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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八章 帰界準備編

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第342話 お土産を捕ろう

 地中への対策もめどが立ったところで、リビングに戻って来た竜郎達は今後について話し合う事にした。



「リアが細かい所をやっている間に、俺も転移魔法の練習をしていた。

 それで天照に補助して貰わなくても、自分自身で大体のコツは掴めたと思う」

「それじゃあいよいよ?」

「ああ。短い距離の転移魔法はほぼマスターした。だから遠くに飛んでみて、それで問題ないようなら異世界転移をしてみようと思っている」

「そっか。もうすぐ帰れるんだね……」

「ああ……」



 ここまで来るのに約290日。一年はかからなかったが、親元をこんなにも離れていた事のない二人にとってはそれだけでも大きな変化だ。

 だというのに異世界をさまよう羽目になっていたのだから、ゴールが見えてきた今、その感慨もひとしおだろう。

 けれどそれと同時に寂寥感も二人は抱いていた。

 嫌な事もあったし、大変だったこともあったけれど、来たくなかったとは思えない程に、この世界にも愛着がわいていたのだ。

 これまでの出来事が走馬灯のように頭に過る。だがいつまでも感傷に浸っているわけにもいかない。

 竜郎と愛衣はお互いの手を握り合い、見つめ合い、頷きあって切り替えた。



「ってことで、とりあえずまた来るからなパーティでも開こうかと思います」

「パーティですの? それはどんな?」

「まあ、カルディナ達にとってはあまり楽しくないかもしれないが、軽い食事会だな」

「食事会! ってことはつまりだよ。アレを出しちゃうんだね?」

「アレも出しちゃいます」

「やったあ!」

「あれってなんですか?」

「ああ、そう言えばあの時リアはいなかったんだったな。じつは──」



 そこで竜郎は蟻蜂女王に《極上蜜》を作らせている事をリアに語って聞かせた。

 リアは蟻蜂女王での養蜂は聞かされていたので知ってはいたが、てっきりただちょっといい蜂蜜くらいに思っていたので、まさに寝耳に水である。

 しかしリアも健康になってから、食にこだわる竜郎や愛衣に触発されて、美味しい物への興味も出てきていた。

 そしてそれは甘いもの。若い女子としても是非食してみたいと思った。



「それは楽しみですね! 蜂蜜に合いそうなパンやクッキーなんかは、私に任せてください。ケーキなんかもいいかもしれません」

「おおっ。いいねえ。楽しみにしてるね」

「だがそれだけじゃあないぞ。国王でも飛び上がるほど美味いと言っていたララネストとかいう魔物を海に行って狩ってこようと思う」

「あっ、忘れてた! お母さんへのお土産にしなきゃ!」

「お父さんもね!」

「ああ、うん。そだね」



 愛衣も嫌っているわけではないのだが、どうしても母親と姉妹の様に仲がいい為に隅に置かれがちな彼女の父。

 将来の義父へ『俺だけは忘れてませんからね!』とテレパシーを送り、今後娘が産まれたらそうならない様に気を付けねばと心のメモに刻み込んだ。


 そうして帰界を祝うパーティについて話し合った後は、さっそく竜郎の転移魔法実験である。

 これが成功しない限りは、とてもじゃないが異世界転移など夢のまた夢。

 けれど杖なしの無補助で遠距離転移魔法を自在に操れるようになれば、天照と魔力頭脳の補助を得た竜郎は、ほぼ間違いなく異世界転移を成功させるだろう。


 皆で表玄関から出ると、外壁に体当たりしたり登ってこようとしている魔物の気配を察知しながらも無視して砂浜までやってくる。

 砂浜にまた出現してきた魔物を間引いて、竜郎は天照を離すと杖は属性体で造った天照のチビ竜が預かった。



「まずは軽く準備運動として短距離転移から──はっ」



 竜郎が時空魔法の魔力を練りながら行きたい場所を念じる。

 すると竜郎の姿が掻き消え、愛衣達の背中側へと転移した。

 そして次に上空へ移動したり右横へ移動したりと、この程度の距離なら戦闘をこなしながらでも自力で出来るレベルになっていた。



