第539話 ごまかし
ゾロゾロと坑道内に入っていき、竜郎の指揮のもと数組に分かれて調査が始まった。
もはや誰も竜郎の実力を疑っていないので、他者が指揮を取るなんてありえないとすら思っていそうだ。
こういった強者に追従する習性は危ういと思うのだが、今の竜郎からしたらやりやすいので特に何も言わなかった。
今、竜郎たちと一緒にいるのはミノさん(ドルドム)のパーティーと、あの中では4番目に強いとされている蟻の魔物の魔人間が率いるパーティだ。
調査というのなら竜郎たちだけで本来は良いのだが、今回は他人が必要なのでチーム分けしてこちらにも付けて貰ったのだ。
並びとしてはミノさんチームとアリさんチームに竜郎たちが挟まれるような位置取り。
ここでなら前にも後ろにでも対応できるからというのが、竜郎の言い分である。
魔人間たちの体力に合わせながらも、それでも結構なペースで廃鉱を内を進んでいき、あの巨大カバと戦った場所まで向かっていく。
ちゃんと不自然に思われない様に適度に遠回りをしながら。
そうしてけっこうな時間を掛けて現場にたどり着くやいなや、ミノさんが素人のように前方を指差し思わず叫んだ。
「なっ、何だあいつはっ!?」
「ピギィイイーーーーーーー!!」
「「「「「ひぃぃぃいっ!?」」」」」
そこにいたのは寄鉱虫の魔王種候補──の死骸。
だがミノさん達には生きているように見えるよう呪魔法をかけておいてある。
それを先行して用意していたアテナが、《竜力糸》を《竜力糸操作》で操り人形のように上から動かしていた。
また奇声は竜郎が転移させた音魔法ででっち上げた偽物だ。
さらにアテナには竜の威圧を放ってもらっているので、ミノさんたちには我を忘れて思わず叫んでしまうくらい危険な魔物のように見えたことだろう。
「皆さんは、この事を報告に外へ逃げてください! ここは俺達が受け持ちます!」
「ですがタツロウさん! あんたでもアイツは──」
「あれくらいどうって事ないですよ。ですから早く!」
「くぅ……すまねぇ、タツロウさん……。
──俺達がここに残っても足手まといになるだけだ! お前ら、急いで援軍を連れて来るぞ!」
「「「「「おっ、おう!」」」」」
そうしてミノさんたちは去っていった。
それを解魔法でしっかりと確認し、大分離れたのを確信すると──。
「はーい、カットー。アテナ、おつかれー」
「やだなぁ、とーさん。あれくらいじゃ疲れないっすよ~」
天井にぶら下がっていたアテナが、寄鉱虫の魔王種候補の死骸を下に降ろすと竜郎たちの前にまでぴょいっと降りてきた。
「それじゃあ、派手に音を立ててこの辺を適当に破壊していこう。
廃鉱で誰も使ってないし別にいいだろうさ」
そうして音をわざと立てながらどっかんばったん。竜郎の魔力の残滓がたっぷりと残っている岩壁を破壊して隠蔽していく。
さらに寄鉱虫の魔王種候補のお腹を綺麗に愛衣がくり抜いて、体中をいい感じにダメージが受けたように見せかける。
またもう一体複製した死骸もだして、魔物同士が戦った様に偽装していく。
「これだけやれば大丈夫かな」
「それっぽくはちゃんと見えますし、これなら良さそうです」
現場検証を行われても解らない程に滅茶苦茶にしておいたし、ここなら邪魔コロもあるのでそうそう足はつかないだろう。
そうリアの目のお墨付きも貰えたので、竜郎たちはミノさんたちが来るまで時間を潰した。
それから数時間後──。ミノさん達が大勢、人を連れて戻ってきた。
「タツロウさん! 大丈夫ですか!」
「ああ、はい。もう片付いたんで大丈夫ですよ」
「「「「「──え?」」」」」
死すら覚悟してやって来た人たちが、のんびりと答える竜郎の声にポカンとしながら周囲を見渡せば、そこには激戦の跡と二体の魔物の死骸が転がっていた。
「どうやらこの魔物同士の戦いが最初の戦闘音だったみたいです。縄張り争いでもしていたのかもしれませんね。
それでミノ──ドルドムさん達と一緒に見た奴が勝って、この場の主となっていた所に僕らがやって来た──って感じかと推測します」
「あんなすげー威圧を放ってくる奴を倒すなんて……やっぱりつえーぜ……」
心なしか目に籠ったキラキラ度がさらに増した気がする。
なんというか、こちらの都合で動かしているのにそんな目をされるといたたまれない。
そんな気持ちから竜郎たちは強引にこの場を切り上げ、魔物の死骸を回収して戻っていった。
「これがその魔物の死骸です」
「これは……」
今回の依頼主でもある採掘ギルドのギルド長の芋虫人間に、元凶だと思わせるための寄鉱虫の魔王種候補の死骸を2体おいてシナリオを語っていく。
「こいつは将来魔王種へと至る事の出来る魔物の様です」
「魔王種だってっ!?」
芋虫さんではなく、近くにいた冒険者たちが真っ先に反応して声を上げた。
「いえ、まだ魔王種ではありません。ですがあと何年かすれば魔王種に至っていた可能性はあるでしょう」
「そんなものがここに2体も──」
周りにいた全員が背筋を震わせた。
死骸には見た目以上に強そうに見える様、呪魔法で細工してあるので信憑性はより高くなっている。
「俺達もタツロウさんたちと一緒にちらりと見たが、確かにヤバい魔物だったぜ。
俺達だけならまず間違いなく逃げる事も出来ずに全滅していただろうぜ」
「それほどでしたか……」
「ああ、あれなら調査前に聞こえた戦闘音や地響きも頷けるってもんだ」
さらに、ここでの発言権の大きいミノさんがアシストしてくれる。
