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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八章 帰界準備編

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第343話 ララネストと新たなペット

 最初の一匹を釣ってから三十分の時が過ぎた。

 あれからシャチモドキは六匹釣れ、魔卵素材は早々に集め終った。

 けれどララネストらしき物はかからなかった。

 そこで今度は選手交代し竜郎がやってみると、上半分は人の骸骨、下半分が魚と言う骸骨人魚とでもいうべき気味の悪い魔物を三回連続で釣ってしまい、直ぐに愛衣に竿を返した。



「なんで俺の時はあんなのばかりなんだ……」

「まあまあ。私がでっかいの釣ってあげるから元気出して──って、さっそく来たー!

 シャチモドキとは引きが違うよ! ララネストかも!」



 そう言って愛衣が鎖を巻き取っていくと、現れたのは残念ながらララネストではなかったが見覚えのある魚に似ていた。



「……ん? あれは──マグロか!?」

「寿司ー!」

「頑張れ愛衣!」

「刺身ー!」



 謎の掛け声をあげながら無事三メートルの巨大魚を釣り上げた。

 見た目は歯が鋭く長い以外はまさにマグロ瓜二つで、急いで殺して《無限アイテムフィールド》にしまった。



「きせずして新たな食材ゲットだな」

「やったね。この勢いでララネストも釣っちゃうんだから!」

「おう! 愛衣なら釣れる気がしてきた!」



 それから予定の一時間まであと十分と言った頃。愛衣がメインで偶に竜郎がと釣ってきた本日の釣果はと言えば──。

 愛衣はシャチモドキ八頭、偽マグロ二匹、偽シャケ四匹、巨大ウナギ一匹。

 竜郎は骸骨人魚七匹、大クラゲ一匹。となっていた。



「なんで同じ場所、同じ竿、同じ餌で釣っているのにこんな結果に……?」

「さあ? もう運としか言いようがないよ。でもでも、二人ともララネストは見つかんないねー」

「もう釣りはやめて解魔法使って片っ端から探ってみるか。多分カルディナは《分霊:遠映近斬》で水中の中を見ながらやってくれてるだろうし」

「そういえば、なんで最初からそれをしなかったの?」

「まあ異世界とも一旦お別れだからな。ちょっと思い出作りをってとこかな。

 何だかんだ言っても結構楽しかっただろ?」

「うん。アウトドアっていいよね。こっちに来て、ちょっと目覚めちゃったもん」

「俺もだ」



 釣り鎖を垂らし波の音を聞きながら、竜郎は背中から抱きついていた力を少し強めた。

 それに愛衣は首を後ろに向けるとチュッと軽く唇を重ねた──そんな時、それはやってきた。



「──っ何かきたよ! 今度は何だろー」

「時間的に最後だろうし、しっかりと釣っておこう」

「あいあいっ」



 愛衣はゆっくりと竿をあげながら鎖を巻きつけて上げていく。

 すると餌をガッチリと二本のハサミでつかみ、複数の足でガッチリとホールドしながら釣られている事にも気が付かず夢中で頬張る青い魔物が見えてきた。



「「ララネストだ! …………というかロブスター!?」」



 仲良く一言一句違わずハモる二人の視線の先には、二メートルはある巨大な青いロブスター。姿形も大きさ以外は全く同じだと言ってもいい。



「まさかのザリガニ系。カニだと思っていたんだが、そっちだったか」

「うっ。ザリガニって言わないでー。不味く思えちゃう」

「すまんすまん。まあ、エビだと思って食べてみよう。伊勢海老ほどじゃないが、アメリカとかだと高級食材だし」

「高級食材! そうやって聞くと美味しそうだねぇ」

「現金だなあ」



 などと言いながらも餌に夢中なだけで針に刺さっているわけでもないので、逃がさない様に注意しながら引き揚げていくと、残り二メートルという所でこちらと目があった。



「「あ」」「──ッ!?」



 ビックロブスターもといララネストは、竜郎達を見るや否やビクッと体を震わせて驚くが、直ぐに新たな餌を発見したとばかりに、先ほどまで食べていた魔物の死骸を踏み台に飛びかかってきた。



