表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

11話 『青の敵』


 魔法の授業を終え、レック、ライアンと合流したケンは、クラルド平原を出てから隊列を組み、林道を歩いていた。

 ちなみに、クラルド平原で休憩中、ずっとその姿が見えなかったライアンはというと、巨大な岩の上で座禅を組んでいた。瞑想をしていたようだ。

 そのことに対し、レックはやっぱりここかと言っていたので、おそらくは習慣なのだろう。メルとレックはそこまで思っていないみたいだが、やはり掴みどころのない、よくわからない人だなというのがケンの変わらぬ印象である。

 彼は今もケンの前をどしどし歩いている。


「そうだ。ねえねえ、聞いてよ。レック」


「どした?」


 艶やかな青髪の魔法使いが、長身の青年――レックに話しかける。淡青色の視線と深青色の視線が交錯する。


「さっきさ、ケン君がファイヤーボール、一発で唱えたって話したじゃない?」


「あー、してたな」


 レックたちと合流した直後の話だ。

 メルは、意気揚々とケンのことを話していたのだ。照れくさい気もしたが、レックは心底驚いていたので、そのことがちょっとだけ誇らしい。

 ケンは二人の会話を小耳に、鼻をさすって顔を伏せる。


「うん。それでね、レック。聞いてほしいことがあるんだけど……」


 含みのある言い方だ。メルはレックに耳打ちし、二人して笑みを浮かべる。

何を言ったのだろうか。近くにいるのに聞こえそうで聞こえない。


「まぁ、チャンスがあれば、それもいいかもな」


「何の話ですか?」


「ん?何ってそりゃ」


 レックは少し考え込むような仕草をする。じれったいが我慢して返事を待つ


「秘密だ」


「またそれですか」


 どんな内容なのか気になる。しかし、二人とも教えてはくれないだろうし、どうせくだらないことでも考えているのだろうと、ケンはため息をついて諦める。


 楽しそうに後ろを向きながらメルと会話するレックと、相変わらず無口を貫くライアン。そして初心者のケン。

 よく考えたらこの集団、結構ばらばらだなと、ケンは少々先行きが不安になってきた。




――しかし、そのばらつきは何もないときに限った話だった。


「静かに」


 雑木林の陰から、音がした。瞬時、いやその音が鳴るより前に、彼らは戦闘態勢に入る。

 先頭のレックとライアンはいつの間にか武器を構えており、先ほどの柔らかな雰囲気が一転、硬い沈黙へと変わった。


「えっ、敵?」


 ケンも慌てて腰の鞘にさしていた短剣を抜き取り、敵襲に備える。と言っても、まだ事態を深く呑み込めていない彼の姿勢は、ただ刃を前に突き出すだけのものだった。


「しっ、来る」


 草むらの音が大きくなっていく。その音のする方向をじっと見つめる。

 もう敵はすぐそばだと構えるや否や、陰からきらりと光る怪しげな視線を感じ、背筋が凍る。


 敵が見えないとは恐ろしいものだ。変に想像力だけが先立ってしまう。

 正直このまま通り過ぎてしまえば、息をついて安心できるのだが、そうはいかなかった。


 魔物はその姿を現した。


「ひっ」


「なーんだ」


 短く切れた悲鳴と呆れるような笑い声が入り混じる。恐怖で顔を背けていたケンはその意味が分からない。


「あれ?」


 心なしか空気が軽くなったので、閉じた目をゆっくりと開け、恐る恐るその魔物の姿へと視線を移す。

すると、そこには青色の丸い物体がぽよんぽよんと飛び跳ねていた。


「ん?これは……」


 跳ねるたびにプルプルと震えるゼリー状の体。目や鼻はなく、これといった特徴と言えば、頭が少し尖っているくらいだろうか。子犬サイズしかなく、魔物と言っても怖いというよりむしろ可愛らしさすら感じる。


