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望月学園初等部では週に一度クラブ活動がある。
4年生から始まる水曜日の授業の一貫なのだが、一部クラブは中等部の部活と連携しており、許可を得た希望者は月曜日と金曜日にもクラブ活動が出来るようになっている。
佐々木はソフトテニスクラブ所属であった。
「えーっとじゃあ、2ゲーム先取の3ゲームマッチ!始め!」
「さあ来なさい!」
「なぜ・・・」
佐々木vs桃香の試合が始まる。
佐々木に引っ張られて中等部のテニス場に連れてこられてそのままテニス勝負になってしまい、そろそろ怒るべきか桃香は考えたが、佐々木の純粋な目を見て「とりあえずテニスまでは付き合ってあげるか」と諦めることにした。
(しかし、ソフトテニスなんてスポッチャくらいしかやったこと無いんだけど。とりあえず打ってみれば分かるかな)
桃香のサーブから始まった試合。
これは佐々木の策略であった。
(初心者にとってサーブは最初の難門。桃園さんが経験者だったら終わりだけど、初心者ならサービスエースで勝てる!)
クラブ活動に積極的に参加して同学年では最強の佐々木。
力やスタミナで負けても、技術で勝れば勝てると考えてソフトテニス勝負を選んだ。
思い付きだったので実際に試合が出来るかは分からなかったが、中等部より初等部の方が早く授業が終わったこともあって許可を得られたのであった。
桃香がボールを空に投げ、打ち抜く。
「フォルト!」
(速い!だけど、やっぱり初心者ね!)
ボールはネットに当たり、落ちた。
柔らかい球なのにネットが揺れるほどの速さを持っていて身構えたが、ネットに当たる点から初心者だと判断する。
(あの球を入れられたら難しいけど、回転を掛けながらは無理なはず。それに初心者ならすぐに諦めて緩い球を打ってくるだろうから、そこを叩けば勝てる!)パン
「ダブルフォルト!15-0」
「っ・・・!」
サーブを2回ミスしたことで佐々木に点数が入るが、喜ぶことは出来なかった。
今のサーブがネットを超えて自信の横を通り過ぎるのに反応出来なかったからだ。
バウンドの位置が規定を超えていたのでミスになったが、そうでなければ点数を取られていたと集中し直す。
そこから2球のサーブが行われたが全てミスになり、30-0と佐々木の優勢が強まった。
「どうやら無理みたいですね・・・それなら次は」
「っ、来る───!?」
だがその優勢をひっくり返すようなサーブが飛んでくる。
それまでよりも大きく空にボールを放った桃香は自分も空に跳び、その体を大きくしならせてサーブを打ったのだ。
「ジャンピングサーブ!?」
審判役を引き受けた中学生は驚き、そのサーブを受けた佐々木も驚愕した。
先程よりも威力の高いボールに反応出来ず、ボールが通り過ぎてから空振りするしか無かった。
「さ、30-15!」
「まさか、そんな方法で入れてくるなんて・・・!」
桃香に技術力は無い。かつてスポッチャで友達から学んだことは、ラケットを短く持ったほうが打ちやすいという基礎的なことだけであり、あとは体力のままにめちゃくちゃに打ちまくっていた。
ソフトテニスの知識も無い。ただ、テニス漫画は読んでいたので、曖昧な理論だけは知っていた。
その中で高身長の有利さというものがある。単純な話、身長が低い人より高い人のほうがサーブを打つ高さ上、フォルトになりづらいというものだ。
最初はどうにか回転を掛けて中に入れようとしたが掛け方が分からなかったので、ジャンプして高さを稼いで叩き込むことにした。
空中での姿勢制御という新しい問題は出るが、これまで何度か空を飛んでいる桃香はそれを感覚的に解決することに成功し、やっとテニスが始まったのだった。
桃香がサーブを成功させる方法を見つけたことで優勢をひっくり返されたと思った佐々木だったが、ジャンピングサーブを失敗すればまだこのゲームを取ることは出来ると考えた。
(あの2回。2回私が打ち返すか、またダブルフォルトしてくれれば1回入れるだけでこのゲームは取れる!だから)
可能性の低い未来に賭け、自分を鼓舞するが、桃香が空中でも綺麗な姿勢を崩さずにサーブを打ち、自分の隣を通り過ぎて行くボールを見てその未来は潰えたと認識した。
「30-30!・・・あの子、天才だわ」
(・・・っ、でも、せめて1点!1年間頑張ってやってきたんだから、1点くらい取ってみせる!)
どうにかサーブを打ち返そうとするが、結局1球も返せずにゲームを奪われる。
「はぁ、はぁ・・・」
(桃園さん、あなたはあんな打ち方をしているのにまったく息が乱れないのね。この差、絶対に聞き出してやるわ!)
片や静、片や動を表すように立ち姿が違う二人。
そのスタミナに嫉妬を覚えながらも、友だちになってその秘訣を聞き出すことを目標に全力を絞り出す。
佐々木のサーブから始まるゲームが始まる。
ごく普通のサーブに対して桃香も普通に打ち返す。
真正面から平凡な速度で迫るボールを見て、佐々木は全力でスマッシュを決めた。
「っやぁ!!!」
「ほっ」
「「!?」」
だがそのスマッシュが決まること無く。
一息でスマッシュに追いついた桃香はまたしても緩い球で返した。
下手に力むとホームランしかねないからであるが、佐々木にそんなことは分からない。
今度こそはと逆方向にスマッシュを打つが、その頃には真ん中に戻っていた桃香にまた拾われ、3度目のスマッシュは外れてアウトになった。
「15-0!──あの子やば・・・」
それから3球。同じことが繰り返される。
佐々木のサーブを返し、左右前後どこに何を打っても打ち返され、一球打つ度に佐々木の体力は明確に減っていくのに、桃香の体力が減っている様子は微塵も見えない。
そして疲れによるコントロールミスでアウトになる。
「げ、ゲームセット!ウォンバイ、桃園桃香!」
審判がそう告げた時、コート上にはラケットを杖にして制服を汚さないようにどうにか立っている佐々木と、少し顔が赤くなった以外試合前と変化が無い桃香がいた。
「ぜんっぜん、変わって、ない・・・」
「君すごいね!今何クラブ?来年良かったら佐々木さんと一緒にソフトテニスクラブ入りなよ!」
「まだクラブについて分かっていないので考えさせていただければ。では佐々木さん、これで勝負は着いたということで、失礼します」
佐々木と審判の先輩に挨拶をしてから桃香はテニスコートを出ていく。
残された佐々木は、圧倒的な敗北感と無力感と絶望感に襲われるのだった。
(私は、彼女の友達には、相応しくない・・・私なんて・・・どうやったら、どうやったら──────)
これが人生で初めての、歪みとなる。




