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お助け『魔女』になりまして  作者: ふつうのひと
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21/36

21「


月曜日。桃香の初登校日。


普通の小学生であれば不安と興奮で睡眠が浅くなり、自然と起きてしまう日。


もちろん桃香にそんな事態は起きなかった。


いつものように起き、南條のお弁当を用意して、南條のスーツと共に自分の制服もアイロン掛けする。

いつも通りのメイドルーティンであった。


ただし、南條は違った。

ピピピッという音が耳に入って桃香はアイロン台から顔を上げる。


「もうそんな時間?いや、アラームを早めたのか」


本来であれば30分後に鳴るはずのアラームが鳴り始め、そう間もなく鳴り止む。

アイロン掛けの終わった制服達を吊るすと、目を擦りながら南條がリビングに出てきた。


「おはようござます・・・」

「わざわざアラーム早めたの?今から朝ご飯用意するから」

「さきにシャワー・・・」

「?、分かった。じゃあご飯用意しておくね」


いつもと違う流れに何かを企んでいるのか?と桃香は考えるが、早起きと企みがまったく結びつかずモヤモヤする。


南條が買ってきたペーパードリップ式の器具でコーヒーを抽出し、いつもの朝食を用意する。

一度だけ朝食のメニューも変えるか?と聞いたことがあったが、朝からそんなに食べられないと断られてからはトーストと目玉焼きとサラダ、そしてリンゴが定石となった。


二人分の準備が終わった頃に南條のシャワーが終わり、朝食を食べる南條の代わりに髪を乾かす。

あまり行儀の良い行為では無いが、何か急いでいる南條に急かされて仕方なく桃香はやっている。


「何をそんなに急いでるの?」

「先輩もシャワー浴びないといけませんからね〜」

「は?」


突然の豆鉄砲に乾かす手が止まる桃香。

何故自分がシャワーを浴びるのか理解出来なかった。


「いや、当たり前でしょ。初日なんだからビシッと決めて行かないと!」

「・・・じゃあ魔法で済ますから、」

「時間あるんだからさっと浴びてきなさーい!」


素早く立ち上がった南條に持ち上げられてお風呂場に放り込まれた桃香は、直後の「髪は私が決めてあげますね〜」という台詞でそれがやりたかったのかと溜息をついた。


「着替え・・・はあいつが用意してくれるか。やれやれ」


変化を解いてパジャマを脱ぎ、浴室に入る。

寝汗という汗もほとんど掻いてないが、それでも湯水を浴びると言う行為は清涼感を与えてくれる。


「下着置いときますね〜」

「あーい」


腰まである髪の毛を洗うだけでそこそこ時間がかかるので、シャンプーと改めて洗顔だけをして外に出る。


軽く髪の水分を取り、体を拭いて用意された下着を手に取って、リビングにカチコミを掛けた。


「おまえーーー!!!」

「下着を持った裸の少女が怒鳴り詰める姿は、珍妙であった」

「感想述べてんじゃねぇ!なんだこの下着!こんなの無かったろ!!!」


今の桃香の手に握られている下着は白いフリルで飾られた絹製の物であるが、元々彼女が持っていたのは綿製の、言ってしまえば子供用として販売されているものであった。

実家で服を買いに行った際に、こんな物が籠に入っていた記憶は全く無い。


「いやー、この前百貨店に行った時にちょっとササッと。サイズは合ってるはずですよ?」

「そういう問題じゃねぇ!子供は穿かないだろ!こんなの!絶対に!!」

「先輩、わかってください。これは私からの親切心なんです」

「アァ!?」


何とち狂った事を言ってやがるという怒りを籠めて、その体になって初めてする顔で表現する。流石の美少女ぶりも台無しな顔だが、その反応を予想していた南條は冷静に受け流した。