「おー。やっぱ転移って凄いね。目で追いきれないから、確実に視界から外れて思いもよらないとこにいるんだもん」

「《万象解識眼》で観た限りでも凄く安定していますね。けれど安定しているおかげで、転移する瞬間に何処に行くのか解る様になりました」

「そこはまあ、リア以外には解らないだろうし問題ないな。むしろそれくらい安定しているのなら、自信もつくってもんだ。

 それじゃあ次は難易度を上げて長距離転移だ。愛衣、何処がいい?」

「ん~そうだなあ」



 愛衣の脳裏に、これまで行った事のある土地が流れていく。



「ああでも、ダンジョンを出た後で寄った場所にしてくれよ。俺達の知っているオブスルとかは三十年前以上昔の場所だから、今どうなっているか想像できない」

「そっか。そうだよね。ん~~~~それじゃあ…………決めた! ホルムズの私たちが泊まっていた宿!」

「かなり遠くにしたな」

「でもそれぐらいできないと異世界になんて渡れないよ、きっと」

「だな。んじゃあ、いっちょやってみるか」



 今現在竜郎達が立っているソルルメシアと呼ばれる海と、ソルルレシフと呼ばれる陸地はカサピスティの隅であり、隣国からはもっとも離れた場所でもある。

 なのでリベルハイト国でも結構な距離があるのだが、そのさらに先にあるリアの故郷ホルムズ。

 これは気合を入れなくてはと竜郎は深呼吸して集中力を高めていく。

 そして人目に触れて大丈夫なように、目に触れても意識されない様に闇と呪魔法を全員にかける。

 それから時空魔法で自身と一緒に転移する人物たちを包んでいき、あの特徴的なホルムズにある高級宿を思い浮かべ転移するように念じてみた。

 すると視界がテレビを変えるように切りかわり、イメージした通りホルムズで泊まった宿の入り口近くに転移していた。



「よしっ、成功だ。場所も指定した所とほぼ同じ。それじゃあ拠点に戻るぞ」



 いつでも来れることが解ったので、拠点地下に戻るべく再度転移魔法を発動。

 一瞬目の前が暗くなったかと思えば直ぐに明かりがともり、転移するときのために作った地下室にいる事が確認できた。



「完璧っすね。これでとーさん達の世界を直に見れるっす」

「わたくしも楽しみですの」

「ピュィー」「ヒヒーーン」



 カルディナ達も異世界に行くのが嬉しいらしく、期待に胸を膨らませている様子。

 その姿に頬を緩めながら、それから何度か長距離転移実験を繰り返し、満足がいったところで再度リビングへと歩いて戻った。



「これで帰るための訓練課程は修了だ。後は、パーティ用とお土産用の食材を用意して帰る準備に取り掛かろう」

「おー!」「ピュイ!」「ヒヒン!」「おーですの!」「はい!」「了解っす~」



 天照と月読もチビドラゴンの属性体を動かし万歳していた。

 異世界のお土産など世界初だろうと、両親が驚く顔に竜郎も愛衣もほくそ笑みながら、さっそく行動を開始した。


 カサピスティ王が言うには、ララネストと言う魔物は普段は海底を這うようにして生活しているらしい。

 そして獲物が近寄れば高速で水中を移動し、容赦なく捕食してくる二メートルほどの大きさの魔物。



「って事で今回の相手は水中だ。せっかくだし遊びもかねて釣りでもしてみるか?」

「釣り人に慣れてない魚は簡単に釣れるって言うしね。それでも直ぐに捕まえられちゃうかも」

「うちで水中移動が得意なメンツもいないっすからね。様子見でやってみるのもいいかもっす」

「なら釣竿が必要ですの。それも頑丈な」

「それならツクヨミさんの竜水晶で竿と針を作って、糸は水晶を鎖の様につなげて垂らせばいいと思います。

 あの水晶なら海の中に入れても針も糸も目立たないでしょうし」

「青系で透き通った水晶だからな。確かに多少雑でもいいかもしれない。やってみるか」



 砂浜に集まっていた竜郎達はそんな事を話し合いながら座り込むと、月読の竜水晶生成と竜水晶制御のスキルを使い、二メートルほどの長さの棒に、大きな釣り針、そして輪が大きめで少し太くなってしまったが、糸代わりの鎖状の竜水晶を作った。

 そうして三本の釣り道具を適当に作り終ると、同じ場所で全員集まって釣ってもしょうがないので、竜郎、愛衣、天照、月読。カルディナ、アテナ。ジャンヌ、奈々、リア。の三チームに分かれて、それぞれチャレンジしてみることにした。