またそのパーティメンバーや、あの場にいたアリさん達のパーティも追従して言葉を発していく。
実際に死体があり、ここでは竜郎達を除いてナンバー1とナンバー4の冒険者パーティの言葉は、余所者である竜郎たちよりも周りに強く受け入れらていく。
さらに他の場所を探査していたパーティは怪しい個所は見当たらなかったという情報も入っているので、今回の騒動の原因はこれで間違いはなく、竜郎たちがそれを片付けてくれたと言う事で満場一致。
あとで念のために調査員を派遣すると言っていたが、そっちも仕込みは済んでいるので問題ない。
これで竜郎たちは、禍根をいっさい残さず元の時代へと帰れるように事が進んだ。
それなりの額の報酬を直接芋虫ギルド長から貰い、ミノさんたちに惜しまれながら竜郎達はカルディナ城へと帰っていった。
ヘルダムド国歴1029年.4/16.風属の日。時刻は夕方。
まだ夜まで時間もあるし魔王カバを──とも思ったが、廃鉱を行ったり来たりして精神的に少し疲れていたので今日は大人しく早めの就寝となった。
翌朝。少し早めに起きた竜郎は愛衣と暫くイチャイチャした後、朝食を食べてまずは妖精樹の調査を請け負っている妖精郷の住民にしてマリッカの叔母イェレナの家へ向かった。
リアと奈々はさっそく星天鏡石を使った実験に向かっているのでおらず、カルディナとジャンヌ、レーラやイシュタルたちも好きにして貰っている。
天照と月読も今日は別行動で、浮遊する杖とコートを内包したスライムが城内を徘徊している事だろう。
海とは反対側の自分たちの領土の中に生えた妖精樹と、ダンジョンの入り口のある平原までやってきた。
すると、そこには妖精郷の方の妖精樹の化身にして大亀のルトレーテが寝そべっていた。
どうやら、いつのまにかこちらに遊びに来ていたようだ。
向こうもこちらを見つけると、にゅーっと長い頭をこちらに伸ばしじっと見つめてきた。
なんだろうと竜郎と愛衣が首をかしげていると、この領地の妖精樹の化身にして女性の幽霊形態のルナが通訳をしてくれた。
「魔力……ほしいな……って……」
「ああ、そういうことか。それじゃあ、ルナも」
「あり……がと……管理者さん……」
ルトレーテの頭とルナの手を取り竜郎は魔力を注いでいく、その間愛衣は竜郎にくっ付いて魔力回復を手伝ってくれた。
「こんなもんでいいか?」
「うん……ありがと……」
「これ、やる──」
「え? ああ、ありがとうございます。ルトレーテ様」
ルトレーテが以前と同様に口からげろっと宝珠を1個出してくれた。
今回のルトレーテガチャは光属性の宝珠だった。
「けど、そんなに頻繁にくれてもいいんですか? この前も貰いましたし。
いや、こっちとしては嬉しいんですが」
「……………………」
「さっき貰った分……の方が多いから……問題ない……って言ってる……。
あげてるのは……余剰分……だって……」
「あー、そうなんですね。それでは気兼ねなく貰っておきます」
無言で頷き返すと、ルトレーテは伸ばした首を戻してまた寝そべった。
妖精郷の方は良いのかとも思ったが、本体は妖精樹として妖精郷にあるのだから問題ないかと納得しておいた。
それから当初の目的通りイェレナの木の家へと向かい、その扉をノックした。
「あら、おはよう。タツロウくん」
「おはよう。イェレナさん」
アーサーやフローラを生み出してからの12日間の間に打ち解け、敬語ではなく普段使いの言葉で話すようになっていた。
そんなイェレナを今日訪ねてきたのは、聞きたいことがあったからだ。
「そろそろ妖精郷の方はどうなったか聞いてもいいですか?」
「あー……それね」
むこうでも準備があると言っていたので何時頃ならお邪魔していいのか確認に来たのだが……イェレナの表情は難しそうだ。
「それが……今もめてるみたいなのよ」
「あー……やっぱり僕らが来るのを反対している人達もいますよね」
「え?」
「「え?」」
基本的に他種族を受け入れない妖精郷に竜郎たちが来るのを反対する勢力もあるのだろうと思っての竜郎の言葉だったのだが、イェレナはそれに何の話?と言わんばかりにキョトンとしていた。
それに対して竜郎と愛衣もそのまま疑問符で返してしまったので、一瞬話の流れが止まってしまった。
けれど直ぐにイェレナの方が言いたい事を察してくれて、コロコロと笑いだした。
「あははっ、違うわタツロウ君。皆、自分たちの近くにタツロウ君たちの家を建てろともめてるんだから」
「え? そんなに歓迎されてるんですか? 僕らって」
「だって陛下がお認めになったというだけで皆は安心して受け入れるもの。
それに妖精郷って凄く安全な場所だけど、同時に凄く停滞した場所でもあるの。
まあ、ようするに皆、新しい事に飢えてるのよ。
そこでタツロウ君たちみたいなダンジョンを持って来たりできるヘンテコな人達が来るとなれば、面白い! じゃあうちの横に来てもらおう! なんてね」
「あははっ。ヘンテコだって、私たち」
「まあ、どんな意味でも歓迎してくれてるなら別にいいんだけどな」
「ええ、私たちは皆、歓迎するわ。でも皆が近くがいいなんて希望するものだから、今は話し合いで決めている最中なの。
だから安心して。そんなに長くもかからないと思うから、向こうの準備が出来たら私の方から報告しに行くわ。それでいいかしら?」
「ええ、もちろんです」
どうやら、妖精郷に行くにはもう少しだけ時間がかかる様だ。