「先輩は子供ですか?」

「体は小学生ですが?」

「でも心は大人な訳です。でも、今の先輩が大人な格好や行為をすれば、注意されたり補導されたりするでしょう」

「それとこれが?」

「そこで私は考えました!子供の体である先輩が、それでも大人であるというアイデンティティを失くさない方法は、見えない所を大人にすればいいのだと!」

「あほくさ」


住んでる世界が違うと判断した桃香は馬鹿を放置して自分の部屋のタンスに向かった。

そして再び南條に怒鳴り込んだ。ちなみにここまでずっと裸である。


「下着どこやったぁー!!!??」

「先輩が入っている間に全部すり替えました」


タンスの中に入っていたのは全て先程の下着と同じ種類であった。


「お前だから俺を風呂に入らせたな!?」

「大丈夫、捨ててはいません」

「当たり前じゃボケェ!!」


怒髪天な桃香は既に演技を捨てている。そんな状態の桃香に対してそれでも冷静に南條は説得を続ける。


「落ち着いて聴いてください?これは本当に先輩のためなんです。私の下心なんて2割くらいしか無いんです」

「2割あれば十二分過多だとは思わんかね?うん?」

「残りの8割を聞いて判断するのが、冷静な大人ですよ?元26歳社会人の先輩?」

「・・・・・・くだらない8割だったら今日から一週間、関節が痛む呪いを掛ける」


都合良く持ち出された生前であっても言われてしまうと無視出来ない桃香は、一旦怒りを抑えて論理的判断に切り替えた。

こうしている間にも髪の毛は自然乾燥を続けている。


「先輩、学校でのポジション考えてます?」

「ポジション?普通の生徒だろ」

「いえ、女子間でのポジションです」

「・・・それも普通でいいだろ。なんならボッチでも良い」


社会の波に4年も揉まれていると、多少のボッチでもまったく困らなくなっている。桃香はそう考えていた。


「絶対に無理です。諦めて下さい」

「その心は?」

「容姿Aランク、運動Aランク、勉強Aランク、その他諸々も調べて学べばどうにかなる。そんな人間が普通の女子ポジに入れるわけが無い」


給仕の仕事をした事も無いのにすっかりメイドとして振る舞いが板に付き、ろくに剣道もやった事が無いのに剣を使って戦えるようになっている。

勿論最上級の出来ではないが、万能と言っていい桃香が目立たないというのは不可能なのだ。


「それは・・・加減すれば良いだけだろ?」

「だとしても容姿だけで、むしろ一番分かりやすい容姿で目立ちます。そしてそれはきっと嫉妬を生みます。それこそイジメも」

「・・・・・・」

「しかしその嫉妬は先輩を貶める事が出来る場合に生まれる物です。周りとの圧倒的な差を見せつければ、よっぽどヤバイ子じゃなければ諦めます。」

「ヤバイ子は?」

「先輩の好きにどうぞ。例え上履きに画鋲を仕込まれても先輩なら問題ないでしょ?」


とんでもないことをサラッと言う南條だが、事実である。


「・・・それでこの下着は?」

「男子は知りませんが、女子は下着でランク付けをすることがあります。というか、大人っぽい下着を同級生が付けてると評価が変わります」

(・・・ブリーフから卒業したくなる的な奴か?)

「似合わなければ馬鹿にされますが、先輩なら問題ないでしょう。胸もBありますし。つまり、先輩は高嶺の花としてクラスに君臨するんです」

「・・・本当にそれでいいのか?」


流石に理解が及ばず、是非を問う桃香。


「デメリットとして、高嶺の花として相応しく無い振る舞いをすると都落ちします」

「・・・無理じゃん?」

「まあ、この場合の相応しく無いってのは、乱暴な一面とかなので、先輩が先輩らしく振る舞っていれば特に問題ないと思いますよ」

「そうか・・・?」


南條が考えているプランでは、まず高嶺の花として第一印象を与えつつ、面倒見の良い桃香の振る舞いで徐々に身近になっていく、話せる高嶺の花ポジに収まることが最優となっている。


心の中では本当に桃香が子供達の中に馴染むことは出来ないと思っているのだ。価値観の違い、能力の違い、人生へのスタンスの違い。

であれば、波を立てずに双方が交流出来るポジションに就かせるのが一番ということで、最初のうちは徹底的にアゲて行く事に決めた。


南條の話を聞いて、確かに論理的には8割の理由は大事だと思った桃香だが、それでもどこか了承しづらいものがあった。それに対して南條がダメ押しをする。


「あと、着て貰わないとちょっの悲しいです。それ高かったので」

「え、いくら?」

「4000円強」


桃香にイカヅチ走る。


「4、よんせん・・・?この一セットで・・・?」

「ええ。以前買った先輩の下着の何倍ですかね?少なくともシルクなんだからそれくらいはしますよ。それでもブランド代とかはほぼ無いと思いますけど」

「・・・学校だけ、だよな?」


先程タンスを見た時の記憶から10セットくらいはあったと思い出す桃香は、着けなければ約5万円が溝に捨てられると計算して、折れた。

例え10億円を手に入れ、すごい戦闘力を身に付けても金銭感覚は庶民のままなのである。


「学校だけで良いと思います。お友達の家にお泊りに行く時とかは必要かもしれませんけど」

「はぁ・・・分かった。納得した。だから着てやる。着てやるけど!次からはしっかり報告連絡相談をするように!報連相は互いにしっかりして意味があるんだからな!」

「先輩もちょくちょく大事なこと言い忘れてる気がしますけど了解です。しかし、もう髪半分くらい乾いちゃいましたね。浴び直します?なんならずっと裸ですよ」

「誰のせいだ。別にいいよ、そんな時間無いし魔法で済ませるから。『入浴』」


桃香がお風呂に入っている間に下着の入れ替えをしたかった南條は特に止めること無く、一瞬でお風呂から出た後のようなホカホカ状態になった桃香に下着を着けさせて、髪を乾燥させた。

勿論その間に桃香は冷めた朝食を平らげている。


そのままクラウンハーフアップに編み上げ、南條自身の髪型も適当に仕上げ、互いに制服に腕を通して準備が完了した。


「びゅーてぃふぉー・・・」

「撮りすぎ」

「先輩のお母様にも頼まれてますので」


南條に360°激写されながら時計を見ると、先程の喧嘩?の影響でかなり余裕が無くなっているのに気づき、南條の尻を叩いて急いで荷物の準備をさせる。


いつものようにお茶を挟むこと無く、二人で家を飛び出るのであった。

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