第540話 怪神のお願いを叶えよう
妖精郷のことも確認が終わったので、お次は砂浜の方へと戻っていく。
するとニーナと竜王種の幼竜ヴィータが近くにやって来た。どうやら海で蒼太と一緒に遊んでいたらしい。
蒼太は海でまだお食事中兼、周辺警戒中。最近はヴィータという子供を間に挟む事でニーナとの距離が縮まってきているようで、ちょっとご機嫌らしい。
近寄ってきた2体の頭を撫でてかまいつつ、魔王カバの死骸を出来るだけ綺麗に復元し収納、からの複製で魔卵に必要な数だけ脳と心臓を用意した。
「これで魔王カバの魔卵が手に入るな」
「んで、怪神さんからご褒美をもらうと」
「そう言うこったな」
ニーナとヴィータにはとりあえず下がっていて貰い、竜郎は普通に《魔卵錬成》を発動して魔王カバの魔卵を手に入れた。
「等級は6.9か。かなり高いな。さすが怪神のお気に入り」
「今回は何も手を加えずに孵化させるんだよね」
「ああ、それが怪神との約束だからな」
だがスキル構成などはいじっていいそうなので、いろいろと便利そうなスキルを入れていく。
縮小系スキルを最初にねじ込んでおけば、大きくても場所を選ばずに戦えるようになるよな、と探していくと《肉体強化圧縮》というスキルを発見した。
これはダンジョンで出会ったフォルネーシスと呼ばれるパーティの巨人種の男ミロウシュが持っていたスキルで、肉体を縮ませるのが難しい代わりに小さくなるほどに自身が強化されていくと言う強力なスキル。
「これなんか良さそうだな。入れておこう」
「あの何でも食べちゃうスキルとかは最初から覚えられるの?」
「あそこまで理不尽なスキルはないな。魔王種化した後のスキルっぽい」
「そっか。便利そうだったのにないんだぁ」
しかし肉体強化系のスキルは多数揃っていたので、あの魔王カバ同様に全体的に優れたオールラウンダーになれそうだった。
そうして目ぼしいスキルを与えていき、初期ステータスも強化すれば後は孵化させるだけである。
今回はただ魔力を与えて孵化させるだけでいいので何という事も無い。
特に勿体付ける事も無くあっさりと牧場内で孵化させ、目の前に召喚した。
「おお? かわいいね。普通のカバさんじゃん!」
「あの大きさは魔王種化した影響だったって事だな。それでも十分でかいが」
現れたのは6つ目でもなければ、体高10メートルというお化けカバでもなかった。
それは十分地球の動物園にいてもおかしくないサイズで、全長4メートル強、体高2メートル弱と言った所。
目も普通に本来ある位置に一個ずつ付いているだけで、パッと見本当にただのカバだ。
「ズモモ~~ン」
「あははっ、鳴き声はそのままだ。こっちおいで~」
まの抜けた鳴き声にガクッとなるが、呼び寄せてみるとドコドコと意外と俊敏に駆け寄ってくる。
硬いゴムタイヤの様な表皮に覆われた頭を撫でてやれば、「ズモモッズモモモ~~ン」とやはり、ちょっとおかしな鳴き声を上げながら摺り寄って来た。
だがそれが余計に可愛いと思えるくらい温厚な性格のようだ。怒らせたら逆に恐いタイプなのかもしれない。
「名前はヒポ子ちゃんだね!」
「メスだったのか……」
相変わらず謎の能力だと感心していると、竜郎の頭に怪神から連絡が入ってきた。
『やっほ~たっつーん。さっそくありがとね~。可愛がってあげて~』
(ああ、皆と同じように可愛がるつもりだよ)
『うん。よろしくね~。こっちもスキル取れるようにしておいたから~』
(おう。こっちこそありがとう)
『あ~それでね~。もし魔王種化することが出来たら、またご褒美あげるよ~』
(え? そっちでもくれるのか。う~んけど、レベル300まで上げるってのが大変そうだな)
『……………………ま~ね~。まあ、出来たらでいいから覚えといてよ~。んじゃ~ね~』
(あ、ああ……それじゃあ。なんだ? 今の間は?)
