20.俺様騎士団長の苦悩
あの女の子、エイミーに気に入られようと決めたはいいのだけど、エイミーはそんな一筋縄でいくような人ではなかった。はじめて会ったときはあんなに凛として見えたのに、エイミーは全くそんな人じゃなかった。いろいろと変なのだ。
まず驚いたのは、話し方。貴族の令嬢はみな、ランドルフ家にいた人達のように丁寧な口調で話しかけられる方が好きなのだと思っていた。
なのに、エイミーはいきなり素の自分の話し方を出したときにも驚かなかったし、何より自分から丁寧じゃない話し方をするよう提案してきた。それまでの彼女からは想像できないような話し方をいきなりはじめたからすごく驚いた。
エイミーが普通じゃないのはそれだけじゃない。身体能力、頭の切れのよさ、そして何より、魔法⋯⋯。
じゃんけん、という意味のわからないものの説明をされたときも驚いたけど、何より驚いたのはそのあとの鬼ごっこというもの。
俺が追いかける方だったんだけど、ずっと屋敷にこもっていた女の子に、スラム育ちの俺が追いつけないなんてこれっぽっちも思っていなかったんだ。それなのに、エイミーははじめて走ったとは思えないほど機敏に動き、さらに魔法で障害物を出すなどいろいろなことをしてきて全く追いつけず、最初は手加減してあげようと思っていたのに、気づけば本気を出してしまっていた。そのあとミシェルさんに怒られたんだけど⋯⋯。
しょっぱなから彼女に好かれる方法を間違えた俺は、よくわからないエイミーに好かれる方法を探すために、とりあえずエイミーと常に行動をともにしようとしていた。
眠たい勉強にもついていったし、剣術の練習にも参加した。
でも、彼女の魔法の授業にだけはどうしてもついていけなかった。あれを一緒にやっていたら、いつかぜってー俺が死ぬ。
初回の授業で俺は脱落したけど、そのあとも授業の見学はしていたのだが、エイミーはいつも凄まじい。これは神の諸行なのではと思ってしまうほどだ。
この間なんか自分で作ったゴーレムを自分で倒すって授業をやってたけど、ミシェルさんが「お嬢様、ほんの少し、ほんの少しだけ魔力を使えばいいですからね」と言っていたにも関わらず、エイミーは指先をほんの少し振るだけで二階建てのオートモンド家を三、四個重ねたくらいの高さがあるゴーレムをつくりあげた。
ミシェルさんに怒られてすぐに壊そうとして、水魔法を使い、火魔法を使い、植物魔法を使い、光魔法を使い、風魔法を使い…。最終的には雷魔法でドカーンと雷を落とした衝撃で破壊していた。こいつには苦手な属性がないのではないか、というか、ないんだってことがわかってしまった。どれも凄まじい魔法だった。恐ろしい⋯⋯。
雷による死傷者はでなかったけど、半径二十キロメートル以内にいた人が感電したらしい。俺も漏れずに感電した。マジで痛かった⋯⋯。
勉強にはずっとついていっていたけど、一度もちゃんと最初から最後まで起きていられたことがない。この間の授業で俺が聞いてたのは、なんかが起こって知能がある魔物だけがどっかに移動したってことと、魔物の穴があいてるってことだけ。
え?長い授業の中でこれだけしか聞いてないのか、だって?この間の授業は今までで一番よく聞けた方なんだぞ!?意識が途中で覚醒したから二つも聞けたんだぜ!すごいだろ!
と言ってはみるが、エイミーは今まで一度も授業中に寝たことがない。いつも目が覚めるとエイミーの様子をちらっとみるのだけど、つまらない話を興味津々といった様子で聞いてる。睡眠時間も同じにしているはずなのに、どうして起きていられるのか不思議でしょうがない。
こうしてエイミーについていったけど、エイミーのことが少し苦手に思うようになった。彼女はいつも「テオは、何したい?」って、何事もないように聞いてくるから。
俺はどう答えればいいのかわからなくなって、いつもエイミーが好きなのでいいよって言うんだけど、エイミーはそのとき決まって困った顔をする。
俺はそんなこと今まで誰からも言われたことがなくて、どうすればいいのかわからなくて、嫌われたくなくて、そう言うのに、エイミーの顔でこれは正解じゃないって思い知らされる。どう言うのが正解なのか教えてくれればいいのに、いつも彼女は困った顔のまま、「そっか」としか言わない。今まで俺が出会った人とは違うエイミーが、少し苦手だった。
エイミーは不思議な人だ。絶対に普通の人じゃない。なのに。オートモンド男爵家の誰もが、彼女を大事にし、愛していた。誰もが彼女が笑えば喜び、泣けば悲しみ、困っていたら全力で手を差しのべる。本当に、本当に、エイミーが羨ましい。俺は両親からも、組織の奴らからも、大事にされたことなんてないのに。
誰もが彼女を必要としていた。屋敷中の使用人だって、彼女のためにできることを探し、仕事を取り合っていた。ミシェルさんだって、いつも叱られて慌てる彼女を見つめる瞳に、暖かい色がしっかりと浮かんでいる。男爵夫妻は目に見えるところでも彼女を溺愛しているけど、見えないところでも彼女のためにいろいろなことを考えては実行に移していた。
鈍感な彼女は、きっとそんなこと、一つも知らないのだろう。それを、当たり前のこととして受け止めているのだろう。そんな彼女が羨ましかった。何もしていないのに、誰からも好かれ、必要とされる彼女が、嫌いだ。
ある日、いつものように突然俺の前から消えたエイミーを探し当てて、隠れ鬼ごっこをしていた。最近エイミーはなぜか身体強化にこだわっているので、鬼ごっこ中に魔法は使わなくなった。俺としては命の危険にさらされないから嬉しいんだけど。いつもよりだいぶボンヤリしていたエイミーをさっさと捕まえた後、俺はカーテンの隙間に隠れた。
なかなかエイミーがみつけてくれなくて、暇だ。今日はなんだかボンヤリしてたから、きっとみつかるまでに時間がかかんだろーな。
エイミーのことは嫌いだと思うけど、あいつにみつかった瞬間は好きだ。俺のことをみつけたとき、あいつは本当にうれしそうな顔をするから。なんだか、俺は隠れてた宝物だったんじゃないかって、一瞬でも思えるんだ。
そんなどうでもいいことを考えながらカーテンの陰にあったでっぱりを弄んでいたら、いきなり壁がなくなって、真っ暗闇の中に放り込まれた。
何が起きたのかと一瞬焦ったけど、どうやらここは、組織のアジトにもよくあった、隠し部屋の中だとわかった。どうしてこんな平和そうな家の中に、組織のアジトと同じものがあるんだろう。
と、その時、突然床がきらめき始めた。その光は何かしらの模様を描き始めた。間違いない、これは魔法陣だ。逃げたいけど、出口がどこにあるかわからない。なすすべもないまま、あっという間に光が強くなっていく。
突然、俺が入ってきたところから誰かが焦った様子で飛び込んできた。その人の顔は、光が強すぎて全く見えなかった。助けて。そういう前に魔法陣が発動し、俺は光に包まれた。




