいた。
「あれ?おでんだけじゃなかったんですか?豚の生姜焼きもあるなんて」
「まあ、南條がおでんご飯否定派だとは知らなかったから急遽な」
「いや、別に否定はしませんけど・・・。なんというか、おでんっておつまみと言うかおやつ的な別腹という感じで」
「こっちは汁物の一種だと考えてたから良く米と一緒に食べていたんだよ」
その言葉を聞いた南條はふと考えた。
①おでんは基本汁付きである。
②おでんの具は他の汁物に入っている物が多い。
③豚汁は汁物だけど、おでんは汁物じゃない?
おでん=主菜と認識していた所におでん=汁物という概念が加わったことで最後の項目に違和感を覚え、その感覚があるなら汁物として考えても問題ないか?と半信半疑な結論に辿り着く。
「確かに汁物として考えればおでんも有りですね」
「まあ、大抵主菜用意するの面倒だから主菜も兼ねるんだけど」
「それは無いですね」
「だから生姜焼き用意したでしょ?ちなみにコンビニになったのはお前の好きな具が分からなかったから」
「ああ、それは確かに。おでんの話なんてしたことないですもんね」
「ん。で、急だが聞きたいことがある」
「なんですか?」
おでんの軽い話から一転、真面目な顔でご飯を食べ始めた桃香に応じて、南條も少し気を引き締めて大根を食べる。
「バレンタインってどう動けばいい?」
「・・・・・・ああ、3週間後ですもんね。突然何言い出すかと思いましたよ」
「今日、悠美ちゃんの家に遊びに行ったらバレンタイン一緒に頑張ろうねって言われたんだけど、女子のバレンタインの動き方が全然分からない」
「好きな人に渡せばいいんですよ?」
「一口1万kcalに圧縮したチョコやろうか?」
笑顔でとんでもないことを言う桃香を見て本当に何も分かっていないと判断した南條は真面目に答えることにした。
「真面目に答えますと、義理チョコを用意すれば良いんじゃないですか?」
「むぅ、やっぱりか」
「あ、ちゃんと友チョコとか言い方変えてくださいね。ただ義理チョコだとそっけないんで」
「え、そうなの?」
「今の子達が私の中学生の頃と同じ感覚ならそうですね。「友チョコって名前があるのに義理チョコって言うのは、言外にあんたは友達じゃないからっていう宣言?」と受け取る子もいるので」
「それは気にし過ぎでは・・・?」
本当か嘘か、全部まとめて義理チョコだろと思っている桃香にとっては衝撃的な事実に引いてしまう。
「もちろん全員じゃないですよ。でも極稀にいて、でそういう考えの子ほど後に引くので先に対策しておくんです」
「そ、そっか・・・。ちなみに個数は?」
「そりゃクラスの女子全員分ですよ」
「えっ!?そんなに??」
「先輩、クラスの人気者なんでしょ?であれば皆持ち寄りますよ?なんならクラス外の友達である悠美ちゃん達の分も必要ですね」
「ランドセルの中身がチョコで埋まるじゃないか・・・!?」
「んなわけあるかい」
想像の3倍は用意する数が多いと恐れ慄く桃香。
それに対して南條は落ち着かせるように言う。
「まあ、友チョコなんて本命チョコに比べたら小さくてこじんまりしてるのが普通ですから。たぶん梱包が一番面倒で、それ以外はそうでもないですよ?」
「そ、そうなのか?もっとこんな感じのを沢山用意するのかと・・・」
桃香は両手で、卓上カレンダー程度の四角を描く。
「いやいや、大きすぎますよ。1個用意するだけで普通の小学生は破産しちゃいますよ」
「そっか。そっか・・・」
「というか、チョコでいくんですか?個人的にはクッキーの方が良いと思いますが」
「え、そうなの?」
(バレンタインに萎縮しすぎて頭回ってないなこの小学生)
純真無垢な顔で理由を尋ねてくる年上に、南條は呆れる。
「溶けますよ」
「あ、たしかに。でも他に飴とかマシュマロとかあるよな?」
「(それはホワイトデーな気が)マシュマロは私の周りにはいませんでしたね。飴は高校生の時に瓶詰めの可愛い物を貰ったことはありますけど、手作りはあんまり聞かなかったですね」
「なるほど・・・。良く考えたら飴も溶けるもんな」
「あとはやっぱり見栄えでしょう。クッキー5枚と飴玉5個だったら前者の方が量があるように見えますし」
「なるほどなぁ。世の女子達は毎年こんな事考えてるのか・・・?すげぇ・・・」
毎年、貰えるか貰えないかでそわそわするだけだった男子組に比べて、女子組は大変な思いをしていたんだなぁと桃香はかつての同級生達に尊敬の念を送った。
南條はその姿を見ながら思った。
(たぶん大半は友達にはとりあえずクッキー焼いて、模様変えてるだけとかだと思いますけどね。料理部だけは毎年ガチなの作ってたけど、買ったので済ませる子も多かったなー。美味しいし可愛いから全然良かったけど。まあ、先輩が製菓を覚えればケーキとか作ってもらえそうだし黙っとこ)
将来の甘味のための布石として何も言わない南條であった。
「そういえば、その悠美ちゃんの家では何をしたんですか?」
「え?えっと・・・まあ、女子小学生らしいこと」
「ふぅん?何か隠してますね?是非教えてほしいんですが、どんな恥ずかしいことをしたんですか???」
明らかに誤魔化そうとしている態度を見逃す南條ではない。面白そうなネタが潜んでいるとアテを付けたなら攻めるのみである。
「恥ずかしいことなんてしてない!」
「じゃあ言えるじゃないですかー。教えてくださいよー?」
「いや、まあ、お菓子食べたり、なんかアレしたりこんなしたーり的な・・・」
桃香は悠美の家で行ったことがおやつを食べて着替えさせられたことしか無い上に女子小学生がしそうな遊びがまったく思い浮かばなかったのでそう言うしか無かった。
つまり、詰みである。
「なるほど・・・よっっぽど私に言えないことなんですね、分かりました。ご馳走様でした」
「そ、それじゃあ後はこっちで」
「大丈夫だいじょうぶ!まずは私と楽しいゲームをしてから片付けましょう!簡単な推理ゲームですから、30分もあればきっと終わりますから!さぁ、全部正直に言ったほうが楽になれますよ!さぁさぁ、どんな恥ずかしい遊びをしたんですかさせたんですか!?」
「させるってなんだ俺は犯罪者か!!」
「ということは先輩がしたんですね!?となると・・・やっぱり王道はおまま、いや着せ替え!なら写真データがありますよね!?私にも見せて下さい!!」
「俺は何も言ってないしそんなデータ存在しないし何もやってないからー!!」
「口調も戻ってるしその答えが正解なんですよ、スマホ見せろ〜!!」
南條にもみくちゃにされながらも何とかスマホ(に送られてきた写真)を死守した桃香は、南條が企みに気づいているとは気づけないのだった。