突然あいた怪神の奇妙な間に疑問を持ったものの、既に交信は途絶えているので返事が返ってくることは無かった。
なので、まあ特に意味はなかったのだろうと考えるのを止めた。
「それじゃあ、どんなスキルが取れるようになったか見ていくか」
「お~よしよし」
カバと竜と幼竜に囲まれ嬉しそうに撫でまわしている愛衣の姿に小さく笑みを浮かべながら、竜郎はシステムを起動してスキル欄を覗いてみた。
するとそこには《魔卵属性変換》と書かれたものが新たに増えていた。
「これは……なんか面白そうだな」
「え? 何があったの?」
「ギャゥ?」「キュ~?」「モ~~ン?」
愛衣が竜郎の方へと首を伸ばすと、真似してニーナたちも同じような事をしていた。
それに思わず吹き出してしまいながらも、竜郎は《魔卵属性変換》について調べながら愛衣に説明していった。
どうやらこの《魔卵属性変換》というスキルは、その魔卵が本来持っている属性を、スキル保持者が持つ属性のどれかに変換することが出来るらしい。
解りやすい例で例えると、竜郎が以前炎山で手に入れた亜竜の大火蜥蜴の魔卵がある。
これにこのスキルを使えば、大水蜥蜴や大風蜥蜴、大雷蜥蜴──などなど一個の魔卵から様々な違う性質を持った魔卵に変換することが出来るのだ。
「へぇ~たしかに面白そうなスキルだね。しかも、それがあればもしかして……」
「ああ、属性違いの魔王種なんてのも行けるかもしれない」
「ひぇ~。こりゃほんとに魔王種100体行けるじゃん。一種類から色んな属性に変えちゃえばいいんだし」
基本属性だけとっても12属性もある。10種の魔王種候補の魔卵を12属性に分けて産みだすだけで120種。余裕で魔王種100体計画が終わるだろう。
「それだけじゃあ、水増ししてるみたいでつまらないから、そっちはやりたい奴だけにしようかなと思っているけどな」
「ふむふむ。それで、そのスキルはおいくらなの?」
「なんと税込たったの80SPぽっきりでのご提供となります!」
「お~! 安いのか高いのか全然わかんないやー」
「まあ、俺からしたら安い方なんじゃないか?
自分の持っている属性に限るなんて条件が付いてるから、俺みたいな奴じゃないと何種も~ってことは出来ないだろうし、ユニークスキルでもなければ特殊な種だけが使える《竜族創造》みたいなのでもないからアホみたいなSPは要求されないんだろうな」
「それもそっか。それじゃあ、さっそく取ってみるの?」
「もちろん。せっかく取れるようにして貰ったんだから、やってみないと」
レベルアップ分のSPも溜まっているので、80SP位なら全然問題ない。
竜郎はどんなふうに使っていこうかなあ、などと思考を巡らせながらシステム経由で取得した。
「よし、これでOKだな。それじゃあ、ちょっとお試しで使ってみるか。
ちょうど効果が解りやすくて面白そうな魔卵も持っているし」
「そんな魔卵あったっけ?」
「あったよ──っと、これだ」
そうして竜郎が《無限アイテムフィールド》から出したのは、真っ黒な黒曜石のような大きな魔卵。
だが愛衣はつい最近見た気がしたのだが、それが何の魔卵だったのか思い出せずに首をひねったままだ。
それを見かねて、竜郎は愛衣の額にちゅっと軽くキスして顔の向きを元に戻させ答えを口にした。
「闇属性の精神体の魔王種──黒田の魔卵だよ。これなら属性が変わったかどうか一発で解るだろ?」
「ああっ! カオ○シ──じゃなくて、黒田さんね!」
黒い霧に仮面を付けたようなインパクトのある姿が愛衣の脳裏にパッと浮かんだ。
なるほどあれなら別属性になればすぐに解るだろうと納得がいった。
竜郎はパパッと大よその使い方をヘルプで確かめてから、魔卵を砂浜に置く。
