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悪役女王の足跡  作者: 綴月 結
第一章 悪役女王の目覚め
32/32

32.俺様騎士団長の願い

 エイミーと並んで夕日に向かって歩いていく。眩しい夕日に目を細めるふりをしながら、隣を楽しそうに歩いているエイミーの方を盗み見る。


 俺ははじめからずっと、エイミーのことが気になっていたんだ。


 俺が怯えることしかできなかった子爵に、俺より小さい体で挑んでいったこと、生粋のお嬢様なのかと思いきや変わり者すぎる奴だったこと、魔法が信じられないくらい使えること、俺を探しに来てくれたこと、そして、俺を信じてくれたこと⋯⋯。


 こいつの、エイミーのことを、ずっと、知りたいと思っていた。でも、知れば知るほど、俺との距離が離れていきそうで怖かった。それでも、隣に並びたくて、怖くても知りたくなってしまう存在だった。


 俺は、この気持ちの名前が、ずっとずっとわからなかった。いや、わかってしまうことから逃げていたのかもしれない。こいつと俺は、あまりにも釣り合わないって、わかっているから。

 でも、今日、どうしようもないくらい、悟ってしまったんだ。子爵と戦いながら思ったのは、あいつのことを守りたいというその一心だけ。あいつに俺のこと、信じてるって言われて、溢れ出す気持ちを顔に出さずにはいられなかった。


 俺は、俺に生きる場所をくれた、生きる楽しさを教えてくれた、あいつのことが⋯⋯。


 その気持ちが口からこぼれ落ちそうになった時、隣を歩いていたエイミーが突然夕日に向かって走りはじめた。

 突然すぎてびっくりしたけどこいつのことだ、ただ夕日が綺麗だから近づきたくなって、とか、意味がわからないことを言うんだろう。


 なんてことはない距離だったけど、俺から遠ざかっていくエイミーの背中を見て、これが俺たちの距離だ、俺は今あいつの背中しか、見えていないんだと、唐突に、思ってしまった。


 これ以上離れたくない、そう、強く、思った。


「待って!!」


 エイミーが走るのをやめた。今ここでエイミーが走るのを止めたところで、俺とエイミーの距離が縮まるわけじゃないことはわかってる。わかっているのに、気づいたら呼び止めてしまっていた。


 何か話さないといけないと思いながらも、焦れば焦るほど何も出てこなくなる。

 結局俺が思いついたのは、アホみたいな質問だけだった。


「どうしてお前はいつも、人のためになんでもやるんだよ。お前にいいことなんて、一つもないときだってあるのに」


 口にしてわかったが、これはきっと、俺の中でずっとくすぶってた疑問なんだろう。

 エイミーは人のために尽くしすぎるのは知っていたけれど、その理由まではわからずにいたんだ。これがわかればきっと、あいつとの距離が一歩、いや、やっぱ半歩くらいかな、縮まるような気がした。


 少し考えるようなしぐさをした後、エイミーはくるっと俺の方を振り返った。彼女の髪とスカートが、ふわりと踊った。

 夕日を背にして立つエイミーの顔は逆光で見えないはずなのに、俺の瞳には、その表情が、はっきりと、映ってしまったんだ。


「目の前に困ってる人がいる、助けを求めてる人がいる。私にはその人たちを助ける力がある。ただ、それだけだよ」


 柔らかに微笑みながらそう告げた彼女は、その背に背負う夕日よりも、何よりも、眩しかった。


 子爵と戦ってるとき、俺は、エイミーに必要とされなくたっていいと思ったが、それは撤回だ。やっぱり俺は、他の誰でもない、エイミーに、必要とされたい。きっとこれからも何食わぬ顔で人のために動く彼女から必要とされることこそが、俺が求めていたことだと思うから。


 だから、エイミー、待ってろよ。俺はぜってーにお前に追いついて、隣に堂々と立てる男になるよ。そのときには、俺の気持ちを伝えさせてもらうから。

 俺はにやりと笑って、叫んだ。


「屋敷までお前が鬼の鬼ごっこな!! 勝った方が負けた方の分のデザートをもらうってことで!!! よーい、ドン!!!」


 エイミーが「なんでいきなり!! あんたのデザートよこせーー!!」とか言いながら追いかけてくる。当たり前のように追いかけてきてくれるエイミーが、とても愛おしかった。


 エイミー、明日からは俺が全速力でお前のこと追いかけるからさ、今は、今だけは、俺のこと、全速力で追いかけてくれないか。


 こんなどうしようもない願いを飲み込んで、俺は、俺の帰る場所へと、駆けていった。


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