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10.5話 『冒険者ギルドにて』


 時は、ケンたちがラウル町を出発した直後まで遡る。その時の冒険者ギルド内での話である。


「ふぁ~。今日はいい天気だにゃ」


 大きな欠伸をして、黒と茶色の毛が入り混じった三毛猫の獣人、ミーシャは窓の外を眺める。猫としては日向ぼっこがしたくなるくらい、外は雲一つないほど晴れ渡っている。


 ミーシャは今、一階の冒険者ギルドの長の部屋、つまりはギルド長室へと向かっていた。

 ケンの冒険者ライセンスに不備があったので、その訂正を行うのである。


「ギルド長いるのかにゃ?」


 ギルド長室の前までやって来たミーシャは、扉を三回ノックした。しばらくして、中から返事が聞こえてくる。


「失礼しますにゃ」


 扉を開け、中に入る。本独特の薫りが、ミーシャの鼻腔をくすぐる。心が安らぐような、どこか懐かしい薫り。


「どうしたのかな?」


 いくつもの本棚に囲まれたこの部屋の奥を見ると、一人のドワーフが座っていた。何か書いていたのだろうか。横には羽ペンと裏返された手紙がある。


「すみませんにゃ。お忙しいところ……実は、さっき新たに発行した冒険者ライセンスに不備があったんですにゃ」


「不備ですか……それはいけない。今、その紙は持っているのかな?」


「はい。これですにゃ」


 ミーシャは、ドワーフに持っていた紙を渡す。ケンのステータスが書かれた冒険者ライセンスの写しだ。

 ドワーフは眼鏡を外し、ざっと書類に目を通す。


「本当ですね。加護の欄が空白だ。少し、調べてみよう。ミーシャ、そこに座っていなさい」


「はい、ですにゃ」


 ドワーフは机の前のソファを目で指し、ミーシャは言われた通りにそこに座る。彼は別室に繋がるドアを開き、中へ入っていく。身長がかなり低いので、ドアも若干小さい。


 静けさが辺りを包む。


 しばらくすると、部屋からドワーフが出てきた。首を振って再び席に座る。


「駄目だ。原因がわからない。彼の魔力から、魔石を使って直そうとしたのですが、どうやら私の力ではどうにもならないらしい」


「そうですか……どうしようかにゃ」


 彼は眼鏡をかけなおし、組んだ手に顎を乗せて考え込む。


「鑑定士のところには行ったのかな?」


「はい、行きましたにゃ。ですが、どうやら夕刻までは戻らないようです」


 鑑定士というのは、その名の通り、冒険者や魔物のステータスを鑑定する役職のことだ。ギルド内の三階に部屋が設けられている。


「そうでしたか。しかし、今は彼に頼るほかない。帰りを待ちましょうか」


「わかりましたにゃ。では彼が帰ってき次第、また連絡いたしますにゃ」


 ミーシャはソファから立ち上がり、出口へと向かう。


「私は仕事に戻りますにゃ。失礼しましたにゃ」


 そして、綺麗なお辞儀でギルド長室を後にした。



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