「──おっと。結構速いね、きみ」

「──ッ──ッ」



 ハサミで二人一遍に挟んでしまおうとするも、一瞬で《アイテムボックス》から出した宝石剣で二本とも切断。落ちていく大きなはさみは竜郎が回収していた。

 そして切断して直ぐに体を串刺しにして、足場にしている気力の盾に縫いとめた。

 それでも元気に暴れて残った足で引っ掻いてこようとした所で、竜郎が電撃を浴びせて仕留めた。



「これで当初の目的は達成したな。食べるのが楽しみだ」

「それじゃあ、帰ろっか」

「ああ。天照、月読も、そろそろ──おう。そっちも大量だな」



 本体はすぐそばにいるのだが、そこから離れた属性体たちの方を見ると、近くの足場には死んだ海洋魔物達が積まれていた。

 その中にはちゃっかりララネストも三体混じっており、これで竜郎たちのチームだけでも四体もゲットできたことになる。

 竜郎は二体にお礼を言って《無限アイテムフィールド》にしまうと、ちょうど集合時刻になっていたので、急いで砂浜に戻って行った。



「ピィューーー」「おかえりっす~」

「ああ、ただいま」



 帰るなり出迎えてくれた《成体化》状態のカルディナとアテナの頭を撫でながらそう言っていると、ジャンヌ、奈々、リアのチームも遅れてやってきた。

 皆怪我も無く釣りを楽しめたようで表情が明るかった。

 今回の釣果を確認すると、やはり探査能力をフルに生かして釣ったカルディナとアテナペアで、ララネストだけを的確に二十三匹も確保していた。

 ジャンヌ達は二匹だけで、その代わりにシャチモドキが六頭、偽マグロが大小合わせて十二匹もいた。



「皆お疲れさん。それじゃあ食材も手に入ったし、カルディナ城に戻って調理開始だ」

「おー!」



 少し空けていただけでカルディナ城の正面付近には魔物が複数跋扈しており、それらはカルディナ、ジャンヌ、アテナに任せて他のメンバーは中へと入って行った。

 まだ蒼太やワニワニ隊、ワーム隊は修行中なので出せないからだ。

 もう少しスキルやレベルを磨けば、この辺りでも無双できる事だろう。


 リビングにある大きなキッチンまで移動すると、食べられると判断した偽マグロを竜郎とリアで解体していき、愛衣と奈々はそれを水で綺麗に洗い流す。

 偽シャケも解体して、それらに寄生虫などがいないかもチェックし、刺身にする物は竜郎の《無限アイテムフィールド》で時間を止めて保存。

 天ぷらや塩焼きにする物はささっと下ごしらえをして、適した時間設定をしてこれまた収納。

 これで今回食べる分の魚の準備は終わった。


 そうなると今回のパーティのメインディッシュであるロブスターの調理である。

 こちらは一匹でも食事ができる三人では食べきれそうもないので、必要な部分だけを切り分けてリアや奈々がワイン蒸しやボイル焼きなどにしてくれると言うので、そちらは二人に任せた。

 なので竜郎はご飯を炊き、愛衣は酢飯を作ったりしていたのだが、それもすぐ終わってしまう、

 リアの方は奈々一人で事足りるようで、これ以上増えても邪魔なだけだ。

 そこであいた時間を使ってシャチを作ることにした。



「リアー、ちょっと愛衣と一緒に外へ遊びに出てもいいかー?」

「いいですよー。でも兄さんも姉さんも、《アイテムボックス》経由で物を送ったら直ぐ帰ってきてくださいねー」

「わかったー。ふふっ、お母さんみたいだね」

「だな」

「えー? なんですかー?」

「「なんでもなーい」」

「んん?」



 少し離れたキッチンにいるリアが首を傾げるのを見て、竜郎と愛衣は顔を見合わせ笑いあった。

 ニコニコと陽気な気分で外へと出ると、魔物の掃討を終えたカルディナ達が海の方で近くにいた海洋魔物に喧嘩を売って遊んでいるのが見えた。

 元気だなあと娘たちの無邪気な姿にほっこりしながら、砂浜に座って二人より添いシャチモドキの《魔卵錬成》に必要な素材を取り出した。



「うーん。こういうのに慣れてきている自分がいるのにビックリだな」

「私はまだちょっと苦手かも」



 生々しく照かる心臓と脳みそ十体分に愛衣は少し目線をそらした。

 けれど竜郎は既になれ始め余裕で見られるようになってきていた。

 なので特に感慨も無く《魔卵錬成》を発動。

 すると黒曜石の様な拳大の水晶玉が二つ転がっていた。



「おっ、黒いのは初めてだな。綺麗だし一個はちゃんとコレクションしておこう」

「そうはいっても結局全部一個は保有してるよね?」

「ま、まあいいじゃないか……」

「ふふっ、別にいーよ」



 少し趣味に無駄遣いした事がばれた夫の様な心境で目を泳がせた竜郎だったが、愛衣は笑っていたのでほっとして目の前の卵を一つは《無限アイテムフィールド》に、もう一つは等級チェックを行った。



「これも等級4か。町周辺の魔物だと良くて2ぐらいなんだが、この辺のはやはり質が違うな」

「平均で4くらいだもんね。もっと探せば凄いのがいるかも」

「等級5ぐらいのは絶対どこかにいるだろうな。暇になったら二人でデートがてら探してみるか」

「ピクニックデートかあ。それもいいね」



 和気あいあいと話しながら、竜郎は等級4のシャチモドキの卵を同じく等級4の巨大ワニと合成するかどうか迷い始めた。



「お顔の見た目は微妙に似てるけど、哺乳類と爬虫類の違いは大きい気もするよね。それに外見がもっと怖くなりそうだし」

「外見は卵の状態での改造なら結構融通が利くからいいと思う。どちらも似てるし、まったく別物の魔物に変わる事も無いだろうし」

「じゃあもう予備もあるしやってみちゃう?