「それじゃあ三十分してもなにも釣れなかったら砂浜に集合。何か釣れても一時間経ってもララネストらしきものがかからなかった場合も砂浜に集合してくれ」



 いたずらに時間を消費してもしょうがないので、事前に話し合った通り時間を指定してそれぞれ海上に散開していった。

 竜郎は愛衣をお姫様抱っこしながら月読の水の翼と天照の風で一気に飛んでいき、砂浜から三キロメートルほど離れた海上で止まった。

 愛衣の鎧から作られる気力の盾を空中に出し足場にすると、そこへ二人で立って先ほど作ったばかりの竿を取り出し、いらない魔物の死骸を釣り針に刺した。

 ちなみに天照と月読は、属性体を出して本体は竜郎達の近くに置いたまま、足場の反対方向で自前の水晶を使ってやると言うので暫し別行動だ。


 竜郎が針に餌を刺している間、愛衣がソワソワとこちらに視線を向けていた。

 どうやらやってみたいらしい。竜郎はふっと笑って愛衣へと竿を差し出した。



「先にやってみるか?」 

「いいの? だってそれ作った時も私なんにもしてないけど……」

「そんな事気にしてたのか? 俺達の間で遠慮は無しだ。

 それで無理なら無理って言うし、嫌なら嫌っていうだろうけど、愛衣を疎ましく思う事は絶対に無いんだからさ」

「そお? じゃあ先にやってもいーい?」

「ああ、やってみてくれ」

「わーい!」



 満面の笑顔で喜ぶ愛衣の顔が見られるのなら釣竿なんて安いものだ。

 そんな風に考えながら、竜郎は釣竿を下に垂らす愛衣の背中に抱きついた。

 そうして針に刺した魔物の死骸がゆっくりと海の中に沈んでいった。



「これからどうすればいい?」

「そうだな。普通の釣りなら餌が生きているように見せる為に、竿を左右に動かしたりするはずだ」

「了解。え~と、こうかな」

「もう少しゆっくり動かした方がいいかな」



 愛衣が竜郎の指示を聞きながら竿の先をゆっくり動かし、魔物えさが海中で動いているかのように見せた。

 すると一分もしない間に、何かが針に食いついた。



「さかなーーーーーーーーーーー!」

「いや、何で日本語? 普通ここはフィーーシュじゃないのか?」

「そんなことどうでもいいよ! こっからどうすればいい? 思いっきり引き上げればいいの?」



 強く引っ張る力もなんのその。愛衣はその場で軽く踏ん張って竿を握り、竜郎の指示を仰ぐ。



「いや待ってくれ。今の愛衣の力で思いっきり引いたら鎖か魔物のどっちかが千切れるだけだ。

 そっと持ち上げていってくれ」

「はいよー」



 愛衣は強く竿を振り上げるのではなく、ゆっくりと上に上げていく。

 かかった魔物らしき物体は、一切の抵抗もむなしく海面にその姿をさらされた。



「「シャチ!?」」



 現れた頭部はシャチに似た色と模様を持つ魔物。けれどよくよく見てみれば胴体から尾びれにかけて異様に長く、顔も少し細長かった。

 例えるのなら、鯨の祖先であるドルドンやバシロサウルスに近いだろうか。



「うおー! いきなり大物だー! 釣りっこ愛衣ちゃんが今週から始まる予感!」

「ワンクールで終わりそうだな……。後は鎖を巻きつけるようにして竿の先を回して引き上げてみてくれ。攻撃してきたらこっちで防ぐ」

「ほーい」



 針が口先の骨を貫通し、かえしで抜けなくなったシャチモドキは、徐々に海面から引きはがされながらも暴れまくった。

 けれど愛衣の筋力値にかなうはずもなく、こちらに近くなってくる。

 その途中でようやく竜郎達を発見し、《超音波》で攻撃してきた。



「させるか!」

「さんきゅー、たつろー」



 竜郎のアンチ魔法で簡単に解除されるも、それでも唯一の遠距離攻撃なので諦めずに撃ってくる。

 それにはさすがにうっとうしくなったので、竜郎は愛衣の釣りの邪魔をしない様に控えていた雷攻撃を浴びせた。



「ギュルッ──」

「あ、気絶した。じゃあ今のうちにっと」



 抵抗が無くなった所で愛衣は竿の先をクルクル回して、糸代わりの鎖を巻き取っていく。

 すると目の前には14メートルほどの魔物がブランと垂れ下がっていた。



「う~ん……遠くから頭だけ見るとシャチっぽかったけど、近くで見ると凶悪な顔してんね」

「まあシャチじゃなく魔物だからな」



 シャチよりも細長い顔はワニにも似ていて、開いた口から見える前から後ろに向かって形が違う異歯性の大きな歯の存在感が凄かった。

 さらに目付きも鋭く可愛さの欠片もない。



「けど《強化改造牧場》で見た目を弄ればシャチに寄せられそうだな。素材を集めて魔卵を作ってみるか?」

「おおっ、シャチに乗って泳いでみたい!」

「なら決まりだ。どうせまだ時間はあるんだから、後四体探しつつララネストも探そう」

「うん!」



 そうして二人は魔物に止めを刺すと、次の獲物を探して釣竿を垂らすのだった。

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