 誰もが知っている、魔物の定番中の定番。その名も……


「スライム?」


「そうだな。スライムだな」


「そうだね~。スライムだね~」


 ケンはいまだに飛び跳ねている青色の物体を見つめる。こんな小さな魔物相手に怯えていたのが恥ずかしい。

 しかし、たかがスライム一匹。こんなのレックたちにかかればお手の物だろうと、いつも通り、すぐさま傍観者モードに突入する。


「ね~。レック」


「おう。そうだな」


 何やら、レックとメルがこちらを見ている。

 いつになったら、戦闘が始まるのだろう。じろじろ見ているばかりで一向に動こうとしない。

 スライムも疲れてきたのか、飛び跳ねるのを止めている。


「あ、あの。お二方?何をされてるんでしょうか?」


 痺れを切らしたケンが、なぜ戦わないのかを問う。すると、ケンを見つめたまま、メルはニコッと笑った。


「ねー。ケン君」


「はい」


「次、君が戦ってよ」


「えっ」


 完全に傍観者面をしていた人に対する急なフリ。誰もが経験したことがあるだろうが、これをされると狼狽えるのも無理はない。


「えっと、僕がですか?」


 突き放されたようなセリフに、戸惑いを隠せないケンは再度確認をする。しかし、彼女は武器も構えずに、手を後ろに回して頷くだけだった。


「そうだ。今回はお前が戦ってみろ。ずっと戦いたいって思ってただろ?」


 レックはケンの肩をポンと叩き、後ろへ下がっていく。

 確かにかっこよく戦ってみたいとは思っていた。しかし、心の準備というものはいつでも必要なもので、こんな急に言われても対応に困る。


「でも、僕、戦ったことないですし……」


「何言ってる。戦ったことがないから、戦うんだろうが。これからダンジョンに入るんだ。急に敵が出てきたときに、備えられてなくてどうするよ」


 確かにそうだ。敵が出てきても戦えないのではいる意味がない。それに、スライムが現れるときもケンだけが、態勢を取れていなかった。こんな調子では、いつまで経っても傍観者のままだ。


「今は俺たちがついてるんだ。まぁそんなに畏まらず、安心して戦ってみろよ」


 いつも彼らがいるとは限らない。敵はいつ出てきてもおかしくない。心の準備などできていなくて当然ーー否、常に準備をしていなければならないのだ。

 ケンは自分が甘えていたことに気づく。


「そう……ですよね」


「そうだよ!ケン君、頑張って!」


 多分、こうなったのは彼女の仕業なのだろうが、それは置いておく。今は素直に応援を受け取り、覚悟を決める。


「わかりました。僕、やってみます」


「おう!その意気だ!」


 レックは親指を立て、エールを送る。それを背に、ケンは目の前の青色のモンスターと向き合う。

 風も音でさえも、両者の間を妨げるものは何もない。ライアンもいつの間にか後ろに下がっている。


(そういえば)


 スライムから目を離すことなく、短剣を構えなおす。スライムはひっきりなしにプルプルしている。


(このスライム、ずっと攻撃してこなかったな。なんでだろ?)


 攻撃を仕掛けてくる隙はあった。しかし、飛び跳ねたり、じっと動かなかったりと全くその素振りを見せなかったことに、疑念が生じる。

 こちらから仕掛けないと攻撃しないのか、敵と判別できていなかったのか、ただの気まぐれだったのか。それとも、レックたちが強者だとわかったから迂闊に動けなかったのか。

 魔物のことは詳しくないので、理由はわからない。


(ともかく)


 それより今は戦うことに集中すべきだ。

どの道、攻撃をしてこなかったのは好都合であるし、レックたちも付いている。しかも、相手はスライム一匹。

 これほど好条件な勝負はそうそうないだろう。


「恨みはないけど」


 これは、勝負だ。容赦はしない。

 スライムは飛び跳ね、戦闘態勢に入る。


「いくよ!」


 力いっぱいの宣言を皮切りに、両者の戦いが始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