 アレしたらどうなってたんだろーってモヤモヤしたまま帰るのもなんだし」

「それもそうだな。それじゃあ、ワニの卵を出してっと」



 巨大のワニの卵とシャチモドキの卵を並べ《魔卵錬成》を発動すれば、黒曜石にラピスラズリの破片が混ざりこんだような水晶玉が転がっていた。



「等級は5。一個だけ上がったな。んで見た目はどうなっ──あー……」

「げげっ」



 さっそく《強化改造牧場》のシミュレーターで確認してみれば、そこには二又の頭を持った双頭鱗シャチモドキとでもいうべき存在が映っていた。

 シャチの顔を細長くしたようなワニにも似た二つの頭部。シャチモドキの時のツルンとした皮膚は無くなり、頭から長い胴体、尾びれの先まで青色のワニの鱗で全身覆われていた。



「これ可愛くなるのかなあ。私やだよー、ゴツゴツで頭二つの胴長シャチなんてさぁ」

「それはやってみないと何とも……。ん~ここをこうして……ここをあーして……」



 竜郎はコピーをとってからシミュレーターを弄り形を変えていく。すると卵の状態での改造だったからか、頭を一つにすることに成功。

 そのせいで頭部が大きくなったが、むしろシャチのまるんとした外見により近くなっていた。



「おっ、いい感じだね! 後は鱗をどうにかしたいなあ」

「頭がくっ付くなら、それくらいできるだろう──ほらな!」

「ほんとだ! ツルンってしてる。これだよこれー」



 細長い体を縮めてまるんとした流線形ボディに作り替え、尖った目つきはやや垂れ目気味にして優しいパッチリおめめを演出。

 青いボディカラーも黒と白の模様に塗り変えて、どこからどう見てもシャチといった風体に改造出来てしまった。



「こんなに上手くいくもんだったのか。《強化改造牧場》恐るべし」

「あははっ、これならゴブリンもイケメン顔に出来そうだね」

「……逆にキモくね?」



 顔だけ超絶イケメンゴブリン。造ってみたいとも思わないし、誰も望むことは無いだろう。



(あれ? でも背丈とか肌色、体格も矯正すればエルフみたいにできるのか?)



 だがいらぬ。そんな物を造ったらエルフに怒られそうだ。そう結論付けて竜郎はこれ以上考えるのを止めた。

 そしてレーダーチャートを見ると愛衣とほぼ同じく脳筋スペックだったので、魔法にも多少対処できるように強化し、スキルも陸上での移動手段である《空泳》や遠距離の攻撃手段もいくつか増やしておいた。

 ただ《空泳》は《強化改造牧場》でもない限り付けられないスキルだったのか、他のスキル枠を大きく圧迫したので、そこまで強力な物は付けられなかった。

 ペット要員だからいいかというのが最後に背中を押したのだ。


 そうしていよいよ孵化させる。相も変わらず哺乳類を孵化させると言う違和感にさいなまれながらも、竜郎は好奇心を抑えきれずに神力を混ぜこんだ。

 愛衣は一瞬の竜郎の表情からこやつやりおったと察し、首筋をガジガジと甘噛みした。



「もー、これで変なのになっちゃってたらどうするのさー。がじがじ」

「大丈夫だ、きっと。神々しいシャチになる事うけあいだぞ」

「ほんとかなー」



 シミュレーターを起動させるよりも直接見た方が早いと、二人は孵化したシャチがどうなっているのか確かめるべく海まで歩いて行く。

 そして近くに魔物がいないことを確認してから、竜郎は海にシャチを呼び出した。



「これは──これでアリかも」

「キューキュー」



 愛衣の一言で胸を撫で下ろし現れたそれをみれば、それは間違いなく先ほど作りこんだままのシャチの外見をしていた。

 だが一つ、額の部分に菱形の白金プレートが付いていた。

 触ってみるとツルツルとした弾力のある皮膚と同化しており、感触も見た目は金属質なのにもかかわらずプニプニしていた。



「おでこに白金の菱形マークが付いただけか。これなら余所様の家のシャチと混じっても解りやすいな」

「余所様の家のシャチと混じるってどんな状況? まあ、これ位ならむしろカッコいいしいっか。おいで~」

「キュキューー」



 愛衣は仲間だと伝えてあるので、海に浮かびながら砂浜に座礁し人懐っこく頭を摺り寄せてきた。

 その姿をぱしゃりと撮影してから竜郎も頭を撫でた。すると「キューキュー」と鳴いて非常に愛らしく、二人は思わずぎゅっと抱きついた。

 すると両の胸ビレをバシャバシャと動かして喜びを表現すると、頭をギュギュっと押し付け「キュルルルー」と鳴いた。



「乗ってほしいってさ。一緒に泳ぐか?」

「うん!」



 二人は大きなシャチの背ビレを挟むように愛衣が前、竜郎が後に乗り込むと、《空泳》で座礁した体を海までのんびり持っていき、砂浜付近を泳ぎ始めた。



「はやいはやーーい!」

「すげー……。シャチに乗ってるぞ俺!」



 二人は別々の事に感嘆し、しばらくの間シャチ遊泳を楽しんだのであった。

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