「それじゃあ、さっそくやってみるか」
普通に使うぶんには調べた限り難しい事は特にない。
スキルを発動し、変換したい属性の魔力を注いでいくだけ。
元々魔卵が内包している属性魔力を塗り替える必要があるので、必要な量は元の2倍ほどだとか。
戦った魔王種本体の2倍などと言われてしまうと竜郎だけでは大変だが、生まれる前の魔卵状態ならばたかが知れているので1人でも十分賄える。
「やっぱり真逆の光属性にしたらどうなるか気になるから、そっちからやってみよう」
スキル《魔卵属性変換》を目の前の魔卵に対して発動すると、魔卵が液状化して渦を巻き始めた。
そこへ竜郎は光属性の魔力を注いでいくと、その渦の中に吸い込まれていく。
黒かった液体の渦が段々と白く変色していき、数秒後には漆黒から純白に色が変わった。
それ以降は光の魔力も吸収されず、魔力を放出しても空気中に散っていくだけだったのでスキルを打ち切った。
すると液状化していたそれが魔卵の形を取り始め、それから完全に固体化すれば終了だ。
これで光の精神体の魔王種の魔卵が出来たことになる。
さっそく真っ白くなった魔卵を手に取り、《強化改造牧場》へと収納してシミュレーターを起動した。
「これは……光の輪か?」
「ゲームの2Pカラーみたいに、色が変わるだけって訳じゃないんだね」
「のようだな。でもちゃんと魔王種だ」
そこに映し出されていたのは、天使の頭についているような光り輝く輪っかだった。
「属性が違うだけで後は同じ魔物というわけじゃなく、それに適した体になるって感じなのかもしれないな。
もしくはその状態に一番近い体の魔物が、魔物のデータベース的な所を参照して選出され変換される──とかか?」
「うーん? とりあえず、どんなスキルが覚えられるのか見てみればどうかな?」
「それもそうだ。え~と、スキルは──」
スキル構成は黒田が持っているスキル、常闇シリーズの逆で常光シリーズがあった。
その名称と効果はと言うと──。
光さえあれば対象者に幻を見せる事が出来る《常光の影》。
光さえあれば広範囲に渡り任意の存在の姿を隠せる《常光の衣》。
光さえあれば、魔力消費極少で熱を帯びた光の矢を雨の様に降らす《常光の矢》。
光さえあれば、写した相手の分身を作りだし戦わせることが出来る《常光の鏡》。ただしこれは自分よりも強い相手の場合は、分身体も相手より弱くなる。
太陽光があれば空から高熱の強力なビームを落とせる《常光の柱》。ただし太陽の光の強さによって威力が変わる。
──となっていた。
他には《光同化》《気配遮断》などの隠密系スキル。《光吸い》といった回復スキル。
《光魔弾》に《光槍投擲》。自身をレーザーのようにして撃ち出す《光突進》などの攻撃スキル。
《反射光鏡》というカウンター防御スキルまであった。
「何ていうか、こっちの方が若干、攻撃よりな気がするね」
「みたいだな。黒田は搦め手満載の完全トリッキータイプとすると、こっちはトリッキー寄りの魔法アタッカーって感じか──よし、スキルはこんなもんでいいか。
それじゃあ孵化させてみよう」
ということで黒田の時と同じ孵化を再現するために、同じだけ神力を注いで生み出してみる。
そうして現れたのは、大きさ6メートルほどの光の輪っかで、その中央を通るようにプラチナ色の筋が1筋はいった魔物となった。こちらも基本的に大きさは自由自在の様だ。
「うーん。この子を、うちの誰かと組ませるなら誰がいいんだろうね」
「理想としては前衛に出れてコイツの速い攻撃にも合わせられる奴ってとこだが……。
まあ、もうちょっと皆が成長してから考えようか」
「だねぇ」
それからこの光の精神体の魔王種。名を光田とつけ、竜郎は次の実験に移っていくのであった。




